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ありがとう185系!南田裕介さんと時刻表編集長が、JR東日本の運転士に話を聞いてきた[前編]

特設Webサイトの「メモリアル185系おもいで館」より、「海とミカンと185系」
特設Webサイトの「メモリアル185系おもいで館」より、「海とミカンと185系」

星 裕水のアイコン星 裕水

2021年3月12日を最後に、特急「踊り子」や「湘南ライナー」などで活躍する、JR東日本(東日本旅客鉄道)の185系電車が定期運用から引退することになりました。2020年11月からスタートしたJR東日本「メモリアル185(いっぱーご)」の惜別企画も話題沸騰中です。
今回、185系の引退を大いに名残惜しんでいる鉄道好きの2人、芸能マネージャーの南田裕介さんと「JTB時刻表」編集長が、「メモリアル185」企画に携わったJR東日本の担当者を直撃してきました。
JR東日本全面協力のもとで行われた豪華メンバーによる座談会は大盛り上がり。鉄道現場の熱い思いを聞くことができました。

この記事[前編]では運転士など車両のプロとの話を、[後編]では、爆売れ中の185系グッズにまつわるエピソードをお届けします。ピンバッジラリーやスタンプラリーなど、「メモリアル185」企画に参加する前にこの記事読んでおけば、鉄道にあまり詳しくないママパパも、185系での列車旅がより楽しくなりますよ!

この記事の[後編]
»ありがとう185系!南田裕介さんと時刻表編集長が、JR東日本の担当者に話を聞いてきた

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»引退する185系の活躍を振り返る、JR東日本「メモリアル185(いっぱーご)」がスタート!

目次(index)

南田裕介さん南田裕介さん
ホリプロスポーツ文化事業部チーフマネージャー。奈良県出身。ホリプロでタレントマネジメント業務の傍ら、CS日テレプラス「鉄道発見電 鉄兄ちゃん藤田アナが行く!」、BS日テレ「友近・礼二の妄想トレイン」など鉄道番組に出演。9月に「南田裕介の鉄道ミステリー」(天夢人)を発売。

大内学さん大内学
JTBパブリッシング「JTB時刻表」編集長。3人の子どものパパ。1976年神奈川県生まれ、茨城県育ち。筑波大学卒業後、株式会社日本交通公社(現JTB)に入社、出版事業局配属。2004年に出版事業局の分社に伴い、JTBパブリッシングへ。2014年4月から「JTB時刻表」第17代編集長。

今話題の「メモリアル185(いっぱーご)」とは?

1.国鉄時代から首都圏で活躍した185系

まずは基本知識をおさらいしましょう。185系とは、国鉄時代の1981年3月から営業運転を始めた電車で、国鉄分割民営化後はJR東日本が受け継いでいます。現在は特急「踊り子」(東京~伊豆急下田・修善寺)や「湘南ライナー」(東京~小田原)などで使用されています。

185系が愛されている理由は、JR東日本で定期列車として唯一残る「国鉄型特急車両」であること、特急だけでなく通勤輸送使用も想定した珍しい設計であること、さらに、登場以来首都圏近郊のあちこちの路線で活躍し、現在の緑×白のカラーリングだけでなく、さまざまな塗装変更を経てきたことなど、乗るだけでなく見る楽しみやストーリー性にあふれていることが挙げられます。

2.2021年3月12日に定期運用引退

2021年3月13日からのダイヤ改正により、特急「踊り子」はE257系に置き換えられることになったほか、「湘南ライナー」などの通勤ライナーの運転が取りやめとなり、定期列車から引退することになりました。ファンの間では惜別の声が高まっています。

湘南ライナー

東海道線沿線の通勤客から絶大な支持を得ている「湘南ライナー」。必ず着席できるため、停車駅ではライナー券を買い求める行列ができることも。画像は特設Webサイト「メモリアル185系おもいで館」より

