
子育て中のママパパの中には、自身の仕事やキャリアについてもお悩みを抱える方が少なくありません。2025年8月に開催された「子育てをもっと楽しむキャリアセミナー」では、日ごろは別モノと切り離して考えがちな「仕事」と「子育て」がトークテーマとあって、関心を持つ多くの働くママパパが参加しました。
当記事では、非認知能力の第一人者である中山芳一先生と、株式会社日本マンパワーの水野みちさんによるトークセッション「子育てにも仕事にも活かせるキャリアコンサルタントの学び」の内容をお届けします。
※当記事は、2025年8月開催「子育てをもっと楽しむキャリアセミナー 第一部 体験を通じて子どもを伸ばす“関わり方”とは?」から構成しています
中山芳一先生
JTB-OYACONET事業アドバイザー。All HEROs合同会社代表。IPU環太平洋大学特命教授。元岡山大学教育推進機構准教授。1976年1月、岡山県生まれの 3児の父。「非認知能力」実践研究の第一人者であり、行政機関や各法人にかかわる役職多数。TBSドラマ「御上先生」の教育監修も行う。
水野みちさん
株式会社日本マンパワー キャリアコンサルタント養成講座 プログラム開発担当。米ペンシルバニア州立大学 教育学修士(カウンセラー養成プログラム修了)。CDA/国家資格キャリアコンサルタント。1974年生まれ、1児の母。キャリアコンサルタントの養成、企業内キャリア開発・組織開発に従事。共著「IDGs変容する組織」。
子育てとキャリアコンサルタントの共通点

今回のトークテーマである「キャリアコンサルタント」と「子育て」には、どんな共通点があるのでしょうか?
ハローワークや大学などのキャリアセンターで活躍するキャリアコンサルタント。「仕事探しをサポートしてくれる」人というイメージがありますが、その本質は、相談者に寄り添い自己概念の成長を促す支援をすること。コンサルタント養成に必要な「傾聴」や「キャリア理論」といった手法は、実は子どもへの関わり方にも活用できることが多くあるといいます。6つの具体的な実践方法を教えてもらいましょう!
①「傾聴」で子どもの気持ちに寄り添う

「傾聴」とは、相手の話しに注意深く耳をかたむけ、相手の気持ちや考えを深く理解しようとするコミュニケーションのこと。キャリアコンサルタントの養成講座では、相談者の話を、「耳と目と心で聴く」ように教えられるといいます。
◆子育てシチュエーションでは…
- 子どもが「勉強がつまらない」と言ったときに、「そう言わずに勉強しなさい」と返すのではなく、「つまらないって、どんなときにそう感じるの?」「楽しいってどういうこと?」と掘り下げて聴く。言語化できない子には、カードで選んでもらう。
- 子どもが感情的になったときは評価やアドバイスを急がず、「そう感じたんだね」と気持ちを受け止める。
自分をありのままに受け入れて肯定する自己受容感を育むには、子育てにおいては、抱っこなどの触れ合いをとおして自分の存在を丸ごと受け止めてもらうという状態がとても大切です。自分の話しを傾聴してもらうことは、まさに自分自身を受け入れてもらう感覚と同じ。
「子どもの成長に合わせて接し方は変えていく必要はあります。まさに、“赤子のうちは肌を離すな、幼児のうちは手を離すな、少年のうちは目を離すな、青年のうちは心を離すな”という言葉のとおりです」(中山先生)
水野さんがキャリアコンサルタントの仕事をしていて感じるのは、「大人が自分の気持ちを聴かれ慣れていない」ということ。
「自分の感情を脇に置いて仕事をするのが当たり前になっていると、子どもの気持ちに寄り添うよりも正しいことを教えなければ、となってしまう。それよりも前に、まずは子どもの感情をきちんと聴いてあげたいですね。感情を言葉にするのが苦手な子どもには、感情や求めているものが書かれたカードを使用するのもおすすめですよ」(水野さん)
【Point】
傾聴すると、子どもは「ちゃんと話を聴いてもらえる」という安心感を持ち、自分の気持ちを整理できるようになる。
②「キャリア理論」の応用:小さな体験&意思決定も「成長の糧」

