子どもに多い、耳のトラブル。自分で症状を訴えることが難しい小さい子どもの場合、親はどんなことに気をつければいいのでしょうか。子どもによく見られる中耳炎、正しい耳掃除の方法から、飛行機での耳トラブルまで、子どもの健やかな聴力のために知っておきたいことを、耳鼻咽喉科医の守本倫子先生に聞きました。
守本倫子先生(国立成育医療研究センター 耳鼻咽喉科診療部長)
新潟大学医学部卒。慶應義塾大学耳鼻咽喉科に入局し、1999年から国立小児病院に赴任、小児科の耳鼻咽喉科を学び始める。その後、小児高度専門医療施設の中で小児難聴と小児気道疾患に特に熱心に取り組んでいる。
子どもの耳の聞こえ、気をつけることは?
子どもの耳の聞こえ、確認する方法は?
今、ほとんどの赤ちゃんは「新生児聴覚スクリーニング検査」を行い、生まれたときに難聴があるかどうか検査をし、その記録は母子手帳に記載されます。未検査の場合は耳鼻科で聴力検査を受けましょう。
また、新生児聴覚スクリーニング検査で先天性の難聴が見つからない可能性や、その後に聴力が悪くなる場合もあります。たとえば1歳をすぎても「ママ、パパ」などの言葉がまったく出てこない、音に対して反応が弱いなど気になることがあれば、必ず耳鼻科でもう一度検査をしてもらいましょう。
妊娠中のママが気をつけたい感染症も
最近、耳鼻咽喉科の医師の間でも話題になっているのが、先天性サイトメガロウイルス感染症です。サイトメガロウイルス感染症に大人や子どもが感染しても、症状は風邪とほとんど変わりません。先天性サイトメガロウイルス感染症は妊婦さんが初感染した場合に、おなかの赤ちゃんに影響が出てくる可能性があり、その症状のひとつに難聴があるのです。
以前は日本人の約9割がサイトメガロウイルスの抗体をもっていましたが、現在は約6割に減っています。通常の症状は風邪と変わりがなく、まだ予防接種もありません。とくに第2子以降の妊娠で、上のお子さんが保育園や幼稚園などに通っている場合、サイトメガロウイルスに感染した上のお子さんからママに感染し、お腹の赤ちゃんに影響が出る可能性もあるので、注意が必要です。予防策としては、通常の風邪対策はもちろん、唾液や尿や便からも感染するため、上のお子さんのおむつ替えの後は必ず手洗いをするようにし、同じ食器を使ったり回し飲みなどしないようにしましょう。
聴力が育つ大切な時期に心がけることは?
言葉の習得は、4・5歳までが重要!
聞こえたものが「言葉」につながるのは、4・5歳ぐらいまでが重要といわれています。仮に難聴があるのに気づかず、4・5歳まで放置してしまうと、語彙が減るなど、言語力にかなり影響が出てきます。語彙が増えることは将来の文章力にもつながります。なんとなくおかしいな、と思って様子を見ているうちに月日が経つと、言葉を獲得するのがとても困難になります。聴力には、「いつかよくなるから大丈夫」ということはないため、生まれたときから聞こえるようにしてあげることがとても重要になります。そのためには、日常生活の親子の関わりの中で、言葉の発達を意識しておくことも必要になってきます。
親子の関わりと経験が、言葉を育てる
読み聞かせをすることや、いろいろな人が話しかけることも大切ですが、それ以上に大切なのが、いろいろな経験をさせること。たとえば「風がそよそよ吹いているね」「雨がしとしと降っているね」といったオノマトペ(擬音語)の表現は、耳から聞こえてくる言葉と一緒に体験することで自然に覚えます。また、「昨日、今日、明日」など、目に見えない時制の言葉なども、日常の会話などから理解します。
耳が聞こえる子にテレビを見せておけば、言葉が劇的に増えるわけではありません。やはり人との関わりの中でさまざまな経験をすることで、聴力ではなく「言葉」が育つのです。聴力というと、耳だけに意識を向けてしまいがちですが、大切なのは言葉の成長です。
ヘッドホン・イヤホン難聴に注意!
