移住インタビュー|喜びも大変さも、みんなで分け合う 「Uターン子育て」で心地良い暮らし(長野県茅野市)

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小池耕太郎さんご家族(長野県/茅野市)

子育て世代のお母さん、お父さん、毎日お疲れさまです。ふっと一息つく時間は、取れているでしょうか。コーヒーを飲んでいるときも、お風呂に浸かっているときも、頭の中では次にやるべき家事の順番を考えている、なんて人も多いかもしれません。今回は、そんな気持ちから少しだけ解放されて、お子さんが寝たあとにでも、ゆっくり読んでみてほしいお話です。

紹介するのは、長野県茅野(ちの)市に暮らす小池耕太郎さん・あす佳さんご夫婦。地元にUターン移住したところで出会い、結婚したお二人は、現在1歳の娘さんを育てています。都会とは違う魅力を持つ田舎での暮らしぶりや、Uターンならではの子育てのありようを聞いてきました。

目次(index)

Uターンは流れに身をまかせて

長野県茅野市の風景

時刻は午後9時。仕事が終わり、娘さんのお世話もひと段落したところで、ビデオ通話をつないでもらい、耕太郎さんとあす佳さんにお話を伺います。

長野県のほぼ中央に位置する茅野市は、周囲を山に囲まれていながら東京まで特急で2時間ほどというまちです。現在は耕太郎さんのご実家で、ご両親と一緒に暮らしています。
まずはお二人に、地元にUターンをしたきっかけを聞いてみました。

耕太郎:僕はまず大学進学で大阪に行ったんです。でも音楽活動をやっていたから自分の力を試したくなって、中退して上京しました。東京には2年くらい住んだかな。ただ、アパートで隣の人の顔も知らないような暮らしが息苦しくて。自分には人とのつながりが濃い田舎のほうが性に合っているなとわかりました。

生まれ育った実家は飲食店。耕太郎さんは、毎晩常連さんたちとたわいもない話をしたり、楽器を演奏したりして過ごすのが、当たり前の環境で育ってきました。
「帰ってきて息ができるようになった気がした」と耕太郎さんは話します。その後、友人に誘われたことがきっかけで林業の世界に足を踏み入れ、現在は自身が立ち上げた「木葉社(もくようしゃ)」の代表をつとめています。

小池耕太郎さん(長野県/茅野市)

耕太郎:木葉社は、林業をはじめ、木工製品の販売や防災イベントの企画などをやっている会社です。林業って、何十年も後の世代のために木を植えて手入れをする、答えが出るまでにすごく時間がかかる仕事なんですよ。この地域で生きる次の世代に何を残せるのか、日々考えながら仕事に取り組んでいます。

あす佳さんは、お隣の諏訪市の出身。大学進学のために上京し、その後しばらくは東京でデザインの仕事をしていたそうです。

あす佳:仕事にゆとりがあったタイミングで、半年くらい地元に帰っていたんです。そのときにたまたま友人に誘われて訪れたのが、耕太郎くんが実家のお店で企画していたサッカーのパブリックビューイングでした。もともとUターンするって決めていたわけじゃないけれど、結果的に東京には戻らずそのままこっちで暮らし続けることになりましたね。

田舎で子どもを育てること

小池耕太郎さんのお嬢さん(長野県/茅野市)

流れに身をまかせるように、地元での暮らしをはじめたお二人。結婚し、昨年娘さんも生まれました。

あす佳:東京の生活との違いは、移動が車で、外に出てもあまり人がいないことかな(笑)。だからコロナ禍でも気軽に外を歩けて、育休中も家に籠りきりになることなく、気分転換できましたね。散歩をしていると、じじ(義父)が娘に『あの鳥はトンビだよ』とか教えてくれたり、近所にもいろんな植物があったり、結構楽しめるんですよ。

みなさんが暮らすのは、ご両親のお店と木葉社のオフィス、そして自宅が一体となったログハウス。家から歩いていける距離には、水遊びができる大きな公園もあり、夏場は何度も訪れたと教えてくれました。
茅野のなかでも市街地に住んでいるそうですが、普段から自然との距離が近く、のびのびとした暮らしの様子が感じられます。

さまざまな大人に囲まれて

小池耕太郎さんご家族(長野県/茅野市)

あす佳さんは、現在デザイン会社で働いています。娘さんは先日1歳を迎え、保育園に通いはじめました。茅野市では、年度はじめの4月に一斉入園するのではなく、1歳になってからの入園が当たり前。待機児童がいないので、丸1年育休を取ってから仕事復帰する保護者が多いそうです。

あす佳:ちょうど昨日も一人加わって、同級生が5人になったところです。入りたいタイミングで保育園に入れるので、ありがたいですね。車で数分の場所にあって、送り迎えはわたしが行くことが多いです。

