千葉県を中心に生産されていて大人気のいちご「真紅の美鈴(しんくのみすず)」。特徴的な濃い紅色の実をかじれば、酸味が少なくダイレクトに濃厚な甘みが伝わります。いちご狩りではこの品種を求めて遠方から人々が押し寄せ、直売所でも売り切れ続出。そんな大人気品種の生みの親・成川 昇さんに品種開発の経緯や魅力などを聞きました。成川さんのいちご栽培ハウスで、いちごの販売も行っている「ナルケンいちご園」(大網白里市)や、真紅の美鈴を栽培しているいちご狩り農園も紹介します。
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真紅の美鈴の生みの親・成川 昇さん
千葉県農林総合研究センター育種研究所の所長などを歴任し、定年退職後、千葉県大網白里市に「ナルケンいちご園」を開いた成川さん。“ナルケン”とは「“成”川いちご“研”究所」から名付けたというように、組織在籍時、独立後を問わず、いちごの研究や品種開発をライフワークにされているプロフェッショナルです。
「ナルケンいちご園」は成川さんのいちごの栽培所兼研究所。いちごへのこだわりや愛情は半端ではなく、どんなに注文や問合せが入っても1日の収穫はもっとも熟して最適なものだけ。収穫方法も、通常行われるまとめて収穫してから箱詰めするやり方ではなく、「箱採り」という採ってそのまま丁寧にひとつずつ箱の中に詰めていく方法を続けています。
こちらはハウスの一角にある新たな品種開発のためのスペース。成川さんが開発して品種登録されたいちごは、既に4品種! よりおいしい品種を求めて、今も研究を続けています。そして、その努力の継続が実って生まれ、2015年に品種登録された、現時点での最高傑作が「真紅の美鈴」です。
※「真紅の美鈴(しんくのみすず)」は農林水産省の登録品種で、商標登録も取得
真紅の美鈴はこうして生まれた
「真紅の美鈴の元となった親の品種も、どちらも私が開発したものだよ。」と成川さん。そのルーツは明治時代から栽培されている古い品種、「福羽(ふくば)」から続いているといいます。
「まず約50年前に、福羽をもとに開発したのが「麗紅(れいこう)」という品種。そして、そこからさらに試行錯誤して生んだのが「ふさの香(ふさのか)」という品種なの。その2つを交配の親品種として開発を続け、完成したのが真紅の美鈴だよ。」
真紅の美鈴の果皮の色は、なぜこんなにも濃いのでしょうか。
「もともとの福羽から色が濃かったんだよ。そして、麗紅も濃かった。ただ、少し前までは色が濃いいちごは黒ずんでいるというイメージから市場での人気がなかった。実際にまだ“真紅の美鈴”と名付ける前に栽培をお願いした「相葉苺園」では、こんな黒い品種売れないよと、最初は酷評されたものだね。」
昔からの長い付き合いだからこそ出た率直な意見。当時の傾向をふまえればもっともなのですが、成川さんはそれが心底悔しかったといいます。
「だからこそ、相葉苺園を訪れたお客さんがおいしいおいしいと食べてくれたときには、本当にうれしかったね。」
今では真紅の美鈴が主力品種となっている相葉苺園。その後の取材時にそのことを伺うと、園を切り盛りするお母さんの勅代(ときよ)さんも覚えていました。
「今では笑い話で、成川先生には悪かったんですけど、当時はこんなに売れるようになるなんて想像もつかなかったんですよ。」
相葉苺園の取材記事はこちら
» 相葉苺園(千葉県山武市)のいちご狩りで多品種食べ比べ!お土産・アクセスも紹介
味や特徴は?糖度が高く日持ちがよい!
成川さんが誇る真紅の美鈴の特徴を並べると、「色が濃い・大きくて形がよい・酸味が少なく糖度が高い」だそうです。
「もともと色が濃い品種は、全体的に酸味が強めだったんだよ。けど、真紅の美鈴は酸味が少なくできた。糖酸比という数値があるんだけど、とちおとめが15ぐらい、ふさの香が17ぐらい、真紅の美鈴は20~21あってダントツなんだ。」
「科学的にいうと、抗酸化作用があるアントシアニンが100g中36mgも入っていて色の濃さの理由になっている。とちおとめが10mgちょっとなので、3倍以上だね。だから、割ってみると普通は白いのに、真紅の美鈴は中まで赤いんだ。そしてビタミンCは、それに特化して開発された「おいCベリー」の次に多い。さらにアミノ酸の吸収率もよくて、深みや厚みのある旨み、コクを生み出している。収穫後の水分の目減り率が少なくて、持ちがいいのも特徴だね。」
収穫時期や産地は?いちご狩りはできる?
現在、真紅の美鈴は全国約90の農家で栽培されています。そのうち千葉県が約60農家と3分の2を占めていて、特に多いのが山武市の成東地区。「相葉苺園」をはじめ、いちご狩りができるスポットも多いエリアです。収穫時期は千葉県では12月10日ごろ~5月20日ごろ。軽井沢など信州では6月に入っても採れるところがあるそうです。
「ナルケンいちご園」にいちご狩りはありませんが、るるぶKidsで今年紹介しているいちご狩り農園で、真紅の美鈴を栽培しているのは以下の5つ。いちご狩りの品種指定ができない農園も多いので、おでかけ前に現地に確認しておきましょう。
» 相葉苺園(山武市)
» 石橋苺園(山武市)
» 石田農園(千葉県)
» 近藤いちご園(長生郡一宮町)
» 富津アクアファーム(富津市)
ナルケンいちご園までのアクセスは?
「ナルケンいちご園」ではハウス前で真紅の美鈴の販売も行っていて、だいたい1箱2500円前後。しかし、1日に多くは収穫しない上、ひとつずつ成川さんが箱採りするので数に限りがあり、事前予約は必須。かなり先まで埋まっていることもあるので早めに電話して、直接成川さんと購入する日時を相談して決めてから訪れるスタイルです。
都内や千葉方面からの車での最寄りICは圏央道の大網白里スマートICですが、ジャンクションの関係で少し遠回りになるので、手前の千葉東金道路山田ICからのほうが便利です。電車ではJR外房線永田駅から約1.5kmで歩けるほか、大網駅から約2.5kmをタクシーで訪れる方も多いそう。いずれも都心から1時間~1時間30分ほどですので、ぜひ予約してから訪れてみてくださいね。
●ナルケンいちご園(なるけんいちごえん)
住所 | 千葉県大網白里市永田2728-27 |
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問合先 | 080-1093-0145 |
時間 | 11~16時(要事前予約) |
定休日 | 不定休 |
アクセス | 電車:JR外房線永田駅→徒歩20分 車:千葉東金道路山田ICから10km15分 |
駐車場 | あり/3台/無料 |
URL |