言葉が育つ時期に避けたいのは、言葉が聞こえづらくなる状況や環境に身を置くことです。騒がしい場所や、テレビをつけっぱなしの部屋でいくら読み聞かせをしても、子どもは集中して聞くことができません。
WHO(世界保健機関)の2019年の調査では、若者の間で「ヘッドフォン難聴」「イヤホン難聴」が増えていると発表しました。ヘッドフォンやイヤホンをしたまま外出することによって、静かなところで聞いたらうるさいレベルの音で音楽などを聴いていることが原因です。小さいお子さんも無関係ではありません。ヘッドフォンやイヤホンを使ってゲームや動画を長時間楽しんでいると、聴力に影響が出る可能性があります。30分聴いたら耳を休める時間をつくるようにしましょう。
子どもの耳掃除、正しいケア方法は?
耳垢取りの頻度は?
全体的に、耳掃除をしすぎているママはとても多いです。基本的に耳掃除の頻度は、1〜2カ月に1回で十分です。生まれてすぐから、沐浴のたびに綿棒を耳に入れて水を吸い取っているママがときどきいらっしゃいますが、外耳炎などの炎症を起こしてしまうことがあります。
通常、耳垢は自然に外に出てくるものなので、「見える範囲で汚れていたら、耳掃除をする」くらいでOK。耳掃除をする自信がない、ちゃんと取れているか心配であれば、耳鼻科を受診し、「耳垢を取ってください」とお願いしましょう。耳鼻科はなにか症状があるときしか行ってはいけないと思っているママがいますが、耳垢を取るために受診してもいいのです。
自宅での正しい耳垢取りの方法
小さい年齢の場合は、ベビー用の綿棒を使うのがおすすめです。じっとしていられる年齢なら耳かきを使ってもよいですが、綿棒にしろ耳かきにしろ、「入れすぎないこと」が大切です。
- 子どもの耳の中が見やすいように少し引っ張りながら、耳の穴がまっすぐになり、中が見える状態にします。
- 綿棒を鉛筆のように持ち、入口付近の見える範囲の汚れだけを取ります。綿棒の先をくるっと回転させるようにして汚れをぬぐうようにしましょう。
【上手に耳掃除をするコツ】
- 綿棒を使う場合は、ワセリンを綿棒の先の綿球に薄く塗った後、ティッシュオフしてから使うと、皮膚を傷つけにくい。
- 耳の中に入れていいのは、綿棒の綿球の部分まで。それ以上は入れすぎ。耳かきも同様で、入れすぎないこと。入れすぎは、耳垢が奥に入ってしまい逆効果!
- お風呂上がりに行うと取れやすい。
学校の耳鼻科健診の前に気をつけること
学校健診では、一度にたくさんの子どもを診るため、耳垢があるとその奥の鼓膜などを詳しく診ることはできません。学校での耳鼻科健診の前には、耳掃除をしておくとよいでしょう。学校健診では、耳垢がないか、中耳炎などの炎症がないか、そのほか鼻や口の中も診ます。気になる点があれば、「耳鼻科を受診しましょう」という用紙が渡されます。耳垢以外にも何か異常がある可能性もあるので、用紙が渡されたら、必ず受診しましょう。その子の成長と共に継続的に診てもらうためにも、かかりつけの耳鼻科をもっておきましょう。
子どもに多い「中耳炎」とは?
