「美術館に行きたいけど、子連れは迷惑かも…」と思いとどまっているママパパも多いようです。ですが、美術館は本来、子どもウェルカムな場所!お出かけ前のちょっとした準備や鑑賞のコツを、美術ライターの浦島さんに教えてもらいました。ぜひ親子で一緒に美術館を楽しみましょう。
浦島茂世さん
美術ライター。大学では美学美術史を専攻。1920年代の西洋美術・工芸について学び、博物館学芸員免許も取得する。現在は雑誌やWebでの執筆のほか、情報サイトAllAboutの美術館ガイドなど幅広く活躍中。著書に『東京のちいさな美術館めぐり』(ジービー)、『企画展だけじゃもったいない 日本の美術館めぐり』(ジービー)など。文化庁文化審議会博物館部会委員のほか、美術講座講師なども務める。
美術館、子どもは何歳から楽しめる?
美術館は「大人の場所」というイメージが強く、子どもと行くことに躊躇してしまいがち。何歳ぐらいからokなのでしょうか?
美術館は教育機関、子どももokです
「美術館や博物館は、社会教育法では“社会教育施設”という位置付けなので、本来、子どもにもウェルカムな場所なんですよ」 (浦島さん 以下同)
それを知ると、一気に敷居が下がる気がしますね! 浦島さんによると、ここ最近は子どもたちへの裾野を広げようとしている美術館も増えているそうです。
「“子どもにきてほしくない”という美術館はありません!子ども向けの解説ガイドやワークシートを用意したり、親子連れでも楽しく鑑賞ができるよう、さまざまな工夫をしている美術館も増えてきています」
つまり、美術館に行ける子どもの年齢については、館が展示内容などによって年齢制限を設けていなければ、0歳でもok。
「赤ちゃん〜2歳ぐらいの小さな子でも、親が楽しそうなら、子どもも“美術館は楽しいところ”という印象を抱きます。3・4・5歳ぐらいになると、好みが出てきたり、動きが活発になってマナーの心配もでてきたりするので、そういうときは、やはりファミリー向けの美術館や企画展を選ぶのがおすすめ。美術館という場所に慣れることも楽しみにつながるので、いろいろと出かけてみるのがいいですね」
子どもウェルカムの美術館の例
ファミリー向けの工夫をしている美術館の例を、いくつかご紹介しましょう。
●森美術館『Chim↑Pom展:ハッピースプリング』(〜2022年5月29日)
Chim↑Pomのメンバーであるエリイさんの出産やメンバーと同世代の子育て事情がきっかけとなり、展覧会場内に託児所を開設するクラウドファンディングを実施。日本ではまだ恒常的に託児所を設けている美術館はわずか。親子連れが気楽に美術鑑賞をできる嬉しいチャレンジです。
詳しい取材記事
» 展覧会場に託児所!子ども歓迎、森美術館「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」に親子で体験(配信日:2022年4月15日)
●サントリー美術館 わくわくわーくしーと
子ども向けの鑑賞支援ツール「わくわくわーくしーと」を配布。シートのミッションにチャレンジしていくと、いつの間にか作品を「よく見る」ことに繋がります。大人も一緒に楽しく鑑賞できます!
» サントリー美術館(るるぶ&more.)
●ちひろ美術館 ファーストミュージアム
子どもたちが人生で初めて訪れる美術館「ファーストミュージアム」として楽しめるよう、小さな子ども向けの工夫がいっぱい。展示の位置が子どもの目線に合わせて低めに設定されていたり、楽しいワークショップやイベントも開催されています。
» ちひろ美術館・東京(るるぶ&more.)
» 安曇野ちひろ美術館(るるぶ&more.)