耕太郎:保育園から帰ってくる時間には、お店にじじとばば、隣の事務所には僕がいて、近所に住むいとこのお兄ちゃんもよく遊びに来ている。いろんな人が待ち構えているところに帰ってきて、抱っこされたり遊んでもらったりの毎日です。夕ご飯もお客さんに混じって、お店の一角に赤ちゃん用の椅子を置いて食べさせてもらっています。僕の会社のスタッフが休憩から戻ってこないと思ったら、娘にご飯あげていたってこともありました(笑)。

小池耕太郎さん家族とご友人等(長野県/茅野市)

お父さんお母さんだけでなく、おじいちゃんおばあちゃん、それ以外の人たちも当たり前に近くにいるのが、娘さんの日常です。
そんな環境で育っているからか、多くの子どもが人見知りをする月齢になっても、その兆候はまったくなかったのだそう。この特別な環境ならではかもしれません。

子育てを「分け合う」よろこび

今の子育て環境は、娘さんにとってはもちろん、親である自分たちにとっても良いものだと、お二人は話します。

(長野県/茅野市)

あす佳:もし旦那さんが仕事で帰りが遅くて、朝から晩まで一人で子どもと向き合う日ばかりだったら、きっといっぱいいっぱいになると思うんです。家事もなかなか進まないだろうし、一人の時間なんて全然取れないだろうし。わたしの場合は、ちょっと見ていてほしいときも、お店に行けばじじばばがいる。手が離せなくて「ごめん、今は抱っこできないの」って子どもに言わなきゃいけない時間は、比較的少ないんじゃないかなと思います。

耕太郎:たとえば都会で、家族三人だけで暮らしていたとしたら、サポートが得にくいぶん、親が多少無理してもがんばる場面って多いと思うんです。でも僕らは、「両親二人でがんばらないと」っていう感覚ではないというか。みんながいることに助けられていますよね。気持ちに余裕があるから、娘にもおおらかに接することができる気がするし。自分たちと同じように、娘を大切に思ってくれる人が周りにいる環境は、子どもより親にとってありがたいものなんじゃないかな。

小池耕太郎さんとお嬢さん(長野県/茅野市)

子育て環境を考えるとき、子どもにとってどんな良さがあるか、という部分に注目することがほとんどだと思います。でも、親が心地よく過ごせる環境であれば、結果的に子どもが心地よく育っていくことにつながるのかもしれません。
あす佳さんからすれば、今は義理の両親との共同生活。関係性が気になるところですが、「本当の娘のように接してくれている」と答えてくれました。

あす佳:昔の話ですけど、みんなで映画を観ていて、気づいたらお父さんとわたしだけがいびきかいて寝ていたってこともありました(笑)。それほど気を遣わずに甘えさせてもらっているので、どう恩返しできるかって考えていたんですよ。でも娘が生まれて、「この子がいて本当によかった」って言ってくれて、少しは返せたのかなって思っているんです。

子育ての大変さを分かち合うことは、同時に生まれるよろこびもみんなで分け合えるということ。
日々成長する娘さんの姿を見守るなかで、家族みんなの心が満たされていく暮らしが、ここにはあるように感じました。

地方への移住を考えている子育て世帯へのメッセージ

小池耕太郎さんご家族(長野県/茅野市)

じっくりとお話を聞かせてくれたお二人。最後に、地方への移住を考えている子育て世帯へのメッセージを伺いました。

あす佳:保育園の送り迎えとか学校の行事とか、子どもがきっかけで広がる人間関係って、お母さんがメインになることが多いと思うんですよ。だから、旦那さんが移住に積極的な場合もしっかり二人で話し合って、二人がちゃんと納得できる場所を選ぶのが大事じゃないかな。

耕太郎:都会には面白い場所や刺激も多いから、一概に田舎での子育てのほうが良いとは言えないと思うんです。でも、田舎で育つことで得られるたくましさはあるのかなと。雄大な景色とか地域の方言とか、そういうものを幼い頃に見たり聞いたりした経験は、きっと子どもに何かしら良い作用を与えるように思います。

神社からの眺め(長野県/茅野市)

茅野のなかで耕太郎さんが一番好きな場所。まちが森に囲まれていることがよくわかります

今回紹介したお二人の環境は、誰もが手にできるものではないと思います。でも、親や親戚の近くで子育てをすることや、都会から少し離れたのびのびとした暮らしを、一つの生き方の選択肢として知るきっかけになったのではないでしょうか。
耕太郎さんは最後に、このような環境がない人でも会社に迎え入れる仲間には出来るだけ家族ぐるみで付き合うことで、ここが自分たちの地元=ホームだと思ってほしい。そんな地域への窓を開く存在でありたい。そうおっしゃっていました。

今までの生活を見つめなおす機会が増えているこのごろ。子どものためはもちろん、親である自分たち自身のために、心地良い暮らしを選び取るヒントを、お二人の話から見つけてもらえていたらうれしいです。

(2020年9月30日、10月2日取材)