小さい子どもに多い急性中耳炎
外耳炎が耳掃除のやりすぎなどで起こるのに対して、中耳炎は風邪をきっかけとして鼻から細菌やウイルスが感染し、鼓膜のすぐ内側にある中耳が炎症を起こしている状態です。急性中耳炎の症状には、耳が痛い、耳だれ、発熱などがあります。中耳炎になる直前はたいてい、鼻水が出ています。ウイルス性の風邪をひいて鼻をすすることで、中耳炎になることが多いです。耳が痛くて大泣きするお子さんも多いですが、炎症がひどくなると髄膜炎になる可能性もあるため、できるだけ早く耳鼻科を受診しましょう。抗菌薬をしっかり飲めば治ります。
滲出性中耳炎
滲出性中耳炎は急性中耳炎のように痛くなったりしないので、気が付きにくいことがあります。急性中耳炎が治ったあともずっと鼓膜の裏側に滲出液が溜まったりして、耳が聞こえにくくなります。また、鼻水が多く、鼻をすすったりすることで滲出液がなかなか抜けず治りません。、鼻をすすることで陰圧がかかると耳が詰まったような感じになり、耳が聞こえにくくなりますが、発熱や耳だれはありません。
対策としては、鼻をよくかむこと。慢性的な場合、水がたまっている状態なので、耳鼻科で鼻の吸引をしたり、鼻炎の薬を処方してもらったりします。
中耳炎になりやすい子はいるの? 予防策は?
急性中耳炎は小さい子どもに多く、2歳までに多くのお子さんが何かしらの中耳炎になるといわれています。滲出性中耳炎は、中耳炎を繰り返しているうちになってしまうほか、鼻炎のあるお子さんもなりやすいでしょう。
保育園や幼稚園などの集団保育をされているお子さんはどうしても風邪をひきやすく、そこから中耳炎になることが多いでしょう。予防するのはなかなか難しいため、中耳炎になったら早めに耳鼻科を受診して、症状を長引かせないことが大切です。
飛行機で耳を痛がる子どもの対策は?
飛行機で耳が痛くなりやすい子の特徴は?
飛行機に乗ると、気圧の変化によって耳が詰まったり耳鳴りがしたりする症状が出ることがあります。航空性中耳炎という名前もあるほどで、多くの人が経験しています。耳が詰まったとき、子どもは大人のように耳抜きができません。耳抜きができなくても自然に治ることもありますが、特に滲出性中耳炎を起こしている子さんは、それがうまくいきません。
滲出性中耳炎によって、水がたまり、耳管やその付近の粘膜がぶよぶよしている状態のまま飛行機に乗ると、耳が痛くなってしまいます。そのほか急性中耳炎を繰り返しているお子さんも、耳が痛くなることが多いでしょう。とくに痛がるのは、飛行機に乗っているときよりも、降りた後です。到着した先で耳を痛がって、現地の救急病院の耳鼻科を受診するケースはよくあります。
飛行機で耳が痛くならないための対策
急性中耳炎、滲出性中耳炎のあるお子さんは、治してから飛行機に乗る、あるいは飛行機に乗る前に耳鼻科でチェックしてもらうようにしましょう。風邪をひいて鼻水が出ている場合は、鼻水をとめる薬や抗生物質を処方してもらうことも検討しましょう。離陸の30分〜1時間前、そして着陸の30分ほど前(飛行機の高度が下がる前)に点鼻薬をするのも一案です。そしてよく鼻をかんでおきましょう。
また、嚥下運動(食べ物や飲み物を飲み込むこと)は耳管を閉じることにつながるため、アメをなめる、ジュースを飲むのもいいでしょう。ちょっと耳が痛い程度なら、つばを飲んだりあくびをしたりするだけで痛みが治ることもあります。ただし耳を痛がって大泣きしている場合は、救急外来を受診しましょう。旅行先で慌てないように耳鼻科の救急外来の場所を確認しておき、保険証も忘れずに持っていきましょう。
子どもの耳トラブルは、軽く考えてしまいがちですが、なかには病気が隠れていたり、耳の聞こえや言葉の発達につながることもあります。心配なことがあれば、まずはかかりつけの耳鼻科をつくって相談してみましょう。