コロナ禍の子育て、子どもの発達への影響はあるの?(青山学院大学教授 坂上裕子さん)

イメージ画像:コロナインタビュー

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2020年のはじめから続く新型コロナウイルス禍ですが、いまもまだ終息の目途がたちません。その間、家族または子どもたちの日常生活も、これまでとは大きく変わることになりました。
「るるぶKids」では、このwithコロナの1年間について、そしてこれからのニューノーマル時代の子育てについて、識者や「子ども」に関わる職業に従事する方にインタビュー。第1弾は、発達心理学を専門に研究されている青山学院大学 教育人間科学部 心理学科教授の坂上裕子先生に、コロナ禍の子育てにおける発達への影響を伺いました。

坂上裕子先生
青山学院大学 教育人間科学部 心理学科教授。専門は発達心理学。乳幼児期の発達や親子関係についての研究を行うほか、子育て支援活動にも従事している。

目次(index)

コロナ禍の子育てでは、親のメンタルヘルスを保つことが大切

このコロナ禍において、小さい子どもを育てているママやパパにとっては、大きなストレスのかかる日々が続いていることと思います。
そんな生活のなかで気になることのひとつとして「子どもの成長にとって大事な時期にこんな環境になってしまったけれど、発達の上で問題はないの?」ということがあるのではないでしょうか。

今回は、そんな心配事について、発達心理学を専門に研究されている坂上裕子先生にご相談。「発達心理学というと子どものイメージが強いかもしれませんが、本来人間の心は母親の胎内にいる時から歳をとって死ぬ時まで、生涯を通して発達し続けるもの。親には親としての発達があり、高齢者には高齢者の発達がある。その背後にあるメカニズムを解き明かそうというのが発達心理学です」という坂上先生は、子どもより親が平常心を保つことが大事だと言います。

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坂上:今回のコロナ禍の、子どもの発達への影響を考えた時に、一番大事だと思うのは「いかに親がメンタルヘルスを保つか」ということです。というのは、当然のことながら、親というのは子どもがいて初めて親になるんですね。一人目の子どもの親になるのは誰にとっても初めての経験。新しいことにコミットする楽しさの一方で、初めてのことには大きな不安が伴うわけです。

一方、コロナ禍というのも、この時代を生きている全員が初めて経験すること。ですから、今小さな子どものいる家族というのは、二重で大変な状況に置かれているわけです。ただ、子どもには柔軟性があるから、今のような状況にも適応しやすい。一方、大人は先が見通せない状況に置かれると、あれやこれやと心配になるんです。

確かにそう言われてみれば、親はちょっとしたことでピリピリしたり、不安に苛まれてネットの情報を読み漁ったりしているのに対して、子どもたちは案外元気いっぱい。こんな状況の中でも、毎日を楽しんでいるように見えます。

坂上:人の発達には可塑性がありますから、環境の変化に適応しようと思えばできるんですね。それに、同じ年頃のお友達との交流が減っていると言っても、園生活とか学校生活とかは続いて、そこでは先生方がいろいろ苦心しながら見てくださることで、同じ年齢、月齢のお友達同士の関わりが保たれているわけです。ゼロではない、ここがまず安心材料ですよね。

ですから、コロナが今の生活の中で生じる影響がすごく大きなダメージをもたらすのかというと、そこまで心配することはないと思っていますし、実際、国立成育医療研究センターによる保護者アンケート調査を見ても、未就学児に関してはそれほど心配するような影響は出ていません。私はそれより、親が不安であることがベースになることの影響の方が大きいと考えます。子供の生活で一番大事なのは安心感を得られることですから、親が過剰に不安にならないことが重要です。

マスクの下の表情の理解には大人がちょっとした手助けを

ただ、「今は元気だからといって、本当に子どもの発達にコロナの悪影響は出てこないのだろうか」など、どうしても心配事は出てきてしまうもの。実際のところはどうなのでしょうか。

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坂上:コロナは発生してからまだ1年ちょっとなので、正直言えばこれがこの後の子どもの育ちにどういう影響が現れていくのかはわかりません。特に心配されているのは、子ども同士が触れ合う時間が少なくなっていること。常にマスクをしている状態なので、表情の理解や感情の理解にどういう影響があるのか、そして悪い影響があった場合、それは後に取り戻せるのかということですが、これは今後検証されていくことと思います。

