富士山の山麓、青木ヶ原樹海[あおきがはらじゅかい]の中に位置する富岳風穴[ふがくふうけつ]は、総延長201m、高さ8.7mにおよぶ巨大な溶岩洞窟。小さな子どもでも歩きやすい横穴型洞窟で、所要時間約15分の見学コースが設けられています。今回はすぐ近くにある鳴沢氷穴とともに、ネイチャーガイドの和光恵美子さんが見どころを案内してくれました。
鳴沢氷穴の記事:
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歩きやすく幼児も楽しめる「富岳風穴」
富士山の裾野には噴火の際の溶岩流でできた自然洞窟がたくさんあります。なかでもお隣の鳴沢氷穴とともに貞観6年(864)の大噴火で生まれた代表的な洞窟が、富岳風穴です。洞窟内の平均気温は3℃と、夏でもひんやりと涼しくて快適。昭和初期までは天然の冷蔵庫として蚕の卵の貯蔵に使われていた、歴史的にもとても貴重な洞窟で、昭和4年(1929)には鳴沢氷穴と一緒に国の天然記念物に指定されました。縦穴型で道中が急勾配の鳴沢氷穴と比べ、富岳風穴は起伏がなだらかで歩きやすい横穴型。入場に身長制限や年齢制限などもなく、小さな子どもでも洞窟探検ができます。抱っこ紐で入ることもできますよ。
また、1時間や2時間などの時間制で、今回のようなネイチャーガイドツアーのコース(入洞料金は別途)が用意されています。1時間コースなら富岳風穴か鳴沢氷穴のどちらか+周辺の東海自然歩道で樹海散策。2時間のコースを選べば、洞窟をふたつとも見学できます。
服装や用意する持ち物の注意点は?
基本は長袖、長ズボンの動きやすい服装に、スニーカーなどの運動靴。階段や歩道は滑りやすく注意が必要なので、サンダルやヒールは危険です。特に夏は洞窟内と外との気温差が大きく、半袖でそのまま入ってしまうと寒いので、上に薄手のウインドブレーカーを1枚羽織るのがおすすめ。中では傘がさせないので、雨天時にも重宝します。洞窟入口にベンチが置かれているので、直前までは半袖で、ベンチで上を着て準備しましょう。
また、忘れがちなマストアイテムが帽子。洞窟内は天井が低く、頭をぶつけると切れて出血しやすい溶岩質なので、頭を守るために必ず用意しておきましょう。大人はヘルメットの貸し出しも行われています。
風穴はどうやってできたの? なぜ風穴と呼ばれるの?
風穴のでき方やなぜこの名が付いたのかなど、見学の前に知っておけばより楽しめます。今回案内してくれた和光さんが、最初に詳しく解説してくれました。
「富士山が噴火すると火口からマグマがあふれ、1000℃から1200℃の高温で溶岩が流れ出ます。溶岩流が洪水のように地表を下っていくにしたがって、空気とふれる上部から冷えて固まっていくんですね。そうすると、まだ高温で固まっていない内部の溶岩流はそのまま流れ落ちていくので、その隙間に空洞ができる。これが溶岩洞窟です。つまり、今は見学者の通路になっているトンネルは、もともと溶岩流が流れ落ちた通路の跡なのです。富士山の溶岩流は玄武岩といってとても流れやすいので、その速さは時速10kmにもなったといわれています。富岳風穴は縦穴型の鳴沢氷穴と違って横穴型なので、風が通るという意味で“風穴”と呼ばれているのですよ。」
まずは洞窟入口まで青木ヶ原樹海を散策
駐車場と隣接した起点の森の駅「風穴」から洞窟入口までは約2分、青木ヶ原樹海の中を歩きます。ここでも和光さんがいろいろ教えてくれました。
「樹海の木を触って、叩いてみて? 中がスカスカなのがわかるでしょ?」
溶岩が流れ広がった青木ヶ原樹海は、土の厚さが10cmぐらいしかありません。そのため、大きな木も根が浅くしか張れず、幹の中は空洞に近くなっています。強さもないので台風などで簡単に倒れてしまうそう。たしかに、よく見ると大きな倒木がたくさんありました。
次は魔法のステッキが登場! 先に磁石がついた棒を用意してくれていました。これで落ちている石にふれてみると……。
なんと、石がくっついて持ち上げられます! 溶岩には鉄分が含まれているので、磁石にくっついて持ち上がるのです。楽しみながら学べて子どもも大喜びですね。
洞内では天然冷蔵庫や光り苔にびっくり!
