子どもの視力低下や近視が増え、眼鏡をかけている子どもが増えています。子どもたちは、ゲームやスマホ、動画視聴につい夢中になりがち。近視や遠視、乱視など、目のトラブルへの影響が気になりますよね。子どもの目を守る予防方法を、眼科医の森紀和子先生に聞きました。
森 紀和子先生(麹町大通り眼科院長)
福島県立医科大学医学部卒業。信州大学医学部眼科学教室を経て、近視研究のため慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程入学。同大学院修了、医学博士。慶應義塾大学眼科学教室特任講師。現在は臨床、近視抑制法に関する研究を中心に行っている。2023年4月、麹町大通り眼科を開院。
子どもの視力低下、近視が低年齢化
近視が爆発的に増、東京都は12歳の9割以上が近視?
いま、近視の子どもがとても増えています。厚生労働省の報告によると1978年度の裸眼視力1.0未満のこどもの割合は、小学生で16%、中学生で33%でした。2019年度になると、小学生34.6%、中学生57.5%に。小学生ではほぼ倍増しているのです。
出典:Matsumura H et al., Surv Ophthalmol. 1999
Yotsukura E, Torii H et al., JAMA Ophthalmology. 2019.
近視の発症数が年々増えていることを示す別のデータもあります。中学校に入学した12歳の子どもの近視有病率の比較です。1989年から1991年に入学した子では43.5%でしたが、2017年に入学した子では94.9%。つまり、12歳の子どものほとんどに近視があったのです。
近視とは、見たものが網膜の前にずれて焦点があってしまう状態で、裸眼視力が1.0未満になってしまう大きな原因になります。最近、診察していて感じるのは、近視の発症年齢の低年齢化。裸眼視力が1.0未満の子どもの数がぐんと増えており、その理由のひとつとして近視の増加があげられます。
原因は、ゲームや動画視聴のせい?
視力低下や近視の原因として、スマホやタブレットで動画を見たり、ゲームをしたりすることが大きな影響を与えているのは間違いありません。
出典:Saxena R et al., 2015
ゲームの時間と屋外で過ごす時間がどのくらい近視と関連しているのかを示したインドの研究があります。ビデオゲームを週4時間以上する子どもの場合、ゲームをしない子に比べて近視のリスクが8.1倍高くなる、さらに、ゲームをする時間が長ければ長いほど近視のリスクが高まると報告されています。
一方で、週に14時間(1日に2時間)屋外で遊ぶ子は、そうでない子に比べて、近視のリスクが0.2倍に下がるという結果が出ています。
近視は遺伝+環境要因
親子で顔の形や手の形が似るように、眼球の形も似る傾向があります。眼球の形は、近視や遠視・乱視といった屈折異常に強く結びついています。そのため、近視などの屈折異常がない親ならその子どもも同様に屈折異常になりにくく、近視が強い親の場合は、その子どもも同様に近視が強い傾向になるといったように、遺伝的な要素が非常に強いのです。
一方で、遺伝要素だけでなく、環境要素も大きく影響してきます。遺伝要素と環境要素が絡み合うと、近視は相乗的に強くなることがわかっています。つまり、親も近視があり、なおかつ近視を進ませるような生活環境や習慣がある子は、近視がどんどん進んでしまいます。
逆に、遺伝があっても環境に配慮すれば、近視は進行しにくくなるのです。
子どもの目にとって重要な時期は6〜8歳頃まで
生まれたばかりの赤ちゃんの目はまだほとんど見えておらず、ぼんやりした世界です。その後、1〜4歳で視力は急速に発達し、1.0に近づくのは3~5歳前後といわれています。さらに、左右の目で見た情報を合わせ、頭で理解できるようになるのが6〜8歳ごろ。つまり、生まれてから小学生の間は、子どもの目にとってとても重要な時期なのです。
近視の発症年齢が早いほど、強い近視に
ところが今、視力が完成される前の4〜5歳の時点でゲームをし、外で遊ぶ機会が少ないお子さんがたくさんいます。そのため、小学校入学時にすでに近視がみられることも少なくありません。
近視は発症年齢が早ければ早いほど、強い近視になっていく傾向があります。さらに近視が進みすぎると、将来的に失明につながるような目の病気を合併する可能性が高くなります。ぜひ、幼少時から近視が進まないような生活を心がけをしていきましょう。
近視の進行を防ぐ、とっておきの対策
近視の進行を予防する「外遊び」
近視を防ぐためには、ゲームの時間を短くする、早寝早起きで睡眠時間をしっかりとる、遠くを見るなどして目を休ませるといったことも大切です。でも、それよりももっと簡単で効果があるのが「外遊び」です。