3.特設Webサイト「メモリアル185(EXPRESS TRAIN MEMORIAL 185)」開設

特設サイト「メモリアル185(EXPRESS TRAIN MEMORIAL 185)」

特設Webサイトトップ画面

JR東日本では、2020年11月には185系の特設Webサイト「メモリアル185(EXPRESS TRAIN MEMORIAL 185)」をオープン。車両の紹介や40年の足跡、WEB写真展「メモリアル185系おもいで館」などを掲載、さらにツイッターでは「#メモリアル185」というタグで情報を発信し、ファンと思い出を共有しています。

夢の座談会が実現!運転士に聞く185系の思い出

◇お話を伺った運転士

安田徹也さん<安田徹也さん>
東日本旅客鉄道株式会社 東京支社田町運転区乗務主務(計画担当)。2006年まで約10年間運転を担当。「メモリアル185」の商品企画に参画

工藤和人さん<工藤和人さん>
東日本旅客鉄道株式会社 東京支社田町運転区当務主務。2003年入社。2012年から田町運転区で約6年間運転を担当し現在に至る

1.JR東日本全面協力!豪華座談会が実現

「メモリアル185」についての話を聞きに、JR東日本 東京支社を訪ねました。同行してくれたのは、芸能事務所ホリプロのチーフマネージャー・南田裕介さんと、「JTB時刻表」(JTBパブリッシング)の大内学編集長。
東京支社はJR田端駅のすぐ近くにあり、駅前の橋はトレインビューの名所。「眺めがいいですね!」「新幹線が目の前に!」とすでに盛り上がっています。

今回、東京支社での座談会に参加してくれたのは、185系の運転経験がある、安田徹也さんと工藤和人さん。安田さんは現在、運転士が到着・発車等の時刻確認を行うための時刻表を作成する業務を担当。工藤さんは現役運転士で、いわば2人とも185系のプロなのです。
南田さんと大内編集長には、とめどなくあふれる185系への愛を、工藤さんと安田さんには運転士ならではのエピソードを語っていただくなど、豪華座談会が実現しました。

JR東日本東京支社で行われた座談会の様子

JR東日本東京支社で行われた座談会の様子

2.「これが東京の特急か」(南田)、「今でも憧れの王子様」(JTB時刻表編集長)

南田:185系がデビューした1981年当時、僕は小学生で関西に住んでいました。国鉄特急といえばクリーム色の車体にあずき色のラインしか見たことなかったんです。それが、小5のときに初めて急行「銀河」で上京して、185系を目撃して驚きました。「えっ、こんな車両があるのか!これが東京の特急か!」と。図鑑で存在は知っていたものの、実物を見たときの衝撃は大きかった。自分にとっては東京の電車の筆頭ですね。

大内:南田さんはタレントさんと撮影で乗ることなどもあるのでは?

南田:それが、撮影で伊豆に行くときは大抵ロケバスなんですよ。車で行くと、よく渋滞にハマるので、「どうして『踊り子』にしないんだよー!」と何度叫びたくなったことか。

大内:それは大変ですね。

南田:その後、タレントと大船から都心に戻るときに、たまたま「踊り子」と時間が合ったので、ちょっと贅沢して、ようやく乗ることができました。「なんて快適なんだ!」と思いました。

大内:私、生まれが藤沢なんですよ。「踊り子」がデビューしたのは幼稚園の頃だったのですが、それまで485系(国鉄型特急の定番)が当たり前だったのに、突然白い車体に斜めのストライプ、それも太さが異なる3本をあしらうというデザインに衝撃を受けました。乗る機会がないまま、小2で茨城県に引っ越してしまい、うん十年経った今も乗れていなくて…。「憧れの王子様」のままです。2015年に上野東京ラインが開業して、我孫子始発の臨時特急「踊り子」が設定されたときはうれしかったですね。初日には「185系が来る!」と写真を撮りに行きました。

3.185系は新人泣かせ!? 運転士に聞く「ツーハンドル」185系運転の難しさ

185系運転台

南田:ビジュアルが強烈なインパクトを与えた185系ですが、モーター音と走行音も独特ですよね。あれは僕らでも聞きわけられるくらいですもんね。(ここで音マネ)

