小学生の「新体力テスト」は、5月の連休明け頃から実施する学校が多くみられます。現在の小学生が行う8種目の測定のやり方や、評価の見方をご紹介しましょう。それぞれの種目で、どんな体力要素がわかるかも解説!子どもたちにとっては、6年間、毎年経験するものだからこそ、新体力テストを苦痛と捉えず、体力向上の足掛かりにできる絶好の機会としてみませんか?
遠山健太 先生
株式会社ウィンゲート代表取締役。子どもの運動教室「WingateKids」の運営のほか、子どもの適合するスポーツを見つけ出す「マイスポ」も監修。ワシントン州立大学教育学部卒、現在は順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科にて「子どもの体力」について研究をしている。2児の父であり、自身の子どもとの公園めぐりの経験を生かし、パークマイスターとしても活動。「運動できる子、できない子は6歳までに決まる!」(PHP研究所)、「コツがつかめる! 体育のずかん」(ほるぷ出版)など著者多数。
※パークマイスター…公園遊びに詳しく、子どもの発育を考えて指導ができるスポーツトレーナーのこと
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新体力テスト、小学生の種目と実施時期
新体力テストはいつから始まった?旧名称は「スポーツテスト
新体力テストとは、元気に生活するための体力や運動能力を調査するために、文部科学省が定めた体力テストのこと。スポーツ庁の報告によると、全国の8割以上の小学校の全学年で実施されています。かつては「スポーツテスト」と呼ばれており、こちらの名称になじみがあるママパパも多いのでは?
そもそものはじまりは1964年、東京オリンピック開催により体力増進の機運が高まったことを背景にスタート。そして1999年に、体位の変化やスポーツ科学の進歩などを踏まえてテストが見直され、現在の「新体力テスト」という名称に変更になりました。「新」といえども、25年続いているテストなのです。
小学生の新体力テストの種目は?
6~11歳(小1~小6)のテスト項目は8種目です。
<小学生の新体力テスト 全8種目>
- 握力
- 上体起こし
- 長座体前屈
- 反復横とび
- 20mシャトルラン(往復持久走)
- 50m走
- 立ち幅跳び
- ソフトボール投げ
スポーツテストとして実施されていた当時にあった「立位体前屈」は、新体力テストでは「長座体前屈」に変更。また、「懸垂(女子は斜め懸垂)」の項目がなくなりました。立位体前屈は、測定時にバランスを崩しケガにつながりやすいという安全配慮の観点から、懸垂は、子どもには難易度が高いため、という理由によるものです。
新体力テストの実施時期はいつ?
多くの小学校では、年度始めの5~6月に行われます。入学や進級後まもなくのタイミングや5月の連休明けに実施されることが多く、少し戸惑う子もいるかもしれませんね。この季節は気温が高い日も多くなるため、熱中症対策も必要です。新体力テストがある日は、十分な睡眠をとり、朝食をしっかり食べていきましょう。水分補給も忘れずに!
この時期に行う理由は、新体力テストの目的にあります。その目的とは、「子どもの体力の状況や運動能力のバランスを知り、運動習慣や能力向上の学校指導に役立てるため」。また、5月に運動会をやる学校の場合はリレーの選抜を兼ねていたり、梅雨入り前に全種目のテストを終わられるためだったり、といった理由もみられます。
全8種目のやり方と、わかる体力要素
テストの種目の内容とやり方を、イラストでご紹介します。事前にやり方を知っておくと、子どもは安心して力を発揮できるでしょう。また、それぞれの種目が、どんな体力要素を知るためのものかも解説します!
①握力
●握力のやり方
測定には握力計を使います。両脚を左右に開いて立ち、自然に腕を下げ、握力計が身体に触れないようにして力いっぱい握りしめます。右左の順に測定し、休息を挟んで、2回目を実施します。右左の平均が良い方の結果を記録します。
●どんな体力要素がわかる?
握力は、多くの方は「ものを握るときの手の力」と捉えてますが、実はこの測定では、手の力だけではなく、全身の「筋力」を見ることができます。握力がわかれば、上半身・下半身の筋力まで把握できるのです。もし握力の数値が低ければ、普段の活動量も足りないということがわかります。
②上体起こし
●上体起こしのやり方
2人一組で行います。測定する人は、マットの上でひざを立てて仰向けに寝転がり、両腕を胸の前で組みます。補助者はひざを抑えて固定します。「始め」の合図で、両ひじと太ももがつくまで上半身を起こします。この動作を30秒間の間にできるだけ多く繰り返し、その回数を測定します。
●どんな体力要素がわかる?
