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秋の歌声、聞こえてきました♪

移住インタビュー|ケーキも、保育園も!?ないならつくる不便で豊かな田舎の暮らし(岩手県田野畑村)

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移住インタビュー|ケーキも、保育園も!?ないならつくる不便で豊かな田舎の暮らし(岩手県田野畑村)

これからどんな暮らしがしたいのだろう。
住まいを変えようと思ったとき、誰もがあらためて考えることだと思います。そしてその結果、地方への移住に興味を持つ人たちもいるかもしれません。
今回紹介する高浜大介さん・菜奈子さんご夫妻は、自分たちがしたい暮らしを実現する場所に、岩手県北部の下閉伊郡田野畑(たのはた)村を選びました。

田野畑村は、太平洋に面した人口3000人ほどの小さな村。都会と比べると不便なことも多いですが、お二人は「ないならつくる」という前向きな姿勢で、暮らしを充実させています。
大介さんと菜奈子さん、そして3才と0才の二人の娘さんも一緒に、お話を聞かせてもらいました。

目次(index)

実践者になるための移住

高浜さんご家族は、もともと千葉県の佐倉市に住んでいました。田野畑村へ移住した背景にあるのが、お二人が長年続けてきた、NPO法人「地球のしごと大學」の仕事です。
大介さんが代表を務め、菜奈子さんがスタッフの一人として働く、地球のしごと大學。お二人の出会いの場所でもあります。

大介:大学といってもキャンパスはなくて、日本のいろんな地域を訪れて、田舎のしごとや暮らしの知恵を学ぶ講義を主催している団体です。農山漁村の自然と共生する生き方に、これからの時代を生き抜くヒントがあるんじゃないか、という考えで活動しています。

講義の舞台となるのは、オンラインのほか、千葉県や岩手県など日本のさまざまな地域。自然豊かな場所に住んで、自分の手で仕事や暮らしをつくっていきたい。全国各地から集まったそんな想いを持つ参加者たちをサポートするのがお二人の仕事です。

畑で講義を聞く様子(岩手県/田野畑村)

決まった拠点はないため、仕事によって住む場所が左右されることはなかったそうですが、田野畑村に移住するきっかけはなんだったのでしょう。

大介:もともとは佐倉市の里山地区に住んで農業をやっていました。とはいえ車でちょっといけば都市という環境で。この仕事をやっている以上、僕らは実践者として、不便なところでも楽しくやれることを証明していく必要があるなと。妻の実家が青森の八戸なので、近くで暮らせたらいいなと思ったこと、子どもを自然豊かな場所で育てたいと思ったことも移住を決めた理由です。

それぞれの条件に当てはまる場所を探すうちに、偶然しごと大學の卒業生がUターン移住をしていた田野畑村が候補となったそうです。
2018年の秋、高浜さん一家は、新たな暮らしの舞台として田野畑村に移住をしました。

岩手県/田野畑村の山々

「見られている」人間関係

仕事柄、もともと頻繁に地方を訪れていたお二人。とはいえ、小さな村ならではの人間関係には、実際に住んでから驚かされたことも多かったそう。

大介:Facebookに畑でジャガイモ堀りをした写真を載せたんですよ。「ジャガイモがいっぱい採れました」って。そうしたら、どこから聞いたのか、まちで偶然会った人に「いっぱい採れたんですってね」って言われました(笑)。広報誌に載ったことがあるから、こっちは知らなくても相手が自分の顔を知っていることはよくあります。田舎の人間関係の狭さは、実際に入ってみてわかりましたね。

自分たちがどこでどんなことをしていたか、地域の人に見られている感覚は、都会にはないもの。子どもも、1学年に10人ほどしかいないので、どこの誰なのかみんな大体わかるそう。

菜奈子:たとえば子どもと歩いていると「上の子とあそこ歩いていたでしょ。下の子は?」みたいに後で聞かれることも。すごく見られているなーとは思うけど、見てくれているって安心できる側面もありますね。地域の人たちがすごく子どもを可愛がって、話しかけてくれたりお菓子をくれたりするので。もし悪いことをしても、きっとちゃんと叱ってくれるんだろうなって思います。

赤ちゃんを抱っこする男性(岩手県/田野畑村)

クリエイティブな田舎暮らし

大きなスーパーまでは車で1時間弱、レストランも村に数件しかないという田野畑村。ほしいものが簡単に手に入らない不便さはあるものの、「つくれるものは自分でつくろう」と発想が変わったそうです。

菜奈子:以前は全くできなかったんですけど、パンとかケーキとか、自分でつくるようになりました。この前は、娘が「夕ご飯にピザを食べにいきたい」って言い出して。もちろん村にピザ屋さんはないので、生地から一緒につくったんです。今は、食べたいものは何でもつくってみようって思えますね。

一方で、どうしても手に入らないものは、インターネットを活用して買い物をしているそうで、両方があるから満足いく暮らしができているといいます。
なにかがほしいとき、買うだけでなく、自分でつくるということが選択肢にあるだけで、暮らしが豊かになるように感じます。

手作りパン(岩手県/田野畑村)

