北澤豪さんに聞く!パラリンピック競技・ブラインドサッカーを子どもと楽しむ方法

北澤 豪さん

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東京2020オリンピックのサッカー男子日本代表(U-24日本代表)、サッカー女子日本代表、パラリンピックの5人制サッカー(ブラインドサッカー男子)日本代表は、同じユニフォームを着ていることをご存知ですか?それは 「障がいの有無にかかわらない“ごちゃまぜ”の共生社会の実現」に、サッカーを通して尽力されてきた北澤豪さんの思いの形のひとつ。オリンピックと同じように、パラリンピック、障がい者スポーツを楽しむには? 子どもにこそ体験してほしいことをお伺いしました。

北澤 豪さんプロフィール
元サッカー日本代表。1968年生まれ。本田技研、読売クラブ(現東京ヴェルディ)で活躍。日本代表としても多数の国際試合に出場(日本代表国際Aマッチ59試合)。現役引退後、2016年に日本障がい者サッカー連盟を設立し、会長に就任。障がいの有無にかかわらず、誰もがサッカーを楽しめる環境づくりに尽力。スポーツを通した社会貢献活動を表彰する「HEROs AWARD 2019」最優秀賞を受賞。

目次(index)

1.パラリンピック競技のブラインドサッカーとは?

日本障がい者サッカー連盟の会長を務める北澤さん

「サッカーなら、どんな障がいも超えられる。」が合言葉。(©︎日本障がい者サッカー連盟)

北澤さんは、ブラインドサッカー(視覚障がい)やデフサッカー(聴覚障がい)などの7つの障がい者サッカー競技を統括する日本障がい者サッカー連盟(JIFF)の、日本サッカー協会(JFA)の関連団体としての設立に尽力され、会長に就任しました。健常者と障がい者の隔てをなくし、誰もが一緒になってサッカーを楽しむ“ごちゃまぜサッカー”の実施などを通して、共生社会の実現に尽力されています。

今回るるぶKidsでは、パラリンピック競技であるブラインドサッカーのみどころや、障がい者スポーツの楽しみ方についてお聞きしました。

ブラインドサッカーはどんな競技?

ブラインドサッカーのボールは鈴が入っているよ!

―― まず、ブラインドサッカーとはどんな競技か教えてください。

北澤:ブラインドサッカーは、視覚障がいのある選手がプレーする5人制サッカーです。アイマスクをしたフィールドプレーヤーが4人。障がいの程度には個人差があるので全員がアイマスクをして完全に視覚を閉じます。ゴールキーパーは健常者。転がると鈴の音がなるボールを使います。

ゴールの位置や距離や角度などを言葉で伝えるコーラー(ガイド)、監督も健常者。フィールドプレーヤーたちは、キーパー、コーラー、監督の声の指示を聞きながらプレーをします。つまり、障がい者と健常者が一緒にプレーする競技なんです。両者が協力しあうのがルールの面白さ。ブラインドサッカーのフィールドは、まさに僕らが目指すべき共生社会そのものなんですよ。

ブラインドサッカーのコミュニケーション能力

ブラインドサッカーを楽しむ北澤さん

ブラインドサッカーを楽しむ北澤さん (©︎日本障がい者サッカー連盟)

―― 北澤さんがはじめてブラインドサッカーをしたときは、いかがでしたか?

北澤:これがまったくできなかった!アイマスクをした瞬間、こわいと思いましたね。人間は、情報の8割を目から得ると言われています。それがシャットアウトされるとどうなるか。

―― 視界は暗闇、まわりの声だけが頼りですね

北澤:だからね、ブラインドサッカーの選手たちは言葉のコミュニケーションがすごく上手なんです。「もう少しこっち」なんて言っても、見えない人には伝わらないから。誰に対しても、同じ絵が描ける言葉の使い方を身につけているんです。

ブラインドのコミュニケーション能力の高さは近年とても注目されていて、企業やJリーグのチームが研修に取り入れているほど。普段なにも不便がないと、喋らないでも済んでしまうことがいかに多いかということに気づかされますよね。

2.パラリンピックでのブラインドサッカーのみどころは?