工藤:どうしても最新型と比べると古い車両ほど音が大きくなります。特に185系は「国鉄ならでは」の音があるんです。

大内:でもこれが私にとっては「都会の音」って気がする。遠方から東京に戻って185系が元気で走っているのを見ると、ああ東京だなあ、と思うんですよね。

南田:技術の発達で走行音も変わってきてますね。僕の子ども時代は電車を走る音を「ガタンゴトン」と表現していましたが、今の子どもは「ウィーン」といって走らせるそうで…。

大内:今は線路もロングレール(長いレールのため、つなぎ目の数が減る)ですし、音のとらえ方も変わってくるのでしょうね。

安田:先日、資料として、回送中に客室での音を収録しました。(とタブレットで動画を再生)

南田:おお、これはもはや財産ですね!

安田:「流しノッチ」という動作や加速したときの音を収録しています。

南田:(走行中の動画を見ながら)これで何キロくらいですか?

安田:約110km/hですね。運転士は速度感覚を鍛えているので、速度計を見なくてもだいたいわかります。なおかつ古い車両ほどわかりやすいです。

南田:「踊り子」は15両編成という日本一編成の長い特急列車。令和の世に、堂々たる風格の特急という気がしますが、東海道線E233系などに比べて運転は難しいですか?

安田:うーん。東海道線も15両なので両数による差はあまりないですかね。むしろ10両より運転しやすいです。

工藤:ただ、昔の車両なので、とにかくブレーキ操作の加減が難しいんです。ハンドルも重いし。

南田:といいますと?

工藤:私たちが所属している田町運転区では、185系の特急「踊り子」や「湘南ライナー」のほか、東海道線や横須賀線の運転を担当しています。東海道線や横須賀線も基本は15両なので、停止するためのブレーキポイントは同様です。185系でも決まった速度で入れば停止位置などに迷うことはないです。10両編成になると、停止位置が手前になるためブレーキのかけ方が変わってくるのでこのあたりは特に気を使います。

安田:185系の運転台は「ツーハンドル」と呼ばれるもので、加速とブレーキを別のハンドルで行います。最近の車両は(山手線のような)「ワンハンドル」が主流ですが、今までの鉄道車両はこのツーハンドルが基本でした。185系の場合は、国鉄時代の古い車両なので、最近の車両に比べるとノッチを入れる(自動車の「アクセルを踏む」に相当)だけでも重いです。よく言えば重厚感、でしょうか。

南田・大内:重厚感!!なんと素晴らしい響き!

工藤:しかも、185系は編成によってそれぞれ個性というか特性があって、編成ごとに、ブレーキのかけ方やタイミングは微調整が必要になります。

安田:停止位置にきちんと止めるためには、電気ブレーキが切れたあとが勝負なので、タイミングの見極めは経験がものを言いますね。

工藤:私は京浜東北線(旧下十条運転区)から異動してきたのですが、ワンハンドルでの運転だったので、185系は「新人泣かせ」でした。特に技量が要求されます。

南田:僕たちは乗っているだけで全然気づかなかったけれど、どの車両も同じ乗り心地で時刻通りに走らせるのは、運転士さんの実力と努力のたまものだったんですね!

185系運転マニュアル

185系運転マニュアル。なんと文字は手書き!操作法や図面が掲載されています

4.185系の車内オルゴールは4曲あった!

大内:安田さんは185系の車掌も経験があるとのことですが、車掌業務で現在の車両と異なるのはどういったところでしょうか?

安田:一番わかりやすいのは、車内放送の際に流すオルゴールですね。今はボタンひとつで操作できますが、かつてはゼンマイ式のアナログだったので、ピンが削れたり欠けたりしていると、ポロンと音が変わったりしたものです。

工藤:「鉄道唱歌」はよく流されているのでおなじみだと思いますが、185系には計4曲あるんですよ。

南田・大内:えっ4曲!?

