コロナ禍は親子で料理がおすすめ。幼児教育にもつなげる方法(リトルシェフクッキング 武田昌美さん)

クッキングスクール「リトルシェフクッキング」の様子

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2020年のはじめから続く新型コロナウイルス禍ですが、いまもまだ終息の目途がたちません。その間、家族または子どもたちの日常生活も、これまでとは大きく変わることになりました。
「るるぶKids」では、このwithコロナに関わる子育てについて、識者や「子ども」に関わる職業に従事する方、SNSで活躍されている子育て中の方にインタビュー。第2弾はリトルシェフクッキングの代表取締役である武田昌美さんに、子どもと家で過ごす機会が多くなったからこそ知りたい、料理と幼児教育の関係を伺いました。

リトルシェフクッキング(株)代表取締役、子ども料理研究家®︎の武田昌美さん武田昌美さん
リトルシェフクッキング(株)代表取締役、子ども料理研究家®︎。立教大学法学部を卒業後、航空会社に客室乗務員として勤務。2人の子どもの親になり、「料理をツールに学ぶ仕組みが作りたい」と2018年に同社を設立。

目次(index)

子育ての中で発見した、子どもを夢中にする“料理”の魔法

2020年の春以降、外食が減り家で料理をする時間が増えた人は多いと思います。ただ、料理中は遊んでいるわけではないので忙しさは変わりません。でもキッチンにママやパパがいれば、「お手伝いしたい!」「やってみたい!」と子どもたちは思ってしまうのではないでしょうか。そのリクエストに答えて、ひとたびキッチンに招き入れてしまったら?……考えてみただけでもぐったり、という人も多いでしょう。

ところが、「実は、そっちの方がよっぽど楽なんですよ!」と「リトルシェフクッキング」の武田昌美さんは言います。

武田:私が働きながら子育する中で気づいたのは、「料理ってすごくコスパのいい遊びだな」っていうことなんです。忙しいからといって、子どもと遊ばないと気が引ける、ということってありますよね? でも、料理している横で何かをやらせてあげれば、それだけで一石二鳥です。やってみる?と聞くと、子どもは目をキラキラさせて寄ってきますしね。卵を割る時だって、たとえ失敗してしまったとしても、よく混ぜてレンジでチンするだけでも料理です。チーズを入れたりすれば、それだけで○○ちゃんのオリジナル料理になります。

料理を通じて子どもの才能を開花させることを目的とした「リトルシェフクッキング」も、子育てをする中で体験したことが教室の立ち上げにつながっています。

武田:娘が2歳の頃、キッチンで私が卵を割っていたところをじっと観察しながら「私もやりたい!」と近づいてきたことがありました。当時の彼女は絶賛イヤイヤ期。ダメ、と言うと、案の定ギャーギャー騒ぎました。
この子に卵を持たせて大惨事になるか、このまま1時間ギャーギャー泣かせておくか。そこで私は、「どっちにしろ大惨事になるのであれば、卵を持たせてみよう」と考えて、卵を渡すことにしたんです。
実際、最初の卵はぐしゃっと潰れてしまったんですが、泣いちゃうかな?と思ったら、「卵壊れた〜!」ってニコニコしてるんですよ。それで、「もう1個いる?」と聞くと、「うん!」と。「やり方を教えてあげる。コンコンとやって、パシャーッて割るんだよ」と教えたら、今度はこちらも驚くほど丁寧に扱いました。毎日続けていたら、すぐに綺麗に割れるようになったんです。

ヴィシソワーズ(じゃがいもの冷製スープ)作りの様子© LITTLE CHEF COOKING

ヴィシソワーズ(じゃがいもの冷製スープ)作りの様子 © LITTLE CHEF COOKING

そう楽しそうに話す武田さん。そこで彼女は「料理はゴールを見据えやすい作業」と考え、子どもが楽しく取り組みながら達成感や自信を得られる料理と幼児教育とを結びつけることを思いついたといいます。武田さんの掲げたゴールは、「料理上手」ではなく、「非認知能力を養い、自己肯定感を高めること」。
そうしてスタートした「リトルシェフクッキング」は、立ち上げから2年も経たないうちに、子どもに料理をさせたい親だけでなく、さまざまなメディアや企業からも引っ張りだこの人気教室となりました。

ところが、2020年に入ると、新型コロナウイルス感染症の影響が教室を襲います。人と人とが触れ合い、しかも飲食を伴う空間で行う料理教室。まずは参加者の数が減り、その後緊急事態宣言が発令されてからは、完全に教室を閉じざるを得なくなりました。

武田:新型コロナが広がり始めて、お客さんが1割も入らなくなったんです。かなり悩んだし、最初はもうダメだと思いましたね。でも、私は自分の母に「失敗してもいい」と育てられたんです。そのおかげで、厳しい状況に置かれた時こそ成功に転じるチャンスだと思うことができました。とことん落ち込んだので、次は反撃開始です。緊急事態宣言下ではYouTubeで料理動画を配信したり、オンラインレッスンをスタートしたりと、次々と新しいことにチャレンジしていきました。

クッキングスクール「リトルシェフクッキング」 オンラインレッスンの様子

© LITTLE CHEF COOKING

武田:オンラインではご自宅でレッスンを受けていただくので、材料などは親御さんに用意していただかないといけないですし、キッチンも汚れてしまうので、ちょっとハードルが高い(笑)。ただ、その分レシピの難易度を下げて、子どもたちがテンポよくできるように、焼き時間も短くてすぐできるようなものにしました。いろいろ工夫したことで、今では参加人数を減らし、子どもたちの間にパーテーションを設けるなどして万全の態勢をとることで再開した教室と、オンラインの両輪で「リトルシェフクッキング」の活動を進められるようになりました。