動作だけを見ると、いわゆる腹筋運動と思いがちですが、実は腹筋の強さ(腹筋力)を評価するではありません。30秒の間にどれだけ数多く動作を繰り返すことができるかという全身の「筋持久力」を見る種目です。最初は一度も起き上がれないという子もいますが、顔の角度や、力を入れるタイミングなどのコツをつかんでみましょう。補助者にしっかりとおさえてもらうこともポイントです。
③長座体前屈
●長座体前屈のやり方
規定サイズのコの字型の箱を使います。座って脚を伸ばし、箱に脚を通します。両手は箱の前端に置きます。そのまま箱全体をなるべく遠くへ滑らせるようにゆっくりと前屈し、箱の移動距離を計測します。ひざが曲がらないように注意をしましょう。
●どんな体力要素がわかる?
長座体前屈では、背中や腰、太ももの裏側にかけての柔軟性を測定します。①の握力と同様、これらがかたい人は、肩関節や足首などもかたい可能性が高く、つまり「全身の柔軟性」を見る指標になります。
④反復横跳び
●反復横跳びのやり方
100㎝間隔で引かれた3つのラインのうち、中央のラインをまたいで立ちます。「はじめ」の合図とともに、サイドステップで「中央→右→中央→左→中央→右…」の動作を20秒間繰り返します。右、中央、左それぞれのラインを超えるごとに1点加算されます。2回実施して、良い方の結果を記録します。
●どんな体力要素がわかる?
反復横跳びでは、素早く動くだけではなく、重心移動が正確にできる「敏捷性」がわかります。左右の線は、必ず踏むか超えなければ加点になりません。この種目が得意な子は、前後の動きも機敏にできる可能性が高いです。/P>
⑤20mシャトルラン
●20mシャトルランのやり方
20m間隔で引かれた2本の平行線を、規定の電子音「ドレミファソラシド」のテンポに合わせて往復して走ります。テンポは最初はゆっくりですが、約1分ごとに速くなっていくので、走る速度もあげていかなければなりません。電子音が終わるまでに20mの線をタッチし、その回数を測定します。1回遅れても、2回目に間に合えば継続できますが、2回続けて到達できなくなったら終了となります。
●どんな体力要素がわかる?
20mシャトルランは、「全身持久力」を測定する種目です。全身持久力は、実はマラソンなどの長距離種目だけでなく、あらゆるスポーツにおいてとても大切な能力。瞬発系のスポーツであっても、1時間以上の練習を集中して行えるかどうかは全身持久力が関係するのです。すべての運動競技の土台となる力ともいえるでしょう。
20mシャトルランで大切なのは、切り返し動作。切り返す時に大きく膨らんでしまうと、余計な距離を費やしてしまいます。多くの回数をこなすには、事前にルールをよく理解し、切り返しのコツをつかむとよいでしょう。
⑥50m走
●50m走のやり方
立った状態からのスタンディングスタートで、合図とともに50mの直線を全力疾走します。実施は1回のみ。ゴールライン上に身体の胴が到達したタイムで測定します。
●どんな体力要素がわかる?
走る「スピード」を測定する種目です。文部科学省の実施要綱では、「ゴールの5m前方のラインまで走らせるようにする」と明記されています。測定は1/10秒単位なので、ゴールラインで脚を止めてしまわずに、先まで走り抜けることがより良い記録をだすポイントです。
⑦立ち幅跳び
●立ち幅跳びのやり方
両脚を肩幅程度に開き、つま先を踏切線の前端にそろえて立ちます。両脚で踏切って前に飛びます。踏切前の両脚の中央の点から、着地時のかかと部分(もっとも踏切線に近い部分)との直線距離を測定します。
●どんな体力要素がわかる?
立ち幅跳びでは、跳躍力を見ているだけではなく、筋肉が瞬時にどれだけ強い力を発揮できるかの「瞬発力」を測定しています。脚だけの力ではなく、両手の反動をうまく使うことでより前方に跳ぶことができるため、全身のパワーを見ることができ、「体の使い方」を評価する種目としても知られています。立ち幅跳びが苦手な子は、全身を使って跳ぶことを意識してみるとよいでしょう。
⑧ソフトボール投げ
●ソフトボール投げのやり方
直径2mの円内から、前方30度の範囲内に、ボール(ソフトボール1号サイズ)を投げます。ボールが落下した地点までの距離を測定します。円内であれば、助走やステップをつけてもOK。2回実施し、良い方の結果を記録します。
●どんな体力要素がわかる?
