子どもの習い事は、いつから何を始めるのがいいのでしょうか。できるかぎり、わが子の能力をめいいっぱい伸ばしてあげたいのが親心ですよね。脳科学者の瀧靖之先生によると「脳の発達の時期に合わせた働きかけが効果的です」とのこと。年齢別のおすすめと、習い事を、より有意義な成長体験にするポイントも教えてもらいました。
瀧靖之先生の記事
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(監修)瀧靖之先生(東北大学加齢医学研究所教授)
医師。医学博士。東北大学加齢医学研究所および東北大学東北メディカル・メガバンク機構で脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究に従事。読影や解析をした脳MRIはこれまで16万人以上にのぼる。著書に『アウトドア育脳』『「賢い子」に育てる究極のコツ』など。一児のパパ。 写真:黒澤義教
1.脳の発達からみる習い事の始めどき
人間の脳は、それぞれの領域によって、発達の時期が異なります。発達のピークに合わせて刺激を与えてあげると、より良い成長を促したり、効果的に能力を伸ばすことができます。
0歳~2歳代:親子で一緒に過ごすことが最重要
生後まもなくは、見る・聞く・ぬくもりを感じるなどの「五感」の領域が発達します。赤ちゃんを抱きしめ、目をみて笑顔で語りかけたりすることが、何よりも良い刺激となります。
6カ月頃~2歳頃は、「言語」の関連領域が発達。聞こえる音を、言語かそれ以外かを認識し始め、やがて発語の時期を迎えます。この時期は「本の読み聞かせ」がとても効果的です。言葉のリズムを感覚で覚え、好奇心も芽生えていきます。
<この時期のおすすめ>
- まずは親子の愛着形成がとても大事な時期。愛着形成は、のちの好奇心の育みへの土台に。
- おうちでできる「本の読み聞かせ」は特におすすめ。
- もし習い事を始めるなら、親子で一緒にできるベビースイミングや手遊び教室など、スキンシップを楽しめるものを。
3歳~5歳頃:スポーツ・楽器が最適
3歳をすぎると、「運動」に関わる領域が発達します。指先の動きや器用さ、バランス感覚が身につきやすい時期なので、スポーツや楽器を始めるのに最適です。本格的でなくても大丈夫。少しでも運動や芸術分野のことに触れさせてあげると、興味や好奇心につながります。
<この時期のおすすめ>
- スイミング、体操教室、ダンスなど、年齢的に無理なく楽しめる全身運動がおすすめ
- ピアノやバイオリンなど、楽器習得のベストタイミング
6歳以降:チーム競技や学習系も
小学校に上がる頃から、思考力・判断力・計画力・コミュニケーション力といった「高次認知機能」が発達していきます。ルールを理解したり、チーププレーも楽しめるようになりますね。
また、8歳ぐらいからは「言語野」の発達がピークを迎えます。外国語も効率よく習得できる時期です。乳幼児期の英語教育への関心も高まっていますが、日本語の土台がつくられてからの方が、効率よく英語力が身につくといわれています。
<この時期のおすすめ>
- あらゆるスポーツや芸術。チーム競技も可能に
- 将棋・囲碁・プログラミングなどの頭脳学習
- 外国語の習得など
時期を逃しても、心配しないで!
「楽器をやらせたかったけど、もう6歳になってしまった」などと心配されている方もいるかもしれませんが、大丈夫です!能力がもっとも伸びやすい時期に習い事をスタートするのはとても効果的ですが、時期を逃したらダメということでは決してありません。
人間の脳には「可塑性(かそせい)」と呼ばれる力があり、何歳でも変化することができます。子どもに限らず、大人になってからでも、新しいことを習得するのは可能です。ただし、あるレベルに達するための努力の時間が、少し長くかかるというだけなのです。
子どもが自ら、何かを「やってみたい、習いたい」と好奇心をもった時は、年齢を問わず、それは「始めどきのタイミング」。知的好奇心は、ものごとの習得や上達への大きな近道です。
2.習い事を、より効果的な体験にするには
「知的好奇心」がカギ!
子どもが何かを習得するときに大事なのは「知的好奇心」=ものごとに興味をもち、ワクワクして取り組む気持ちです。実は、知的好奇心には記憶力と相関関係があります。「好き! 知りたい!」という気持ちで意欲的に取り組むほど、記憶力が高まり、学習が定着しやすいことが科学的に実証されているのです。
知的好奇心を育むためには、習い事を始める前も始めてからも、いろいろな刺激を与えてあげること。特に5歳ぐらいまでは、一つのジャンルにこだわらず、いろいろなことに触れさせてあげるのが良いと思います。
実は、人間の脳の神経細胞の数は、生まれた瞬間が最大なんです。その後、神経細胞同士をつなぐ回路(シナプス)がたくさん作られることで脳が成長するのですが、よく使う回路はより太く、あまり使わない回路は壊していく、という作業を繰り返していきます。
ですから、回路がさかんに作られる幼少期に、さまざまな体験や刺激を与えてあげることが大切。脳の成長をぐんぐん促し、知的好奇心も育んでいきます。
子どもは「まね」から学ぶ!親も一緒に楽しみましょう
子どもの能力の獲得は、基本的には模倣(まね)です。人間の脳には、まねに特化したミラーニューロンという神経細胞があります。言葉を話すのも、箸を持つのも、社会的ルールを守るのも、子どもはまねから学びます。さらに、子どもはもっとも身近な人のまねをするもの。
ということは、「子どもに習い事を楽しんでほしい、意欲的に取り組んでほしい」と願うならば、親自身も一緒に意欲的に楽しむことが一番です。
親が未経験でも、上手でなくても良いのです。気負わずに、子どもの習い事に親も興味を持ち、一緒に楽しんでみてください。何を習わせるか迷っている段階なら、「親が好きなこと」という視点で選んでみるのも大いに良いと思います。
私は小学生の息子と一緒にピアノを習っています。自分の方が夢中になって楽しんでいると、競うように子どもも頑張るので、ぐんぐんと上達していきます。自分自身の脳の老化予防にもなり、一石二鳥ですよ。
3.0より1の経験が力に
習い事を始める前に、「長続きするかしら」「身にならなかったら」とつい心配してしまうのも親心ですが、まずは体験してみる、始めてみるのが良いのではないでしょうか。
物事は0と1の差が究極に大きいので、まったくやってないよりも、ちょっとでもやっておくのがいい。子どもは飽きるのが早い場合がありますが、たとえ短期的にしか続かなくても、少しでも経験をすることは、脳に必ずプラスになります。一瞬でも何かに熱中した時間は、子どもにとっては貴重な時間だと捉えてあげたいですね。