コロナ第8波が不安視されるなか、行動制限は「なし」とされている2022-23年の冬休み。元気に乗り切るために、年末年始の旅行・お出かけ・帰省でおさえるべき感染対策を、小児科医パパの黒澤照喜先生にお聞きしました。2022年10月末からはじまった生後6カ月~4歳以下のワクチン接種や、同時流行が懸念されるインフルエンザについてもチェックしておきましょう。
※本記事は取材時(2022年11月28日時点)の情報に基づいています
(監修)黒澤照喜先生(両国キッズクリニック副院長)
東京大学医学部卒業、医学博士。同大学附属病院小児科、都立府中病院、わだ小児科・循環器内科医院、帝京大学医学部附属溝口病院小児科などを経て、2022年より現職。
1.「行動制限なし」の年末年始は、より慎重に!第8波の状況は?
第8波の状況は?
[Q.] 11月以降「第8波」のニュースが日々聞かれるようになりました。現在の新型コロナの状況を教えてください。
[A.] 新型コロナの感染者数は、全国的に再び増加傾向にあります。残念ながら第8波は避けられそうになく、このような状況は年末年始にかけても続くと思われます。
現在の日本国内の感染は、オミクロン株のBA.5系統が多くを占めていますが、海外ではBA.5から派生した変異株BQ.1.1(通称ケルベロス)が広がっており、日本でも感染報告がみられるようになりました。このケルベロスが12月に流行するという予測もあります。
一方で、全年齢の死亡率は以前よりも低下しており、これはワクチン接種普及による免疫効果のほか、オミクロン株の特性が考えられています。
[Q.] ケルベロスの特徴は、どういったものですか? ワクチンは有効ですか?
[A.] この変異株は、体の免疫機構から逃れやすいとされており、感染力が上がって人にうつりやすくなっていると考えられています。ただし、ワクチンが無効になったわけではありません。また、重症化するリスクが以前と比べて大幅に上がっているという報告もありません。したがって過度に心配することはないようですが、ワクチンなどで予防することが引き続き大切になります。
「行動制限なし」だからこそ、各自の正しい理解を!
[Q.] 患者数が増えているのに、「行動制限なし」なのはなぜでしょうか?
[A.] 以前から話題にあがっていた「コロナ対策」と「社会経済活動」を天秤にかけた結果と考えられます。上記の「全年齢の死亡率が以前より低下した」という事実は、「新型コロナがまた一歩、普通の風邪に近づいた」ということと考えられ、全国一律の行動制限の要請にはそぐわないと判断したということでしょう。
確かに、新型コロナ感染症は大半のお子さんにとって、ただの風邪で済んでしまうことは間違いありません。一方で、入院や死亡につながる重症化があることも事実です。個々人が正しい知識を持つことで、新型コロナウイルス感染症を正しく恐れ、適切な予防・対策を取っていくことが今まで以上に必要です。
[Q.] 「行動制限なし」のときの対策は、これまでとは異なりますか?
出典:首相官邸HPより
[A.] 外出をするときは「手洗い、咳エチケット」を徹底することは、今までと変わりありません。同時流行が心配されているインフルエンザも同様です。長く続くコロナ禍で曖昧になっていないか、今一度、家族皆で正しい手の洗い方や正しいマスクの着け方を確認しておくとよいですね。
そして、やはりもっとも確実な対処法は「ワクチン接種」です。次章で詳しく解説しましょう。
<ここに注意!>
政府の方針では、感染が第7波と同じ程度か、それを上回る状況になった場合には、地域の実情に応じて各都道府県が「対策強化宣言」を出し、感染拡大につながる行動自粛を要請できるとしています。お住まいの地域の情報をキャッチアップできるようにしましょう。
2.今年の帰省はどうする? お正月の旅行や帰省の感染対策
必ずおさえるべき6つのポイント
[Q.] 年末年始は旅行や帰省を予定しているファミリーも多くいます。やるべき対策を今一度教えてください。
[A.] まずは下記の6つのポイントを、しっかりとおさえておきましょう。
<旅行や帰省 必ずおさえるべき6つのポイント>
- コロナ対策がしっかりしているお出かけ先、宿を選ぶ。
- 旅行や帰省の予定をたてたら、その数日前からゆとりを持った生活を送るよう心がけ、体調を整える。
- 政府や自治体の最新情報を随時確認して、判断する。
- 家族の中に体調不良の人がいたら、こじらせたり周囲にうつしたりしないためにも、キャンセルをためらわないこと。キャンセル無料の宿を探してみるのもいいでしょう。
- 体温計やアルコール消毒のほか、医療保険証・乳児医療証・母子手帳・お薬手帳を持参する。
- おでかけ先でも、普段と同じように、手洗い・アルコール消毒は欠かさずに!