さらに、「交換する」という方法も田舎ならでは。物々交換は当たり前で、特に、おいしい食材は市場に回さず、地域のなかだけで消費する文化があるそうです。

大介:去年は10年に一度の豊作で食べきれないくらいマツタケをもらったし、獲れたての大きなサバをおすそ分けいただいたこともありました。そのときつくった味噌煮は人生で一番うまかったですね。お返しには出張のお土産とかを渡すことが多いですけど、本当は自分たちがつくったもので返したい。今年は3年ぶりに田んぼをはじめる予定なので、早く自分たちで価値をつくり出せるようになれたらいいなと思います。

現在はアパートに住んでいますが、農業ができるような土地のある家への引っ越しも考えていると話してくれました。

子育ては自然のなかで

自然豊かな場所で子どもを育てたいと望んでいた、高浜さんご夫妻。昨年は地域の人の田んぼで、田植えと稲刈りを体験させてもらいました。ほかにも娘さんと一緒に、山ぶどうの収穫をさせてもらったり、地域のお母さんたちから郷土料理を教えてもらったり、この環境ならではの子育てができているそうです。

田植えをする様子(岩手県/田野畑村)

菜奈子:自然のなかで子どもが育つっていうのはすごく重要なことだと思っています。うちは海まで5分くらいだし、地域の商店にもナマコとかホヤとか、いろんなお魚がピクピク動く状態で並んでいるんですよ。

漁師町なので、目にする魚はどれも新鮮。特に生きている状態で見られることが、娘さんの食育になっていると菜奈子さんは話します。

菜奈子:本人も好奇心が掻き立てられるみたいで、お店でもお魚の前から動かないでずっと見ているんですよ。お店のお母さんもそれを見て、ホヤから水がぴゅーって出るのを見せてくれたり、魚を近くに持ってきたりしてくれるんです。生きた教材が日常のなかにいっぱいあるのが、恵まれているなあと思います。

海をバッグに記念撮影(岩手県/田野畑村)

保育園をつくる⁉

菜奈子:子どもの保育園も、野外で土に触れて農作業をしたり、森や川で遊んだり、どっぷり田舎の良さを味わえる「森のようちえん」が良いなと思っていました。自分が保育者になるとは思ってもみませんでしたが、ないなら自分でやるしかないと、新しくつくることにしたんです。

自分で?と驚いてしまいますが、その原動力は、娘さんや地域の子どもたちに自然のなかで育ってほしいという想い。
共感する地域のお母さんとともに、菜奈子さんはこの春、「つちのこ保育園」をはじめました。

1日の大半を野外で過ごすことに加えて、これからの時代を見据えて、一人ひとりの考える力を大事にするのも、森のようちえんの特徴。子どもたちが主体的に自由に遊びを生み出せるように、プログラムをあらかじめ決めることはほとんどなく、ともに自然との関わり方を見つけていくのだとか。田野畑村の隣にある普代村に拠点を構え、近隣の市町村から広く園児を募集するそうです。

つちのこ保育園(岩手県/田野畑村)

自分で保育園をつくるという発想が生まれることに、純粋に驚いてしまいました。

菜奈子:ないからでしょうね。いろんなものがあるとそういう気持ちは起きないでしょうけど、ないからやらなきゃって感じですよね。

誰にでもできる行動ではないと思いますが、「ないならつくる」という菜奈子さんの考え方は、暮らしのどんなことにも生かしていくことができそうです。

芋掘りをする様子(岩手県/田野畑村)

村に新しい価値観を

取材時は、育児と保育園立ち上げの準備で忙しいと話していた菜奈子さん。基本的に仕事は土日に行い、その間は大介さんが娘さんたちの面倒を見ているそうです。

菜奈子:まだまだ古い価値観が残っていると地元の方によく聞くので、男性が一人で育児をしているのは、地域の人には少し衝撃だと思います。夫が下の子をおんぶして、上の子と手をつないで近所を歩く姿は、たぶん目立っているんだろうなって(笑)。反対に、「今までの村の文化を変えたいから、高浜さんが切り開いてほしい」と言われることもあります。

森のようちえんも、男性の育児も、村にとってはまだまだ新しい価値観。
地域の当たり前に染まるのではなく、自分たちが大切にしたいものをしっかりと持ち、実践していく。移住するときは、「地域にどう馴染むか」という視点で考えがちですが、それにとらわれすぎることなく、自分たちらしい暮らしを営んでいけるといいなと思いました。

移住を考えている人たちへ

最後に、移住を検討している人たちへ向けて、アドバイスをいただきました。

菜奈子:空気もきれいだし、自然がある場所っていいですよ。日本全国に素敵なところはたくさんあるから、悩もうと思ったら何年でも移住先って悩めてしまうと思うんですけど。わたしたちの場合は、知り合いがいたことが大きな決め手になりました。その方にはずっとお世話になっていて、保育園の整備を手伝ってもらったりもしています。

大介:いろんなパターンがあるので一概には言えないですが、自分たちの経験としては、景色とか立地よりも、信頼できる人がいるっていうのは大事になると思います。あと、もし手に職があるとか、リモートで仕事ができる環境なら、お試し的に移住してみてもいいんじゃないかな。合わなかったらまた変わればいい、くらいの気持ちでもいいと思います。

「住めば都」という言葉がありますが、お二人はその都を自分たちの手でつくっているようでした。
完璧な場所はないのだから、住んでから少しずつほしい暮らしに近づけていけばいい。そう思えるだけで、少し肩の力を抜いて、移住や暮らしを考えることができるような気がしました。

(2021年3日月20日取材)

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