料理は「失敗したっていいじゃん」の気持ちを親子でもつのが大事

武田さんがYouTubeチャンネルで無料公開した「おうち時間を楽しむ子どもレシピ」には、「オムライス」「スコーン」「ビーフンで作る汁なし担々麺」が。どれもわかりやすいうえ、作業をスムースに進めるためのちょっとしたコツも教えてもらえます。
とはいえ、教室とは違って、家でやるとなると親が子どもたちの作業を見守りつつ、手伝わなくてはいけません。武田さんが普段から教室で心がけていることなどはあるのでしょうか。

武田:私たちは教室でいつも、「失敗は成功の一歩手前。失敗してもいいよ」と伝えています。たとえば卵割りだって、これ1個しかないからね、と言うのではなく、「見て!予備の卵がこんなにたくさんあるよ!」と言うと、子どもたちはのびのびとできるので、上手に割れるんです。

クッキングスクール「リトルシェフクッキング」の様子

© LITTLE CHEF COOKING

武田:もちろん、最初は失敗してしまうこともあります。以前、教室でチーズケーキを作った時も、うまく卵を割れずに、半分流してしまった子がいました。「半分の卵でやる? それとももう1回やる? どっちでも好きな方でいいよ」と聞くと、その子は「半分でやる」と。そこで「卵が流れた分だけ牛乳を足してみようね」と提案しました。
すると、他の子たちが作ったものは予定通りチーズケーキになったのですが、卵半分の子はプリンになった。そしたら「失敗したら新しいお料理ができちゃった!」って大喜びで、周りの子たちも「いいな、失敗っていいことなんだね」と。その子が失敗したことが、みんなにとってもすごくいい経験になったんですよね。
料理って結局、どう転んでもどうにかなるじゃないですか? だから、親子で料理する時も、「失敗したって大丈夫だよ」と伝えてあげれば、楽しくできると思うんですよね。大事なのは自信をつけてあげることだと思います。

2つめに伝えていることは、「料理のこつは先生のお話をよく聞くことだよ」ということ。私たちの教室ではデモンストレーションをしません。それは、聞く力が何より大事だから。子どもって、ちゃんと伝えればちゃんと聞く。だから、私たちの教室では幼稚園児にも火や包丁を使ってもらっていますが、これまで参加したのべ3000人の子どもたちに怪我人はゼロなんです。

3つめに伝えているのは「最後まで自分の力でやってみよう」ということ。失敗してもOKの前提があるので、一見難しそうなことにも果敢に挑戦できる環境を作っています。親も子もトライする前から上限を決めつけないように「まずはやってみよう」という雰囲気を大切にしています。

料理が遊びに! 忙しい時こそキッチンに子どもを招き入れよう

もうひとつ、子どもたちには小学校の家庭科の時間でおなじみの、黄(エネルギーのもとになる米やパン、麺類、芋など)・赤(血液や筋肉、骨や歯など、体を作るもとになる肉や魚、卵、大豆など)・緑(体を整えるもとになる緑黄色野菜や果物など)の色分けをさせることも良いのだそう。

武田:家庭科の時間に覚えるのは面倒だった記憶が私にもありますが、この色分けが子どもたちには大受けなんです。教室で親御さんからお話を伺うと、子どもたちは家に帰ってからも「今日は緑が少ないよ!」などと言っているみたいなんですよね。うちの子たちも、「黄色あった、赤あった、緑あった! 今日のご飯は完璧だね!」とか言っています。

もちろん私も闇雲に教えるのではなく、覚えやすいグループ分けには工夫しました。牧場にあるものは全部赤組!というふうにして、「牧場には牛さんや豚さん、にわとりさんなどがいるよね。だから、お肉や卵、チーズといったものは赤組さんだよ」というふうに。そうすると、あっという間に覚えるのでびっくりしました。ご自宅でも、料理や食事の最中などに「これは何組さん?」という遊びを、ぜひやってみてほしいとおもいます。

子どもと一緒にお出かけしにくい昨今、家での料理は子どもたちが楽しんで取り組めるうえにいい刺激を与えてくれる、とても良いコミュニケーションツールなのかもしれません。

ただ、やっぱりどうしても子どもをキッチンに入れて何かさせることには勇気も要ります。そんなママやパパに、最後に武田さんにアドバイスをもらいました。

クッキングスクール「リトルシェフクッキング」の様子

© LITTLE CHEF COOKING

武田:ストレスを減らすひとつのコツは、作業台を別にすること。椅子を持ってきて、そこを子ども用の台にしたり。子どもたちの聖域を作ってあげると、お互いうまくいくものです。あとは、もし可能なら子ども専用の道具を渡してあげてください。
包丁はステンレス性のよく切れるものを使わせたほうが、長い目で見ると怪我が少ないですね。というのも、切れない包丁だと無理に切ろうと躍起になってしまうことで、余計に深い怪我をしたり、間違った持ち方が定着してしまう恐れもあります。
まあ、うちの子どもたちも最初は小さい傷を作っていましたが、今ではすっかり上手になって、安心して見ていられるようになりました。小さな怪我を身をもって体験することで、大きな怪我を未然に防いでいると思っています。

百聞は一見に如かず。キッチンに一度入れてみたら、「遊んで遊んで!」の連呼から解放されるだけでなく、これまで気づかなかった才能が開花するかもしれません。まずは今日、卵割りから始めてみてはいかがでしょうか?