樹海の中の散策道を抜けたら、まずはチケット売り場でチケットを購入。
大人用にヘルメットの貸し出しもされていますので、借りたほうが安心ですよ。
入口手前のベンチで長袖と帽子を着用。さぁ!準備も万端です!
いよいよ洞窟の中へ。最初の階段だけは急なので、しっかり手すりを持ってゆっくり下りていきましょう。
入口階段を下りてすぐは天井が低くなっているので、特に大人は注意です。
まず現れたのが大きな氷柱! 狭い入口から急に空間が広くなることで空気が冷やされ、夏でも氷が残るのです。
氷の壁はその昔、天然氷をブロック状に切り出して積み上げて、天然冷蔵庫として使用していた文化が再現されたもの。近くで見ると本当に大きいですね!このあたりの氷は昭和初期まで関東一円に出荷されていた、とても貴重なものだったそうですよ。
続いて、縄状溶岩。溶岩が流れた際に先に冷えて固まった溶岩に、さらに溶岩が押し寄せてきてできた縄状の模様です。
そして、ここからが最深部のハイライト。昭和初期まで実際に蚕の卵や樹木の種子が貯蔵されていた天然冷蔵庫です。冷蔵することで種子をよい状態で保存でき、芽吹きがよくなる効果がありました。
「ほら、これが蚕の繭(まゆ)だよ。絹というとてもきれいな服の材料になって、昔はたくさん外国に売られていたの」
初めて見る繭に興味津々です。
さらに、洞窟の一番奥に群生しているのが珪酸華(けいさんか)という苔の一種で、「光り苔」とも呼ばれています。岩壁に張り付いて青白く光る様はとても神秘的。洞窟内にすむ微生物のエサにもなっています。
ここでまた和光さんが実験をしてくれました。
「手を叩いてみて? 洞窟の中なのに響かないでしょ。」
洞窟をつくっている玄武岩は気泡が多く音を吸収するので、声や手を叩く音が反響しません。みなさんもぜひ試してみて!
帰りはもと来た道を引き返しますが、最後の見どころを見落としがちなので注意。出口の階段手前の左手奥側にも、ひっそりと輝く氷柱が見られ、最後まで自然の神秘を楽しませてくれます。
そしてついに洞窟探検のゴール! 上りの階段も注意して、最後まで気を抜かないでくださいね。
氷柱が大きくなる冬もおすすめ
今回の訪問は夏でしたが、毎年氷柱が大きく成長する冬場もおすすめです。大きくなった氷柱がライトアップで輝く様は、とてもロマンチックで幻想的。外と同じ服装で入れるばかりか、寒冷な富士山周辺の気候の中でむしろ暖かく感じるほど。冬の富士五湖周辺観光において、穴場的な存在です。
森の駅「風穴」でご当地ソフト&おみやげを
風穴観光の起点となる森の駅「風穴」では、吉田うどん(620円)や富士宮焼きそば(620円)など近隣のご当地グルメ、おみやげなどを販売しています。
おすすめはトウモロコシ栽培が盛んなこの地域ならではの、とうもろこしソフト(400円)。コーンスープのようなトウモロコシの風味が、口いっぱいに広がります。バニラとのミックスにすればほどよい甘みも加わって、キッズもハマること間違いなし!
おみやげもたくさん揃っていますので、ぜひ立ち寄ってみましょう。
住所 | 山梨県南都留郡富士河口湖町西湖青木ケ原2068-1 |
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問合先 | 0555-85-2300 |
料金 | 入洞大人(中学生以上)350円、子供200円(鳴沢氷穴とのセット券は大人600円、子供300円。ネイチャーガイドは1時間8000円~/要予約) |
営業時間 | 9~17時(季節変動あり) |
定休日 | 無休(12~3月は不定休) |
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