より確実な予防策は、ワクチン接種
[A.] また、より確実な新型コロナへの対処法は「ワクチン接種」です。2022年10月末より、生後6カ月以上のお子さんからワクチン接種が可能になりました。厚生労働省からは接種の努力義務、日本小児科学会からは接種を推奨するとのコメントが出されています。多数の人と接触する旅行・帰省前に、家族皆でぜひ接種しておきましょう。多くのママパパが気にされている接種率や副反応については、後述を参考にしてください。
<知っておこう!全国旅行支援やイベントワクワク割は、ワクチン接種が条件に>
政府が行っている「全国旅行支援」「イベントワクワク割」の割引サービスは、身分証明書と共に、ワクチン接種証明書が必要です。必要条件を必ず事前にチェックしておきましょう。
年末年始の旅行先や帰省先で、もし熱が出たら?
[Q.] お出かけ先で熱や咳などの風邪症状がでたときは、どうすればいいですか?
[A.] 前述しましたが、家族に体調変化が生じた時の備えとして、医療保険証・乳児医療証・母子手帳・お薬手帳を持参しておくと安心です。また、年末年始の帰省や旅行では特に、宿泊先での医療機関の受け入れ態勢(夜間・休日診療など)も、事前に調べておくとよいですね。
風邪や疑わしい症状がでた場合、医療受診をためらい市販の風邪薬を使うという方もおられますが、本人の状態が悪い場合などにはためらわずに医療機関に相談や受診をしてください。
[A.] また、現在は、自分で新型コロナ感染が調べられる「抗原検査キット」が各自治体などで配布されています。PCR検査よりも簡便なことがメリットで、手元に持っておいてもよいと思います。ただし、厚生労働省が喚起しているように、「研究用」ではなく、国が承認したものを選んでください。また、誤った使い方をしたり、感染初期に使用したりしてもウイルスが検出できない可能性があり、精度が確実ではないことがあることも知っておきましょう。抗原検査キットで陰性がでた場合でも、風邪症状があるときは、必ず体調管理をしっかりと心がけてください。
<参考>
» 厚生労働省 新型コロナウイルス感染症の一般用抗原検査キット(OTC)の承認情報
3.みんな打ってる? 気になる子どものワクチン接種の現況
4歳以下のワクチン接種はどのくらい?
[Q.] 生後6か月から4歳以下の公的ワクチン接種がはじまりましたが、ほかの年齢との違いは?