写真提供:日本ブラインドサッカー協会/鰐部春雄

見えているかのようなプレーの連続!(写真提供:日本ブラインドサッカー協会/鰐部春雄)

パラリンピックでのブラインドサッカーの競技名は「5人制サッカー」。8月29日から予選がはじまります。

耳をすませて、声と音を聞いて

―― パラリンピックでのブラインドサッカーの見どころを教えてください。

北澤:テレビ観戦でも、選手たちの声がよく聞こえると思います。ボールの鈴の音も聞こえるかな?ぜひ耳をすませて観てください。「ボイ!」という掛け声は、フィールドプレーヤーが、ボールを持った相手に向かって行く時に自分の存在を知らせ、危険な衝突を避けるために声を出すルール。スペイン語で「行く!」という意味です。

想像以上にフィジカルコンタクトがすごいですよ。肉体の音がバチバチするんです。「本当に目が見えてないの?」「見えてるとしか思えないんだけど」というプレーの連続。本来は目が見えないってすごく怖い世界だけど、そんな恐怖心を感じさせないパフォーマンスは圧巻。すごく面白いですよ!

ブラジルのリカルドの神業は必見!

―― 北澤さんは、パラリンピックのブラインドサッカー競技の組み合わせ抽選会で、ドロワー(抽選人)を務められましたね

北澤:日本は、強豪のブラジル・フランス・中国と同じA組。大変なカードをひいちゃいましたが、わくわくしますね!ブラジルは4大会連続のパラリンピック王者。なかでも、ブラジルのリカルド・アウベスという選手は本当にすごいですよ。ぜひ注目してみてください!

3.親子で挑戦!「ブラインドあそび」でパラ観戦をもっと楽しく

パラリンピック観戦を、より楽しくするためのアイデアをお聞きしました。

おうちでできる「ブラインドあそび」

―― 子どもにとって、パラ観戦をぐっと楽しいものにするには?

北澤:なにより「体験してみること」が一番!ぜひ、ブラインドサッカーの観戦前でも後でもいいので、親子で目隠しあそびをしてみてください。一人が目隠しをし、一人がコーラー役になって向き合います。コーラーが指示をだして、まずまねっこ体操をしてみましょう。向き合うと左右が逆になることに混乱するし、つい「あっち、こっち」などと曖昧な指示をだしてしまうことに気づくと思います。ブラインドの大変さを感じるだけでなく、コミュニケーションの大切さもすごくわかると思いますよ。

―― あそび体験だけでも、競技の見方が変わりそうですね

北澤:そうした気づきって、親がしてあげられる大事な教育のひとつだと僕は思うんです。子どもは、頭や理屈より心で感じることに動かされますよね。スポーツは、子どもにとっては体感の絶好の機会。ブラインドサッカーは家のなかや近所の公園などでもやりやすいので、ぜひ、多様性やインクルーシブな価値観に触れるのに大いに利用してほしいなと思います。

子どもにこそ体験してほしい感覚

―― 先ほど、情報の8割は目で得ているというお話がありましたが、視界を奪われると、聞くことに集中せざるをえなくなりますね

北澤:そう、視覚以外の感性がぐっと研ぎ澄まされるんですよね。この「神経を研ぎ澄ます感覚」というのは、脳の発達にもとてもいいんです。その意味でも、いろいろなことが吸収できる子どものときに、ぜひ経験させてあげてほしいですね。僕も、もっと早くブラインドサッカーに出会いかった。そしたら、もっとサッカーが上手くなってたと思うからね(笑)

4.障がい者スポーツの壁は、見る側にあり

左から:熊谷紗希選手、吉田麻也選手、川村怜選手

2020オリンピッック・パラリンピックのサッカー出場チームは、同一ユニフォームを着用。左からなでしこジャパン・熊谷紗希選手、U-24日本代表・吉田麻也選手、ブラインドサッカー男子日本代表・川村怜選手。(©︎JFA)

