美術館に行きたいけれど足が遠ざかっている親御さん、多いのではないでしょうか? 「騒いではいけない」「展示物に触れてはいけない」といったルールは、特に未就学児の子どもだと、しっかり守りきるのは難しいもの。
現在森美術館で開催中の「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」でおこなわれているのは、展覧会場内に託児所をつくることで、気軽に美術鑑賞をしてもらいたいという取り組みです。子どもが泣いてももちろん大丈夫。しかもこの展示、3歳の子どもと一緒に見て回ってもたっぷり楽しめました。
「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」って?
当展覧会は、アーティスト・コレクティブ「Chim↑Pom」による初の本格的回顧展。作品の主題は日本社会・飽食と貧困・原爆・震災など多岐に渡り、いずれも社会に切り込んだメッセージ性の高さが特徴です。
これだけ読むと、「小さい子どもは理解が難しいのでは?」と思いますよね。でも、ちゃんとしたメッセージがわからなくても大丈夫。子どもは独自の楽しみ方をしていましたし、そういった多視点がこの展示では歓迎されている。そんな空気もあって、親も肩肘張らずに鑑賞できます。
実際に子どもと鑑賞してみた
今回一緒に鑑賞したのは3歳9か月の男子。鉄道が大好きで、博物館には行ったことがありますが、美術館を訪れるのははじめてです。「美術館に行くよ」と言っても、あまりピンときていない様子。
森美術館「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」 会場入口
長いエスカレーターを乗ると、早速入り口にありました。明るい雰囲気の「くらいんぐみゅーじあむ」。
託児所「くらいんぐみゅーじあむ」は、クラウドファンディングによって実現したプロジェクト。なかなか美術館でのびのび鑑賞できない子育て世代の事情を汲んで、「『くらいんぐみゅーじあむ』は美術館の泣き声」と、子どもの存在を肯定的に見出す場所を作り出しました。
利用可能な期間は、金・土・日曜日の10時~15時まで。基本的に予約が必要ですが(当日空きがあれば、予約無しでも利用可能)、なんと無料です。
予約時間はもう少しあとなので、先に子どもと一緒に展示室内に入ります。
《ビルバーガー》2018年
室内はこんな感じ。実は怖がりな性格もあって、入る直前、萎縮してへばりついていた子どもでしたが……。
展示風景 「都市と公共性」のセクション
不思議な空間が広がっているのを見るやいなや、ひとりですたすたと展示室の奥へ。
「どうして壊れてるのかな~」と、破壊された建造物の前にそびえたつネズミ『スーパーラット』を指さして不思議そう。
《堪え難き・を堪えるスーパーラット―Sukurappu ando Birudo― 森美術館バージョン》(2017/2022年)
少し高い位置にあるので抱っこしてあげると、「あっ、〇〇が壊れてる!電車も壊れてる!」と、大人が気付かないような細かな破壊物をあげてどこか嬉しそうにしていました。
「あれはなに~?」
「ハンバーガーがはさまれてる!」
「これ触ってもいい?」
「実はね、ここには『触らないでください』って書いてあるの」
「そっか~」
それからは、近くにプレートが貼ってある作品は、字が読めなくても「さわっちゃだめなんだよね」と大人しく観察していました。
穴を発見!上部の展示《道》に繋がる階段は、子どもたちに大人気。
他にいた子どもたちもみんなこの穴を見つけてのぼっていましたが、興味を誘うような絶妙なスペースでした。体力のない大人は少し苦労しながら上部へ。
《道》(2022年)
上層部はこんな感じのアスファルトの空間が広がっていました。色々気になるものが点々と。奥にある巨大なゴミ袋は、この展示の目玉のひとつでもある《ゴールド・エクスペリエンス》(2012/2022年)です。
「これなーにー?」
なんだろう? 服と、実のようなものが打ち捨てられています。
大人が教えるだけでなく、子どもと一緒に考えられる展示が多数あるのも特徴です。
マンホールの穴は覗いてみると、一見真っ暗。
《稲岡展示居士》(2009年)
角度を変えると、修行僧が座っていました。子どもは、普段マンホールは蓋が閉まっているもの、という考えと人がいたという驚きから、隠さなきゃ!と思ったらしく、蓋を持ち上げようと焦る場面も。
閉めたら真っ暗になっちゃうからそっとしておこうね、と言うと、素直に納得して「バイバイ」と挨拶していました。
「ヒロシマ」のセクション内にある参加型のアート《ノン・バーナブル》(2017/2022年)では、一度折られて広げられた折り紙を、ふたたび折り鶴にすることができます。子どもはくるくると楽しそうに巻きものに。
《パビリオン》(2013/2022年)
巨大な折り鶴の山が積み上げられた《パビリオン》(2013/2022年)には、中に入って折り鶴に囲まれるという体験もできます。間近で見上げる景色は圧巻のひとこと。子どもは怖気づいて入らなかったのですが、気になる人はぜひ現地に行ってみてください!