[A.] 下の表は、年齢ごとの違いを一部わかりやすい表現にしてまとめたものです。子どものワクチンにおけるポイントは「有効成分量は少ないものの有効性は成人用と同様で、副反応は少なめ」ということ。また、接種間隔や接種部位、年齢上限を超えた場合の対応が異なります。他のワクチンとの接種間隔、厚生労働省や小児科学会における位置づけは、成人用(12歳以上)コロナワクチンと変わりません。インフルエンザワクチンとの同時接種もできます。
生後 6か月~4歳 |
5歳~11歳 | 12歳~ | |
---|---|---|---|
製造会社 | ファイザー | ファイザー | ファイザー・モデルナなど |
1回接種量 | 0.2mL | 0.2mL | 0.25mL~0.5mL(製剤、回数で異なる) |
有効成分 | 従来株 | 従来株 | 1・2回目:従来株 3回目以降:従来株+オミクロン株 |
有効成分量 | 3μg | 10μg | 30μg(ファイザー) |
接種回数 | 3回 | 3回 | 現行では最大5回 |
接種間隔 | 2回目は3週間後 3回目は8週間以上あけて |
2回目は3週間後 3回目は5か月以上あけて |
2回目は3週間後 それ以降は3か月以上あけて |
接種部位 | 2歳以下:太ももへの筋肉注射 1歳以上:肩への筋肉注射 (1~2歳は太ももか肩) |
肩への筋肉注射 | 肩への筋肉注射 |
有効性 | 成人用と同程度 | 成人用と同程度 | 発症・重症化予防効果 |
副反応 | 小児用と同じレベルか少ない | 成人用より少ない | 発熱、腕の腫れ、倦怠感が大多数 |
年齢上限 を超えたら |
2・3回目とも:6か月~4歳用 | 2回目:5~11歳用 3回目:12歳~用 |
─ |
他のワクチン との接種間隔 |
インフルエンザワクチンとの接種間隔は指定なし(同時接種可能) それ以外のワクチンとの接種間隔は2週間必要 |
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厚生労働省 の位置付け |
努力義務 | 努力義務 | 努力義務 |
日本小児科 学会の位置 づけ |
推奨 | 推奨 | 推奨 |
[Q.] 気になる接種率はどのくらいですか?
[A.] 令和4年11月25日時点で、小児で2回以上接種した人は20%強、乳幼児で1回接種した人は0.5%とされています(下記HPのデータによる)。ただし、乳幼児接種は始まったばかりですのでこれから増加するものと考えられます。
[Q.] 新型コロナにかかった子でも、ワクチンは打ったほうがいいのですか?
[A.] 新型コロナは、インフルエンザと同様に、複数回かかることがあります。これは新型コロナが変異するだけではなく、私たちの免疫が時間とともに低下してしまうためと考えられます。したがって、新型コロナウイルスに複数回かからないためにも、大人・子ども問わずワクチンを接種することは有効です。
4.インフルエンザの同時流行、新型コロナ以外の冬の感染症
コロナとインフルの同時流行に備えて
[Q.] 心配されているコロナとインフルエンザの同時流行、現況はどうですか?
[A.] 11月下旬現在、インフルエンザの報告は決して多くはありません。しかしながら、インフルエンザの流行期は年末から2月くらいですので、今後増加する可能性はあります。事実、インフルエンザによる学校閉鎖もわずかながら見られます。この数年は流行が見られなかったために、集団のインフルエンザに対する免疫が落ちていることも考えられ、ひとたび流行が始まると大流行になる恐れもあります。
[Q.] インフルエンザのほか、冬の感染予防対策は、新型コロナと同じですか?
[A.] いずれも、前述した「正しい手洗い」「正しいマスクの着用」は有効な感染対策になります。
さらに、「新型コロナ」「インフルエンザ」、そして冬の感染症である「RSウイルス」は、飛沫感染が主のため、アルコール消毒が有効です。
一方で、やはり冬に罹りやすい「ノロウイルス」は接触感染が主で、アルコール消毒は無効です。嘔吐をしてしまった場合は塩素系漂白剤の消毒が必要です。
家族が感染しまった場合には、いずれの場合も適切な隔離を行うようにしましょう。
5.小児科医パパの今年の冬休みの過ごし方は?
[Q.] 小児科医であり三児のパパでもある黒澤先生は、今年はどのような冬休みを過ごす予定ですか?
[A.] 子どもの一人が受験なので、旅行には行かずに家で静かに年末年始を過ごそうと考えています。桜が咲いたら、家族みんなで旅行に行きたいと考えています。家族が笑顔で新しい年を迎えられるように、ぜひ感染症への正しい知識と情報を得て、冬休みを過ごしてください。
※新型コロナウイルスに関する情報は、日夜変化しています。信頼できる情報源をあたるようにしましょう。