決められた範囲内にボールを正確に投げること、またできるだけ遠くに投げることは、全身をうまく使って運動のタイミングを調整する「巧緻性」を見る指標となります。⑦の立ち幅跳びと同様、「体の使い方」を見る種目でもあります。
ソフトボール1号サイズは、おおよそ直径8.5㎝。1、2年生の子の手には大きめなので、指を大きく開いて握るとよいでしょう。また、直径2mの円内は1~2歩のステップを踏める広さなので、ステップをつけて投げるのがおすすめです。中学生の新体力テストでは、ソフトボールからハンドボールに変ります。
投げる動作は、経験を積めば必ず記録は伸びます。投げる=キャッチボールを連想する方も多いかもしれませんが、ボールに限らず、さまざまな形や重さのものを、両手・片手などいろんな方法で投げる経験をぜひしてみましょう。また、ものを握る動作も伴うので、鉄棒やジャングルジム、粘土遊びなどもおすすめです。
点数のつけ方は?
上記8種目の測定結果は、文部科学省が定めている「項目別得点表」に沿って、1~10点の得点が加算されます。そして、総合得点が高い順にA〜Eの評価がつけられます。
出典:文部科学省 新体力テスト 項目別得点表・総合評価基準法
評価の見方・活かし方は?
新体力テストの結果がでる時期
5月頃に実施されたテストは、夏休み期間などに測定結果が整理され、9~10月頃に評価表が子ども本人・保護者に手渡されます。
評価の見るべきポイントは?
新体力テストの評価表が戻ってくると、実施から数カ月たっていることもあり、子ども自身もテストのことなど忘れているケースも多々あります。そのため、ついA~Eの段階評価のみに気にしてしまいがちなのですが、そこに一喜一憂する必要はありません。
先述したように、新体力テストの目的は「子どもの体力や運動能力の状況を知るため」のもの。学校指導上だけではなく、家庭においても、わが子の体力状況を知るとても良い機会です。また、新体力テストの得点は、あくまで学年(暦年齢)での評価です。子どもの身体の発育発達は月齢によっても異なるので、平均身長や平均体重からみた子どもの発育も考慮して見るとよいでしょう。
ぜひ親子で一緒に評価表をみながら、「好きな種目、楽しかった種目はどれ?」「一番得意なのはなにかな?あまり得意でないことはあるかな?」などと会話をしてみてください。得意なことを生かしてあげたり、苦手な部分を伸ばしてあげることは、運動や体育が楽しくなるうえでとても有効です。
子どもの体力や運動能力向上に、必要なことは?
運動習慣は、アスリートを目指すわけではなくとも、健やかで元気な成長のために必要不可欠です。そのためには、「身体を動かすことが楽しい、好き」という体験をもつことがもっとも大切で、一番のおすすめは「公園あそび」です。公園あそびには、実は運動能力の素地となる、さまざまな基本動作が含まれています。ぜひ、小学生のうちは、親子でたくさん公園あそびをしてください。
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親子の楽しい運動あそびの習慣ができれば、おのずと体力はもちろんのこと、身体のさまざまな動かし方も育まれます。新体力テストは毎年行われるので、成長を親子で実感することができる楽しみにもなり、一石二鳥です。
新体力テストは何歳まで?実は79歳まである!
健やかな毎日のために、運動習慣が必要なのは子どもだけではありません。「新体力テスト」は、小学生だけでなく、中学・高校生、大人、シニア世代にも実施されています。6~11歳、12~19歳、20~64歳、65~79歳と年代ごと区分されており、テスト項目がそれぞれ異なります。ママパパ世代の実施種目をご紹介しましょう。
<20~64歳の新体力テスト 実施種目>
- 握力
- 上体起こし
- 長座体前屈
- 反復横とび
- 急歩
- 20mシャトルラン(往復持久走)
- 立ち幅跳び
元気な日々をすごすのには、継続的な運動習慣がとても大切。大人の新体力テストは、各自治体のスポーツイベントなどで実施されています。親子はもちろん、三世代でチャレンジして、一緒に楽しく身体を動かしてみてはいかがでしょうか?
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