日中、屋外で日光を浴びることが近視を予防するということがいま、明らかになっています。たとえば、屋外にいる時間が長いと、ゲームや勉強など近くを見る時間が長くても、近視発症率が上がらないという報告(Rose et al., 2008)や、屋外にいる時間を1日2時間以上確保すると近視の発症リスクを下げるという報告(Jones LA et al., 2007)があります。
近視を抑制するポイントは、日光の波長と明るさにあります。日光にはいろいろな波長が含まれています。その波長をバランスよく受けることが大事なのです。そして日光は、室内の蛍光灯などとは比べものにならないほど明るいもの。この明るさが目にとって、いこい効果をもたらしています。難しいルールはありません!以下にポイントをまとめます。
<視力低下・近視を予防するポイント>
- 週14時間(1日2時間)屋外で過ごす(学校の休み時間での外遊びや、体育の授業もカウントしてOK)。
- 空を見上げなくても、ただ外にいるだけでOK。
- 日陰でも、曇った日でも効果あり(ただし雨の日や寒い日は無理をせず屋内で過ごしましょう)。
- 直射日光を浴びる必要はない(熱中症や日焼けに注意)。
- 外出せずとも、家のベランダで遊んでもOK。
- 窓ガラスは効果的のある波長を遮ってしまう場合があるので、屋外に出ること。
目にとって外遊びは想像以上に効果的。外で遊ぶことが目のお休みにつながり、体も心も目も健康に!ぜひ親子でどんどん外に出かけましょう。
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メガネをかけさせるタイミングは?
まずは眼科を受診!
子どもにメガネをかけさせるべきか、かけさせるとしたらどんなタイミングで?と迷う親御さんもいます。まずメガネを検討する前に大切なことは、気になることがあったり、学校の視力検査で引っかかったら眼科を受診すること。
学校の眼科検診では、上図のように、視力をA、B、C、Dで評価します。よく「B判定なら受診はしなくてもいいですか」と聞かれることがありますが、B判定でも受診をしてほしいと思います。なぜなら、これから近視が進む可能性があるからです。
そのほかにも眼科を受診することで、近視と思い込んでいたけど遠視や乱視だった、網膜に疾患があった、角膜に傷がついていて見えていなかったなど、いろいろな原因がわかる可能性があります。なかには、裸眼視力で1.0以上見えているからと安心していたら、軽度の遠視で遠くが見えていただけだった、ということもあります。
とくに小学校低学年までの間は、目と脳をつなぐパイプが作られていく時期としてとても重要です。この時期に見づらい原因があると、手遅れになることもあります。早い段階で視力が落ちている原因を眼科でしっかり確かめ、対策をとることが重要なのです。
そのうえで「メガネが必要」と診断されたら、メガネをかけましょう。メガネが必要ということは、「ものを見るときになにかしらの補正が必要」という意味だからです。しっかりとものが見えることは視力の発達に重要であり、補正をせずにものを見続けていると、生涯視力が低下したままになる可能性もあるのです。
メガネはずっとかけていないとダメ?
子どもの場合、メガネが必要と診断されたら、基本的には日中は付けたり外したりせず、ずっとかけていたほうがいいでしょう。メガネは視力を適正に保つために重要なものであり、付け外しはできるだけ避けましょう。また、付け外しによってメガネに損傷をあたえるきっかけとなることもあります。
子どもの目の異変に気づくポイント
<近視が進行しているサイン>
- 見えにくそうに目を細める
- 目つきが悪い、横目で見る
- 黒目の向きが変
- 目をこすってばかりいる
- 上目づかいをする
- テレビや本などを見るときに顔を近づける
- 目をパチパチさせる、目をたたくしぐさをする
- 勉強をするときなどの姿勢が悪い
以上のようなサインがあったら要注意。近視の子どもは近い距離は見えているため、家の中にいるときは異変に気づかないことが多いもの。じつは、このような変化に気づいたときには、かなり近視が進行している可能性があります。
近視を早期発見するためには、外に出たときに子どもの様子をよく見ること。「あそこに鳥が飛んでいるね」「あの看板に何て書いてある?」などと質問してみると、見えているかどうか気づきやすいでしょう。
室内では極端に姿勢が悪くなったときに気づくことが多いようです。近視が強くなると、もっとよく見ようとして、姿勢が悪くなります。机に顔がくっつくほど近づけて勉強しているお子さんもいますが、「近くに寄る」行動は、近視をより進めてしまいます。椅子に座って何かを読んだり書いたりするときは、机と目との距離を30cmはとりましょう。
近視を進行させないためには、普段から学校の検診以外に眼科で定期検診を受けることをおすすめします。小児眼科でなくても、ママパパがかかったことのある眼科でも問題ありません。そして、先述のように、親子で外遊びをいっぱいして、子どもとの時間と、子どもの健康な目を大切に育んでください。