夏休みの宿題といえば「自由研究」。毎年「何しよう…」とテーマ選びに苦心する声も多く聞かれます。教育方法学の専門家、中山芳一先生によると「難しく考えなくても、子どもがふだん無意識にやっていることこそが自由研究」とのこと。楽しいテーマの見つけ方のアイデアと、親の関わり方を教えてもらいました。
監修 中山芳一先生
1976年岡山県生まれ、3児の父。岡山大学准教授。専門は教育方法学。大学生のキャリア教育に加え、幼児から小中高生の非認知能力やメタ認知能力育成についても研究。新刊の『「やってはいけない」子育て 非認知能力を育む6歳からの接し方』(日本能率協会マネジメントセンター)のほか『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(東京書籍)など、著書多数。
<こちらの中山先生の記事も参照!>
1.テーマ探しの前に!まずは親が自由に考えよう!
それ、「なんちゃって自由研究」になってない?
最近は、必要なアイテムがセットになった自由研究キットがたくさん売られていますよね。それを使えば確かに簡単ですが、すでにやることが決まっていて説明書通りに作るだけでは、残念ながら自由研究とはいえません。また、自由研究のテーマを親が決めて子どもにやらせる場合も同様です。それでは「なんちゃって自由研究」になってしまい、ドリルや問題集といったほかの宿題とあまり変わりがありませんね。
「何やりたい?」はNG!? 定番テーマにとらわれないで
自由研究と聞くと、植物の観察や工作などを思い浮かべる方を多いと思います。ですが、そもそも「自由」といっているのですから、何をテーマにしてもいいのです。
子どもにまず「何をやりたい?」と聞く方も多いですが、実はこれはあまりおすすめしません。ふだんから“昆虫が好きだからもっと調べたい”などと興味が定まっている子はいいのですが、そうでない場合、子どもは研究テーマなどすぐに出てこないものです。
まずは親が、「自由研究をやらせなければ!」という考えをあらため、「子どもが日常の中で無意識にやっていることを深掘りすることが自由研究」だと認識を変えてみましょう。そうすると、自ずとたくさんのテーマが見つかるはずです。日常生活の中からテーマ探しをすると、自由研究がぐっと子どもにとって楽しく取り組みやすいものになりますよ。
2.楽しく自主的に取り組めるテーマ探しのアイデア
子どもの日常生活をながめてみると、実は研究テーマの宝庫!楽しくテーマ探しをするアイデアをご紹介しましょう。
日々の小言に、テーマがあるかも⁈
例えば、ずっとゲームばかりして、宿題をしてくれない…という子は、「小3男児は何時間ゲームをし続けられるか」をテーマに自由研究にしてはどうでしょうか。好きなだけゲームを続けられて、しかも自由研究にもなるのですから、自主的にとりくめること間違いなし!でしょう(笑)。
研究の本質は「自分で立てた問いに対して、明らかにすること」。ですから、
「鼻くそを丸めていったらどこまで大きくなるのか」
「爪を噛むのは、栄養になるのか?」
だって立派な研究テーマになります。日頃、何度注意をしても治らない、本人が無意識にしているクセや習慣を、研究テーマとして引き出してあげてはどうでしょうか。研究して掘り下げた結果、クセが治ったら一石二鳥ですね!
困りごとや「危機感」から探してみよう
「蚊に刺されると、かゆくていやだ」「汗をかくと、べたべたして気持ちが悪い」といった、子どもの日々の困りごとや気になっていることも研究テーマになります。
もっというと「危機感」をテーマにするのもおすすめです。例えば、低学年のお子さんだと歯が生え変わる時期で、抜けたところが気になって仕方がないという子も多いでしょう。「このまま歯が生えなかったらどうしよう、歯はどこから出てくるのかな?」といった疑問は立派なテーマになります。
私は学生のとき、抜け毛が気になり髪について研究していたことがあります。「このままじゃハゲてしまうかも!」という危機感から、熱心に調べたんです。おかげで髪は今でもふさふさですよ(笑)。
3.自由研究は「非認知能力」と「認知能力」がセットで伸びる!?
「非認知能力」と「認知能力」とは?
近頃よく耳にする「非認知能力」という言葉。学校のテストなど、点数化・数値化して測ることができる「認知能力」とは対照的に、コミュニケーション力や忍耐力、自尊感情や自主性、意欲といった、点数にして測りにくい力のことを「非認知能力」といいます。すなわち、「生き抜くために必要な力」のことです。今の子どもたちが生きていくこれからの時代は、「不安定・不確実・複雑・不明確な時代(VUCA時代)」と呼ばれており、認知能力だけではなく、非認知能力がますます必要になるとして、近年、世界各国で注目を集めています。
「自主的×自由研究」に勝る勉強はなし!
自由研究に夢中になり「楽しくて仕方がない!」といった場合はオプティミズム(楽観性)が、逆に途中で何かしらの壁にぶつかった場合は、忍耐力やレジリエンス(回復力)が育まれます。子ども個人にも、プロセスにもよりますが、自由研究に取り組むことで、何かしらの非認知能力が育まれることが期待できるんですね。
さらに、自由研究ではその研究に必要な認知能力もセットで身に付きます。しかも「自分が知りたいこと・やりたいことのために必要な知識」は深めやすく、忘れにくいというメリットも。そこがドリルや問題集といった、ほかの勉強と大きく異なる点です。
4.親の関わりのポイント 手伝ってもいい?
親からの提案は、強制ではなく合意を大切に
最初に簡単にできる自由研究キットのことに触れましたが、キットをきっかけに興味をもち、「どうしてこうなるのかな? もっとこうしてみよう」などと深堀りしていけば、それは立派な自由研究になります。大事にしてほしいのは「親からの強制でなく、決定するのは子ども」だということ。それは、キットだけでなく、先述の日常生活からテーマを見つけるうえでも同じです。
親の提案に「うん」と言わない子には?
親がいろいろと提案をしても、あれもこれも「いやだ」と返される場合もありますね。「No」と言われることを、ネガティブに捉えてしまう親御さんがいますが、「No」とか「私は〇〇がしたい」と言えることは、とてもステキだと思います。それだけ親を信頼しているという証しですから。そういった関係性ができているのであれば、むしろどんどん提案したらいいと思います。大人よりも、子どもの方がよっぽど日々いろいろなことを発見しているので、いずれ子どもが自ら「私はこれがいい」と言えるときがくるのではないでしょうか。
自由研究を親が手伝ってもいいの?
自由研究のテーマを見つけられたら、子どもが自主的に一人で研究を進めるのが理想的です。ですが、学年や内容によっては親子で一緒にやってもいいと思いますし、むしろ私は一緒にやることをおすすめしています。それも、子どものために仕方なくやるというスタンスではなく、「自分のスキルアップのため、仕事のため」と思って真剣に取り組むのが◎。
「教育の最強の手法は“モデリング”」「学びは真似び」というように、親が熱中している姿を子どもに見せるのは、子どもの教育上とても良いことなんです。一度、大人も苦戦するような難題に親子で挑戦してみるのもおすすめ。その経験だけでも、子どもはものすごく成長します。自由研究という宿題は、それだけの可能性があるもの。ぜひ親子で楽しく、自由に取り組んでみてくださいね。