「子どもには世の中をうまく生きていける大人に育ってほしい」と願う親は多いですが、そのためには子どものうちから政治を身近に感じることが大事。今回は、難しく思われがちな「政治」を、マンガとクイズでわかりやすく解説した新刊本の発行を記念して、政治家(衆議院副議長)の海江田万里さんとスタディサプリ講師の伊藤賀一先生のスペシャル対談をお届けします。できることから始めてみましょう。
海江田万里(左)
無所属、第68代衆議院副議長。1949年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部卒業。経済評論家、参議院議員秘書を経て、1993年第40回衆議院議員選挙で初当選。
伊藤賀一(右)
オンライン予備校「スタディサプリ」の「日本一生徒数が多い社会科講師。1972年京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒業。『歴史を深ぼり!日本史を動かした50チーム』(JTBパブリッシング)など著書多数。
子どもに「政治」をどう伝えたらいい?
―― 政治って子どもにとって遠くて難しい存在だと思われがちですが、何から伝えればいいのでしょうか?
海江田先生:人間は、生まれてから死ぬまで社会と関わりながら生きています。社会と関わるためにはルールが必要で、そのルールを決めるのが政治です。たとえば、子どもが生まれれば出生届を役所に提出するというルールがありますよね。人間はこの世に生を受けた時点で、こうした政治によって決められたルールに関わるのです。児童手当なども同様です。だから本人たちは気づいていないだけで、子どもにとっても政治は身近なものなんですよ。
伊藤先生:私には小学校低学年の子どもがいます。具体的に「政治とは何か」を理解するにはまだ早い年齢ですので、学校とルールに置き換えて話しています。クラスにはさまざまな意見を持った子どもたちがいて、その意見をまとめてクラス活動をするためには、優先順位が必要ですよね。その優先順位を多数決などで決めてルールを作るのがクラスの班だったり、学級委員で構成される児童会であること。これらを分かりやすく噛み砕いて話すよう心がけています。学校でルールを作ることと、政治で法律を作ることはとても似ているプロセスですから。
海江田先生:確かに「社会」を「学校」「クラス」に置き換えて考えてみると、子どもでも分かりやすいですね。クラスの中であっても自分一人ではなく、人との関わりの中で学校生活を送っていくわけですから。そのためにはルールが必要であり、そのルールを決めるのが広い意味での政治だと、私も思いますね。
子どもの方が「多様性」を理解している!?
―― 現代では政治や社会生活のなかで多様性について触れられることが多くなりましたね。
伊藤先生:都心で生活する子どもの場合、ごく自然と多様性を受け入れているケースも多いように感じます。私が以前住んでいた東京都新宿区の区立小学校では、さまざまな国のバックグラウンドを持つ子どもが多くいます。また、両親共働きの子どもいれば、シングルマザー・ファザーを持つ子どもなど、家庭環境もさまざま。以前は異なる環境の人に対して敏感だったように思うのですが、今の子どもたちはそんなこと気にしていないというか、異なる国の友達と遊ぶことは日常だし、現実としてありのままに受け入れているんですね。
海江田先生:日本の社会は、多様化の時代に入ったことがよく分かるたとえですね。むしろ親の方が多様性について考えなくてはいけないかもしれません。多様化社会であればこそ、違いを受け入れながら違いのある人たちをどのようにまとめ、社会に摩擦が起きないようにするためのルールが必要です。それを決めるのが政治の役割です。政治は時代とともに変わっていきますが、それは「強い者のルール」であってはなりません。
―― 子どもたちにはもう身近に政治があるわけですね。ですがそれに気づくきっかけ、「政治の入口」としてわかりやすいものはありますか?
海江田先生:たとえば「学校給食が今年から無償になった」。これも子どもたちが政治との出会いのひとつではないでしょうか。
伊藤先生:隣の市や区では、学校で給食を食べるにはお金が必要だけど、自分が通う学校では給食費はタダ。なぜなのだろうと、子どもは考えますね。東京23区をみても、給食費が有償の区と無償の区がありますから。
海江田先生:給食費の無償化は、都道府県知事や市町村長、東京23区の区長などの首長が「公立小中学校の給食費を無償にしたい」と考え、それを議会に諮った結果、賛成多数を得て決まる場合が多いようです。都道府県や市区町村の予算には限りがあるわけで。その優先順位を決めるのも政治なんですね。
政治への興味、親子でできる第一歩は?
―― 親子で政治に関わりたいという方の、はじめの一歩としてできることはなにかありますか?
海江田先生:親でさえ政治に興味を持つことが減っているでしょうから、子どもはさらに興味を持つことは難しいように思えるでしょう。ですが、「自分はこうしてほしい」「こうなったら便利」といった考えや意見を持つことが第一歩ではないでしょうか。その上で国会議員、都道府県議会議員や市町村議会議員が開設しているホームページのご意見欄に声として届けること。これが政治参加への第一歩です。選挙権は満18歳からですが、子どもでも政治に関わることが可能なんですよ。
伊藤先生:政治について授業でどう教えるかは、学習指導要領で指針が示されていますが、実際には教師の裁量に頼る面もあると思います。偶然ですが、私の子どもが通う小学校が選挙の投票所になっているので、校門近くが選挙ポスターの掲示場所になっています。「顔がたくさん並んでいる大きな看板があるけど、あれは何?」といった疑問や、投票日に子どもが「休みの日なのにお父さんやお母さん学校になにをしに行くの?」といった質問に答えることも、政治について知るきっかけになると思います。
海江田先生:親が選挙に行くとき、その意義や大切さを子どもに話すのも良いかもしれませんね。
なぜ選挙に行くべきなのか?