映像作品が気になってみたり。
今回、意外にも、一番大人しくじっと鑑賞していたのがこちらの作品。
展示風景 「東日本大震災」のセクション
福島第一原子力発電所の事故が起こってから約1か月後に、発電所から700メートルほど離れた東京電力の敷地内で撮影した映像作品《リアル・タイムス》(2011年)。事故のことはわからなくても、道中の地面にあった亀裂や陥没を不思議に思ったようで、子どもなりに思うところがあったのかもしれません。
まだまだ見どころは沢山ありそうでしたが、子どもの集中力がそろそろ切れてきたのもあって、託児所へ!
「くらいんぐみゅーじあむ」は本格的な託児所
《くらいんぐみゅーじあむ》入口
入り口に戻って、いよいよ《くらいんぐみゅーじあむ》へ。託児所といっても無料ですし、なんといっても展示室内にあるアート・プロジェクトのひとつです。どのくらいの規模なんだろうと気になりませんか?
スペースはこのような感じ。
10畳ほどのスペースに、絵本や知育玩具など、子どもたちが喜びそうなおもちゃがずらり。保育士の方は通常二人いて、受け入れ人数に関しては予約児童の年齢によって判断しているそうです。
最初は保育士さんが「遊ぼう」と言って作ってくれたブロックの車庫を遠巻きに見ていた、人見知りの3歳。
ものの1分ほどで、打ち解けて一緒に遊んでいました。さすがプロ!
次は何で遊ぼうかな?
預け希望の時間は事前予約の際に記入しますが、30分から1時間くらいはゆうに遊んでいられるのではないでしょうか。例えば子どもと一緒に30分展示を楽しんだあと《くらいんぐみゅーじあむ》に預けて、もう一度じっくり見たいところは大人だけで30分、といった鑑賞もできちゃいます。
【くらいんぐみゅーじあむ】
営業時間 | 10時~15時 |
---|---|
営業日 | 会期中(5月29日まで)の金・土・日曜 |
対象年齢 | 0歳3か月~小学校6年生 |
料金 | 無料 ※基本事前予約制(空きがある場合は当日予約なしで利用可能)。 また、希望日の2週間前から予約可能。土日の利用申し込みは金曜の17時まで。 詳細は申し込みサイトへ |
URL |
https://cscs.alpha-co.com/event_yoyaku_kihon_form.jsp?E=2620756*3K8wQ |
美術館へ行こう!
展示風景「エリイ」のセクション
美術館に行きたいけれど子連れだと躊躇してしまう、子どもの美術館デビューの機会を探している……そんな人は、ぜひ一度森美術館「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」を選択肢に入れてみてくださいね。
【Chim↑Pom展:ハッピースプリング】
期間 | 5月29日(日)まで |
---|---|
営業時間 | 月・水~日 10時~22時(最終入館21時30分)、火 10時~17時(最終入館16時30分)※5月3日(火・祝)は22時まで |
定休日 | 会期中は無休 |
料金 | (平日・当日)一般 1,800円、高・大学生 1,200円、4歳~中学生 600円 (平日・オンライン)一般1,600円、高・大学生 1,100円、4歳~中学生 500円 3歳以下無料 |
URL |
●掲載の情報は予告なく変更になる場合があります。おでかけ前に各スポットへご確認ください。
●旅行中は「新しい旅のエチケット」実施のご協力をお願いします。