キャリア理論とは、生き方や働き方に関するさまざまな考え方や方法をまとめたもので、自分の理想を目指す上での指針となるもの。キャリア理論の考え方を子育てにあてはめると「小さな体験も意思決定も、子どもの成長につながる」ということになります。
◆子育てシチュエーションでは…
- 小さなステップに落とし込みながら、子どもの行動を整理する。
- 子どもが友達関係で悩んだときは「社会性を育てる大事な経験」と捉え、一緒に考える機会にする。
- 部活や家での「役割」(皿洗い・ペットの世話など)も「将来の自己理解」につながる経験とみる。
大きな目標を小さなステップに分割し、ひとつずつ着実にクリアしていくことで最終的な目標達成を目指す「スモールステップ」という方法があります。
「大人はなんでも大きなステップで考えてしまいますが、小さなステップに落とし込んでみると、子どもながらにできていることが実はたくさんあることに気づけます。子どものサッカーで例えると、いきなり試合に出ることを目標にするのではなく、今日はボールに何回触れられた、お友達のプレーに関心を持てたといった目線で見てあげることで、よりていねいな声がけができるようになります」(水野さん)
「スモールステップにすると、成功体験を積み重ねられるからモチベーションの維持にも◎。また、子どもに何か提案するときに“30分もやらなくていいから5分だけ付き合って”と交渉するのも時間軸のスモールステップになります。時間も場所も距離も強度もなんでもスモールステップにすると、気持ちのハードルが下がってチャレンジしやすくなる。今の自分には難しいと感じる大きな目標に挑戦するときも“まずはこれだけやってみよう“と、自分との交渉にも使えるようになったら強いですね」(中山先生)
【Point】
スモールステップは日々の出来事に意味づけができ、子どもの成長を前向きに捉えやすくなる。
③自己理解・自己決定のサポートで、子どもの「自律」を目指す!

親などの援助なしに自分で生活することを指す「自立」ではなく、ここでいう「自律」は主体的に考えて目標を設定し、その実現に向けて行動することを意味します。「自立」の前に「自律」を目指して、自己決定を促す関わり方を意識しましょう!
◆子育てシチュエーションでは…
- 習い事を選ぶとき、親が決めるのではなく、子どもと一緒に「なににワクワクする?」「どうしてやってみたいの?」と話し合いながら選ぶ。
- テストの結果が悪かったときも「どうしたらいいと思う?」と本人の考えを引き出す。
特に大切なのは、子ども自身に考えてほしいと思いながらも、親は無意識に自分の考えを押しつけてしまいがちだということ。
「テストの点数が悪いときなどは、親もがっかりしてつい言わなくてもいいひとことが出てしまうこともありますよね。自分の気持ちは切り離して、子ども自身がどうしたらいいと思うかを引き出すことを意識したいですね」(水野さん)。
「失敗から学ぶための振り返りも大事ですが、“いったい何をやっていたの(怒)!!”と過去のことばかり責められると大人でもキツいものです。どこが悪かったのか(フィードバック)とセットで、これからどうしたらいいか(フィードフォワード)を一緒に考えてあげると、失敗を次につなげることができるのでおすすめです」(中山先生)
【Point】
自律を促す声かけやサポートは、親の感情から切り離し、結果に対しても意識をすると、次の行動への動機付けにもなり、主体性が高まる。
④「発達段階」を理解すれば、思春期も怖くない!

キャリアコンサルタントは、より効果的な支援を行うために相談者の状況や段階への理解が大切ですが、それは子育てでも同じこと。「どう関わればいいのかわからない」と感じる思春期こそ、親が子の発達段階の理解を持って冷静に対応することで信頼関係が保たれます。今のうちから心の準備を!
◆子育てシチュエーションでは…
- 思春期に入ってきた子どもが親の言うことを聞かなくなるのは「反抗」ではなく、「自立に向けた発達段階のひとつ」と理解する。
- 自立したい気持ちとまだ甘えたい気持ちが交差する時期だと捉え、突き放すのでもなく干渉しすぎるのでもなく、「見守る」スタンスを意識する。
「そもそも親子は対等な関係。親は子どもが18才になるまで守らなければいけない保護者としての責任義務がありますが、“子どもを守ること”と“自分の所有物と考えること”は全く違います。親は言うことを聞かせる側、子は言うことを聞く側と勘違いしてしまうと反抗につながるのでは」(中山先生)
また、自立したい気持ちと甘えたい気持ちが交差する時期の関り方については、
「子どもたちは依存しながら自立していくものだし、依存を受け入れるのも自立を促すのも親の役目。親は自分からガツガツいかずに、“困ったときはいつでもおいで”という状態を作っておくことが理想です!」(中山先生)
水野さんは仕事の悩みをお子さんに相談したときのエピソードから、「たまには子どもや部下に頼ることも、良好な関係性に一役買ってくれます」とのこと。このアイディアに中山先生も「学級経営や集団づくりが上手な学校の先生も、生徒が一番のパートナーと言う方が多いです。みんな真っ先に子どもたちに相談しますよ」と賛同していました。
【Point】
思春期という発達段階を理解して、感情的にならずに対応を。見守るスタンスをベースにしながら、ときには子どもに頼るのも信頼関係を築く一助に。
⑤子どもの「価値観や強みを見つめる」関わり方とは?