―― 日本の投票率は世界で139位。選挙の投票率が低いことについて、どのようにお考えでしょうか?
海江田先生:「投票率が前回選挙に比べ何ポイント下がった」といったニュースをよく聞きます。その中身を見てみると、衆議院議員選挙や参議院議員選挙といった国政選挙の投票率は下落傾向にあるとはいえ、前回令和3年の衆議院議員選挙では50%、令和4年の参議院議員選挙では52%でした。これに対し、私たちの暮らしにより身近な課題を解決してくれることが期待される地方選挙の投票率は概ね30%台と低い。これが大きな問題です。投票をしないと、旧来からある固定した支持層の意見しか通らなくなります。「投票したい候補者がいない、だから選挙には行かない」という考え方は適切ではないと考えます。
伊藤先生:国政や地方選挙の演説を聞いていて、たまに首をかしげることがあって…。選挙区を持っている国会議員候補の方が、地方議員候補よりも地元のことをよく把握しているんですよ。逆に、地方議員候補が地球環境問題を訴えたり、日本全体の課題を訴えたりと、アピールするポイントがずれていることがあるように感じます。地方議員候補であればもっと暮らしに身近な課題解決について訴えるべきと個人的には思うのですが…。このような状況に、若い有権者は少し冷めた目で見てしまうのかもしれませんね。
海江田先生:仮に、理想に合った候補者がいなかったとしても、次善の候補者に投票することもできますよね。目当ての料理を期待してお店に入ったけど「その料理が売り切れだったから帰る」ということはないのと同じ。お店に入った時点でお腹は減っているのですから(笑)。地方議会議員や首長は自分たちの政治をもっと有権者に伝える努力、有権者側は地元でどのような政治の取り組みが行われているかを知る努力が求められますね。
伊藤先生の人生を変えた選挙とは⁉
―― そういえば、伊藤先生が初めて投票したのは海江田先生だったそうですね!
伊藤先生:そうなんです(笑)。実は私、初めて選挙に行き、投票したのが海江田先生だったのです。
海江田先生:それは驚きです! いまの私があるのは伊藤先生の1票があったからなんですね(笑)。
伊藤先生:そうおっしゃられると、気恥ずかしい限りです。1996年、当時私は24歳で東京の新宿区高田馬場にある予備校の講師として勤務していました。それまでは、自分が選挙に行かなくても大きな影響はない、と考えていました。
海江田先生:私が東京1区から日本新党の候補者として立候補した1996年の第41回衆議院議員選挙のときですね。
伊藤先生:私の勤務先のあった閑散とした住宅街の通りで、海江田先生は聴衆がほとんどいないにもかかわらず、街頭演説で熱く政見を訴えていらっしゃった。その姿を間近に見て感銘を受けたのです。このとき初めて「選挙に行ってみよう」と思いました。そのあと、これまた高田馬場駅近くを歩いていた時に、海江田先生に直接ビラを渡してもらったんです。これがもう一押しになって「選挙に行く」となりました。この一押しが必要だと思うのです。「行ってみよう」は誰でも思える経験があるんじゃないですかね。そのうえで「行く」に変える最後の一押しが必要なんです。実際に、海江田先生に1票を投じたことが、いまの私の公民系の仕事につながっていると言っても、決して大げさではありません。
学校や先生にも考えてほしい、政治に触れる機会
―― 親だけでなく、学校や先生が、子どもの政治に対する意識を養うにはどうすればよいでしょうか?
海江田先生:国会議事堂の見学は知られていますが、身近な県議会や市議会にも是非子どもを連れて行っていただきたい。議会が開かれていなければ、こんな場所で議会が行われているんだ、と議場や議会の建物を知ってもらうだけでも構いません。議会はオンラインでも中継されているので、それをクラスで見るのもひとつの方法ではないでしょうか。
伊藤先生:教師の立場として特定の政党の話をしてはいけない、という縛りはありますが、小学校なら社会、中学校なら公民の授業で見せるのもいいですね。
48万部突破!人気学習マンガ本『るるぶ マンガとクイズで楽しく学ぶ!政治と憲法』が発売
―― 「政治」という難しい分野だからこそ、マンガを通して楽しく学び、クイズで復習しながら身につけていってほしい。そういった想いから、社会の大きな3つの柱「地理」「歴史」「公民」の一つとして、『るるぶ マンガとクイズで楽しく学ぶ!政治と憲法』を伊藤先生の監修のもと発売しました
海江田先生:本書はとても中身が濃い一冊だと思います。通して読むのもいいですが、小学校を卒業するまでに読み切る、といった目標を立てて活用する方法もありますね。いつもそばに置いて、テレビやインターネットのニュースで気になったことをより詳しく知るために活用するものいいと思います。子どもたちには本書をきっかけとして「政治」に興味を持ち、将来社会人として成長していくことを期待しています。ひょっとしたら、この本を通して政治家になりたい子も現れるかもしれませんしね!
伊藤先生:今回、私が本書を監修させていただいたわけですが、監修にあたり学校の先生方に刺激を与えたい、という思いもありました。海江田先生には、これからの私の講師生活の励みとなる言葉をいただきました。本当にありがとうございました!
『るるぶマンガとクイズで楽しく学ぶ!政治と憲法』
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