美術館に出かける前にしたいこと
子どもウェルカムといっても、美術館で騒いでいいというわけではありません。美術館での時間を楽しむために、事前にできることを教えてもらいました。
ちょっとした予備知識でワクワク感を
「突然連れて行くよりも、事前にほんの少しでも情報に触れておくと、興味や親しみがわいてワクワクできると思います。チラシを見せたり、サイトを一緒に見てみるだけでも十分。年齢に応じて、どこの国の作家か、どんな時代の作品かといった予備知識を、先入観に固まらない程度に触れておくのもいいですね。子どもが知っていることにうまく絡めて伝えてあげるとよいでしょう」
マナーはお出かけ前にお約束
「先述のように、子連れだからといって尻込みをする必要はないのですが、やはりマナーを守ることは大切。特に子どもでも知っておいてほしいのは、美術館は美術作品が多数ある場所だということ。館内を走り回ってしまうと、周囲への迷惑だけでなく、作品を傷つけたり壊したりしてしまう危険性があります。事前に子どもにわかる言葉でお話しして、マナーのお約束をしておきましょう」
ぐずらない時間帯やスムーズな移動を選んで
「美術館にはいろいろな年齢層の方がいます。普段子どもの泣き声を聞き慣れない方には、耳障りになることもあるでしょう。なるべく機嫌よく観られる時間帯を選んだり、移動で疲れすぎない場所を選んだりなど、できる配慮をすることで、ママやパパにとっても美術館での時間が過ごしやすいものになると思います」
館内施設やプログラムなどのチェック
「小さな乳幼児連れの場合は、おむつ替えや授乳施設の有無、休憩できるカフェや屋外施設などがあるかを調べておくと安心ですね。子ども向けの解説ガイドやプログラムがある美術館なら、大いに活用してみてください。子どもの興味関心を広げる工夫がなされていて、きっと楽しい時間になると思います」
鑑賞デビューの前に、ワークショップに参加
「美術は高尚なものではなく、楽しいものだ、という体験からスタートするのもおすすめです。特に4〜5歳頃の子どもは、最初から静かに鑑賞することを課すのは難しい場合もありますよね。子ども向けのワークショップや参加型イベントを開催している美術館も多くあります。実際に手を動かしたり体験したりしながらアートに触れると、興味がより広がっていきそうです」
美術館での鑑賞を、親子で楽しむコツ
せっかくの子どもとの美術鑑賞、「あれもこれも観せたい!」と思うのが親子心ですが、子どもが楽しめる鑑賞のコツはあるのでしょうか?
欲張らず、子どものペースで!
「大人でも、展示されている作品を見てすべて正確に覚えていることはありえないですよね。どんなに素晴らしい展示会でも、心に残る作品は3割あるかどうか、というところだと思います。子どもに無理に感動を求めたり、全作品を見せようと欲張らずに、子どもが見たいペースでみるのがおすすめです」
親が楽しむ!
「私は子どもの頃によく母に美術館に連れて行ってもらったのですが、母は自分が観たいものを夢中で鑑賞していました。私は放っておかれたのですが、親が楽しんでいる姿こそが、自然と美術への親しみになりました。子どもながらに“真剣に観ている人がいるから、私も静かに観よう”と思ったものです。学ばせようでなく、楽しもうの精神でぜひ出かけてください」
子どもが嫌がったら無理をしない
「ピカソ展に行ったら、絵を観た瞬間に“こわい”と泣き出した子がいました。その感情は間違いではありません。子どもは感性が豊かなので、思いも寄らない感想を持つことがあります。もしも嫌がったり怖がったりした場合は、無理強いはしないようにするのがいいと思います」
鑑賞後に感想を伝えあおう
「○○の絵が好き、かっこよかった、この色がよかったなど、思ったことを素直に意見交換してみましょう。感想を言語化することは、美術鑑賞に限らず大切なこと。難しい解釈や感想は必要ありません。親子で同じものを気に入ったり、正反対のことを思ったりなど、新たな発見もあるかもしれません」
常設展と企画展 子どもにはどちらがいい?
美術館には常設展と企画展があり、どちらに行こうか迷うことも。その違いを、子どもと行く観点も含めて教えてもらいました。
常設展は、子どもの興味の発見に
「常設展は、いつ行っても観られる展示です。美術館が所蔵している自慢のコレクションがあり、館の特徴を知ることができます。特に大きな美術館の常設展は、展示されている作品のジャンルが幅広いので、子どもがどんなものに興味をもつのかを知ることができるのがいいですね。じゃあ次は気に入った作品に関連する企画展に行ってみよう、関連の本や映像を見てみようなど、興味を広げていける楽しみもあります」
夏休みの企画展は、子ども向けが多し!
「企画展は、所蔵のものだけでなく、テーマに沿って海外の美術館やコレクターから集めた展示が楽しめます。最近の企画展はエンターテインメント性が強く、テーマを深追いする面白さにも満ちています。夏休みなどの長期休暇は、子ども向けの企画展が多く開催されるので、要チェックです」
おすすめ!旅行先の美術館へ
最後に、浦島さんならではの美術館の楽しみ方を教えてもらいました。
「旅行に出かけたら、個人美術館や郷土資料館に立ち寄ってみるのも楽しいです。地元の画家が描いた作品には、旅行ガイドにはのっていない土地の風景や魅力を知ることができます。旅行の思い出にもなりますし、大型美術館とはまた違った面白さがあり、おすすめです!」
美術館鑑賞が、親子の楽しいお出かけ先のひとつになりますように。
●掲載の内容は取材時点の情報に基づきます。内容の変更が発生する場合がありますので、ご利用の際は事前にご確認ください。
●旅行中は「新しい旅のエチケット」実施のご協力をお願いします。