オリンピックとパラリンピックの見えざる「壁」についても伺いました。

障がい者スポーツは、弱みを強みに変えた世界

―― オリンピック観戦は思いっきり楽しめても、パラリンピックは、つい一歩引いた見方をしてしまうのも正直なところです

北澤:僕も最初は障がいに目がいってしまって、すごく気を使っていたんです。共生社会を、なんて言いながらも、どこか隔てている自分がいました。それが、一緒にサッカーをやっていくうちに、ピッチの上では障がいのことを忘れて、同じ目線で喋っている自分に気づいたんです。

なぜなら、彼らはスポーツを通して、障がいという弱みを、多くの強みに変えているから。先ほどお話したコミュニケーション能力の高さもそのひとつ。それとね、ブラインドの選手たちは「あきらめない」という水準がすごく高い。見えないことが日常的な彼らは、あきらめたら生活ができないわけです。だから、大変だなんて言っていられない。恐怖心を克服してピッチに立ち、スポーツをとことん追求する姿勢には、むしろこちらが刺激を受けることばかりです。

ブラインドサッカーを楽しむ北澤さん

得点の喜びはひとしお!(©︎日本障がい者サッカー連盟)

やっぱりね、壁をなくすには、健常者と障がい者が一緒になってすごす、一緒にやるという経験はとても大事だと感じますね。ブラインドサッカーは、まさに両者の共生で成り立つ競技なので、パラリンピックで観戦を楽しむことや、親子で目隠し遊びを体験してみることも大きな一歩だと思います。

サッカーはワンチーム!統一ユニフォームの実現

―― サッカー日本代表は、2020オリンピック・パラリンピックから統一ユニフォームを着用し、隔てをなくしましたね

北澤:たかがユニフォーム一枚でも、選手にとっては、同じサッカー選手なんだと一体感や仲間意識が生まれます。だから、見る側のみなさんもパラリンピック選手も同じ日本代表として応援してほしいです。僕は本当は全競技で統一ユニフォームにしたいくらい。健常者/障がい者の壁、オリンピック/パラリンピックの壁をなくして、性別の壁もなくして、競技間の壁もなくして。誰もが当たり前にスポーツを一緒に楽しめる環境づくりに、このパラリンピックが機運となってほしいですね。

5.パラリンピックのその先、ごちゃまぜの共生社会へ

ブラインドサッカー体験イベントの様子

ブラインドサッカー体験イベントの様子。ボールを手でキャッチするだけでも大変!

日本では、パラリンピック以外では障がい者スポーツに触れる機会がとても少ないのが現状です。

スポーツは、みんなのもの

北澤: だから、日本はまだスポーツを見る文化が成熟していないんですね。スポーツの価値は、いいものをみる、すごいものをみることだと思ってしまっているところがある。だけど、スポーツは限られた人がやるものではない、誰もができる「みんなのもの」。アスリートだけのものではないし、勝った負けただけでもない。幅広くスポーツを見てほしいなと思います。

それには、ブラインドサッカーだけでなく、さまざまな障がい者スポーツが競技として確立され、活躍できる環境づくりをもっと進めていきたいですね。僕は、障がい者サッカーがJリーグと同じようにスタジアムにサポーターが集い、観戦ができるようになる日を目指しています。

体験することが一番

―― 北澤さんは、インクルーシブフットボールという“ごちゃまぜサッカー”も実施されています

北澤:インクルーシブフットボールでは、健常者と障がい者、発達障がいやダウン症の子なども一緒に、“ごちゃまぜ”でサッカーをしています。片足がなければ正確なパスをしよう、目が見えなければしっかりと声を出してコミュニケーションをとろう、耳が聞こえなければボディランゲージをしよう。一緒にピッチに立てば、子どもたちはそんなふうにさまざまなやり方を発見していくんです。
また、イベントに参加してくれた子達が、その帰り道に「この階段はブラインドには登りづらいね」「この道幅は通りにくいね」と気づく。そうやってスポーツを通して感じたことが、社会にフィードバックされていくことが共生社会の実現につながると思います。

パラリンピック観戦を通して、子どもがいろいろなことを感じたり、親子で話しあったりすることも、気づきのきっかけになりますよね。そして、やはり体験することが一番!ぜひ障がい者スポーツの体験イベントにも、親子で参加してみてください。その経験は、必ずや子どもたちにとって、ユニバーサルな時代を生きる力になると思います。