ただ、マスクで表情が見えない相手の気持ちを察することに関しては、大人が言葉で補ってあげれば大丈夫だと私は考えています。たとえば、お友達が砂場でイライラして砂を投げてしまったのを見た時に、園の先生や親が「ひょっとしたら○○ちゃんは××だったんじゃない?」と考えさせたりすることは非常に大切で、これはコロナ禍でもそうでない時でも同じなんですね。乳幼児期は表情やジェスチャーなどのノンバーバル(非言語)コミュニケーションによって、「自分と人とで考えていることは違うんだ」ということを理解するようになる時期ですが、これには同い年の子どもたちと関わり合う機会があるだけではだめ。目に見えないものを言葉にして一緒に考えてあげることが大事です。

面白いことに、欧米の人はコミュニケーションをとる時に、相手の口元を見ることが多いそう。だからこそマスクをつけることをよしとしないのだそうです。一方、日本人は感情の手がかりを目に見ることが多いため、マスクをしていることに強い抵抗を感じる人はさほど多くはないようです。そういう意味でも、マスクをしていることが発達に与える影響は大人が心配するほどには大きくはなく、心配するには値しないのかもしれません。

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坂上:必要以上にいろんなことを心配するのは、「子育てに失敗したらいけないんじゃないか、失敗すると取り返しがつかないのではないか」と思うからでしょう。しかし、実際には取り返しがつかない失敗というのはめったに起こりませんし、置かれた環境の中で柔軟に対応をしていくことが大切なのではないかと思います。まあ、そもそもの心配のベースには感染の不安があると思います。子どもがいるのに戸外に出ないわけにはいかないですよね。でも、それなら人が集まらないところ、たとえば自然の中で遊ぶとかにすればいいわけです。自然の中で家族と一緒に大きな声で笑えば、大人も気持ちが開放されます。

そんな坂上先生は、「むしろ心配するとしたら、スマートフォンやタブレット、パソコンに接している時間が過剰に長くなっていること」と指摘します。

坂上:親が息抜きに使うことは必要かもしれませんが、子育てをそれに頼りやすくなっているのであれば、ちょっと気をつけたほうがいいかもしれません。実際、緊急事態以降にオンラインで行われた小学生を対象にした調査では、目や首が疲れたという回答をする子どもが増えています。オンラインの画面から発せられる音や光の刺激は強いため、長時間視聴していると、脳が興奮状態に置かれてしまう。日常生活の中でスイッチのオン・オフをする時間を決めることが大事です。

お手伝いやお風呂の時間に集中して楽しく! “量より質”のお家遊び

では、家の中にいる時間が長くなり、お友達との遊びが不足しがちな今、子どもたちに積極的にさせたほうがいいことには何があるのでしょうか。

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坂上:手を動かすことは大事なので、粘土や砂遊び、パズルなんかはいいと思います。ただ、なかなか大人も忙しいので、じっくり遊んであげる暇はない。そこで考えられるのがお手伝いをしてもらうこと。2歳にもなればいっぱいできるお手伝いがあります。たとえばプチトマトのヘタを取るとか、こんにゃくをちぎるとかでもいいし、茹でた野菜を型抜きするのもいい。洗濯物を畳むのは難しくても、同じ靴下を組みにすることはできますよね。どれも楽しんでやってくれるはずです。

あとは、お風呂の時間に遊ぶのもいいと思います。子どもはペットボトルからプリンやゼリーのカップにお湯を移し替えるだけでも楽しめる。30分でも飽きずにやっていますから、お風呂に入浴剤を入れて“ジュースやさんごっこ”をしてあげれば、大いに喜ぶと思います。遊びは“量より質”。お風呂に入っている20〜30分だけでもしっかり向き合って遊んであげれば、子どもの満足感は満たされるものです。

できる限りの感染対策をしながらも、時には戸外で体を動かし、大きな声で笑う。無闇に不安な気持ちを募らせず、心穏やかに過ごしながら、遊びの時間はぎゅっと集中して子どもに対峙する――。ちょっとした工夫をしながら、笑顔でコロナ禍を乗り切っていけたらいいですね。