工藤:ええ、普通のチャイムも含めてですが。「必ずこの曲を流す」とか「流してはいけない」、という決まりはありません。ただ、基本的には鉄道唱歌を流すので、あとは車掌判断になります。ほかの曲を聴けたらラッキーです。

南田:うわ~、それを聞いたらもう一度乗りたくなってきた!

JR東日本の工藤さん

5.「湘南ライナー」のドア扱いは難しい

南田:「湘南ライナー」のドアの開閉は大変だと聞きますが…。

工藤:通常、列車のドアはホーム側のドアを一度に開けますが、「湘南ライナー」の場合は、(検札の都合上)特定のドアだけを開ける必要があります。185系では個別のドアの開閉はできません。そのため、駅員が乗り込んでドアコックをひねるなど、いつもと違う工程が必要になります。なので、運転士に「湘南ライナー」の場合は送られてくる合図も通常とは異なります。

南田:「湘南ライナー」のような使い方は設計当時には想定外だったんでしょうね。(「湘南ライナー」の運転開始は1986年)

安田:詳しいことは言えませんが、下り列車より上り列車のほうが、車内の配電盤を操作するなど、手順は複雑になります。

南田:ユーザーにしてみると、「湘南ライナー」だけでなく185系は「ホームライナー」「おはようライナー」もあって、コーヒー1杯分の値段(現在のライナー券は520円)で座って通勤できるのは魅力でしたよね。

大内:時刻表制作の現場では、東海道線の路線は季節によりいろんな列車が走るため、制作は結構大変。読者から「「湘南ライナー」は横浜を通過しない」という問い合わせが来ることも多く、「湘南ライナー」が走る貨物線も巻頭の索引地図(路線図)に入れるようになりました。これは普段の東海道線とは異なるルートで、路線的もレアなんですよ。

6.最終日まで安全最優先で、感謝を込めて運転したい

JR東日本の安田さん

安田:こちらは、以前使っていた運転士用の時刻表です。

南田:おおお本物だ!

大内:通過する時刻もきっちり決められているのですね。

南田:185系らしさを鑑賞するとしたら、どのあたりがいいでしょうか。

工藤:熱海駅では185系の連結・切り離しシーンが見られます。例えば、東京行きの(伊豆箱根鉄道)修善寺からの踊り子と、(伊豆急行)伊豆急下田からの踊り子は熱海駅で連結します。

南田:係員の方の素早い動きについ見入ってしまいます。

工藤:駅係員の合図を見ながら連結するのですが、ツーハンドルでの連結作業は経験と技術が必要です。

南田:連結後、後ろに少し引っ張っているように見えます。

安田:当社の場合は、連結後、きちんと連結器がつながっているか確認作業してから発車させるため、一段階手順が増えます。185系は古い車両なので特に安全を追求しています。

大内:ホームで見る際は、子どもとしっかり手をつないで遠くから見るようにしたほうがいいですね。そうそう、見どころといえば、方向幕がある特急車両としても185系は貴重な存在ですよね。今のちびっ子たちは、方向幕を見るのって憧れだと思うんですよ。私自身、東京駅到着後などに回しているとつい見てしまいます。

安田:確かに回すのはちょっと楽しい作業のひとつですね。

南田:185系のそんな風景を見られるのもあとわずか。思うところはありますか。

安田:自分は運転士向けの時刻表を作る仕事なので、とにかく間違いのないように、運転しやすいような時刻表を作っていきたいですね。

工藤:お客さまと185系に感謝を込めて、最終日まで安全に運転したいです。今、ブレーキ用のハンドルでブレーキをかける車両は少ないですし、185系の乗り心地のよさを伝えられるのはブレーキ操作にかかっています。お客さまに快適にご乗車いただけるように運転したいと思っています。

185系と運転士の工藤さん

185系 特急「踊り子」と運転士の工藤さん

[後編]では、爆売れ185系グッズの開発担当者にエピソードをお聞きします。お楽しみに!!

写真提供・取材協力/JR東日本東京支社
撮影/小池彩子