キャリアコンサルタントは、その人らしい生き方や働き方を実現する支援を行うために、相談者の日々の経験や悩みをとおして、その人の価値観や大切にしていることを読みときます。子どもの話しも同じようにして聞くことで、子どもが大切にしたいこと、関心を持っていること、伝えたい話しの本質など、子どものことをより深く見ることができます。
◆子育てシチュエーションでは…
- 子どもが得意なこと・好きなことに目を向け、「どうしてそれが好きなんだろうね?」「それをするとどんな気持ちになるの?」と対話を重ねる。
- 失敗したときも、「こんな工夫してたよね」と強みにフォーカスする。
「こういったていねいな対話をすることで、好きなことや得意なこと、行動にあらわれる表面的な部分だけではなく、その好きを支えている根っこの部分も見えてくる。自己肯定感の育みにおいても、とても大切なことです」(中山先生)
「失敗は子どもなりに考えてやった結果なので、“それでもひとりでやってみたかったんだね”など、ポジティブな面や子どもの価値観に着目するのが大切ですね」(水野さん)
【Point】
子どもの強みや価値観が理解できると、子どもは「自分には価値がある」と感じやすくなり、自己肯定感の土台が築かれる。
⑥自分自身のことを理解しよう!

キャリアコンサルタントは相談者の自己理解を促すことが大切な役割のひとつですが、子育てにおいては、親として自分自身を客観的に見て理解することも大切です。
◆子育てシチュエーションでは…
- 「なぜ私は、子どものこんなところに動揺するのだろう?」「腹が立つのだろう?」と自分のことを問う。
- 子どもと自分が違う人格の持ち主だということを理解する。そのために、まずは「自分のこと」を理解する。
「親子関係のキモは、自分と子どもが別人格であることをどれだけ理解できるかだと思います。子どもと適切な距離感を保つためにも、親自身が振り返って自分の言動をコントロールすることが大切。100点満点の親なんていません。子どもに対して言いすぎたと思ったときは、素直に“ありがとう”と“ごめんなさい”が言えればいいのでは」(中山先生)
「授業参観に行ったりすると、ほかの子に対してすごいな、羨ましいなと感じることもありますが、子どもに求めることは人によって違うし、ほかの人から見ると実はわが子のこんなところが良く見えていた、と気付かされることも。親が自分の気持ちと向き合うということも大事ですね」(水野さん)
【Point】
自己理解が出来ると、相手のことを「見たいように見る」のではなく「ありのままに」見ることができるようになる。その結果、子どもが「理解してもらえた」と感じやすくなり、対話が生まれる。
セミナー参加者の声

非認知能力に関心があり、中山先生の話しを直接聞きたいと参加してくれたTさん。
「今回のセミナーに参加して、改めて子どもの成長に合わせて自分も成長することが大切だと感じました。また、「傾聴」「振り返り」「自己理解」など、子育てで大切にしたいことが、仕事にも活かせるのは新たな発見でした」とコメントしてくれました。
子育てと仕事を対立させず、活かしあう
子育てと仕事の両立は大変なことが多く、必死に毎日をこなしているママパパばかりです。そして、熱心に子育てに向き合うがあまり、子どもが優先で、案外親は自分の心と向き合うことを後回しにしがちです。
けれど、子どもが成長がしてい日々は、同様に親自身の人生も進んでいます。子どもとより深く向き合うのには、親も自分と向き合い自己理解をする大切さに、多くの参加者がうなずく姿が見られました。
子育てと仕事を対立させ負担にしあうのではなく、どちらもまたとない貴重な経験であり、かつ、双方に活かしあえる。その視点をもってみると、より主体的に明日からの子育て、仕事、そして「自分」に向きあえそうですね。
また、自分のことを学びながら子どものことを理解するのにも役立ち、国家資格を目指すこともできるキャリアコンサルタントの養成講座に興味のある方は、株式会社日本マンパワーの公式サイトをぜひチェックしてみてください。
▼こちらもおすすめ!
» 非認知能力とは?体験を成長につなげる方法
Sponsored by 株式会社JTB(OYACONET事業)