東京都北区にある、2026年で創立120周年を迎える聖学院中学校。掲げている教育理念は「Only One for Others」。ナンバーワンではなく、一人ひとりのオンリーワンを見つけ、それを誰かのために活かせる人を育てたい——そんな思いが学校全体に浸透しています。男子校でありながら穏やかな空気をまとう聖学院中学校の魅力を、「るるぶKids」編集部ががくパパと共に取材してきました。

聖学院中学校の基本情報

聖学院中学校は、アメリカの宣教師によって設立されたプロテスタント系のキリスト教教育を基盤とした男子の中高一貫校。キリスト教精神に基づく人間教育、学習指導、体験学習という3つの柱と、その中心に「Only One for Others」という教育理念を据え、生徒一人ひとりの個性を見つけて、磨き、社会のために活かせる力を育てることを目指しています。
| 住所 | 東京都北区中里3-12-1 |
|---|---|
| アクセス | JR山手線「駒込駅」より徒歩5分 |
| 生徒数 | 中高合わせて約1000名(2026年4月1日現在) |
| 中高一貫校 タイプ |
男子校・併設型(高校募集あり) |
| クラス編成 | Advanced Class、Regular Class |
| 文化祭 | あり(要予約) |
| 土曜授業 | あり |
| クラブ活動 | 35クラブ(運動部19、文化部13、同好会3) ※高校からのみ入部可能なクラブあり |
入試情報
2科、4科のほか、受験生の情報の読み取り・課題発見力・論理性などを評価する3種類の「思考力入試」を実施。また、3~4人で自己PRと志望理由によるグループプレゼンテーションを実施し、他者のプレゼンテーションに対して印象に残ったことなどをワークシートに記載する「オンリーワン表現力入試」といった、独自の選抜方法も実施しています。
- 一般入試、アドバンスト入試…2科(国算)、4科(国算理社)
一般入試はRegularClassへの進学を想定、アドバンスト入試はAdvancedClassへの進学を想定 - 英語特別入試…面接
- ものづくり思考力入試、デザイン思考力入試、グローバル思考力入試…思考力、協働振り返り
- オンリーワン表現力入試…グループプレゼン、協働振り返り
※帰国子女入試も採用
聖学院中学校はズバリどんな学校?
校舎を歩いていると、すぐに、校内に流れている穏やかな空気に気がつきます。男子校特有の賑やかさは控えめで、生徒たちは休憩中も廊下を走ることなく、落ち着いた雰囲気で談笑していました。そして、すれ違った生徒たちはこちらに気づくなり、大きな声で「こんにちは!」と挨拶をしてくれます。
廊下や教室は横幅が広めに作られており、「設計時の先生方のこだわり」とのこと。廊下にはベンチが置かれ、先生と生徒がちょっとした面談をする姿が日常の風景になっています。
礼拝から始まる日常

聖学院では、毎朝チャペルで全校礼拝が行われています。このチャペルは、中学1年生から高校3年生までの全校生徒が集まれる場所。入ってみるとどこか背筋が伸びるような荘厳さを感じさせるのは、ステンドグラスの明かりでしょうか。壁は音楽ホール仕様で、音の響きがとても良いのだそう。
式典はすべて礼拝形式で行われ、讃美歌も歌うため、「結婚式で流れる讃美歌を、生徒たちがそらで歌えるんですよ」と、学校を案内してくれた広報部長の早川先生は笑います。
ナンバーワンではなく「オンリーワン」を育てる

グラウンドは地上と屋上の2か所
「聖学院が大切にしているのは、『Only One for Others』という言葉です」
「Only One for Others」は、唯一無二の自分らしさを他者や社会貢献に活かす、という意味。生徒たちには必ず好きなことや得意なこと、まだ埋もれているかもしれない興味があり、ひとりひとりがもつその自分らしさの原石を、6年間の学校生活で見つけて磨いてほしいという思いが前半の「Only One」の部分に込められています。
そして「for Others」の部分については、
「校長が『本気で世界平和を作れる子たちを育てたい』とよく言うんです。自分が見つけたOnly Oneを誰かのために活かせるよう、学校生活で必要な能力を培ってほしいというのが、for Othersに込められた思いです」
この理念は、授業はもちろん部活動や行事など、聖学院すべての教育活動の根幹。全ての生徒が自分らしく伸びやかに成長し、将来社会で生き生きと活躍できるよう、しっかりと支える体制が整っているという心強い意思表示にも感じられます。
先生が否定しない文化
「敬意を込めて言っているんですけど」と前置きした上で、
「うち、変な先生が多いんですよ」
前年踏襲を嫌い、「これってつまらなくない?」と平気で言える先生が多いのだそう。
そうした先生たちといい意味で距離が近いからこそ、生徒が「これやりたいです」と言ったときに、「いいね、やってみようよ」が一言目に出てくる。行事の運営やデザインなど、放課後の居残りが必要で大変な役割でも、手を挙げる生徒がとても多いのだといいます。
「自分が中高生時代だったら絶対手を上げないですけど(笑)。誰かのために、何かを作り上げたい、一緒にやりたいという気持ちが強い子が多いんです」
トイレの仕切り壁のエピソード

女子聖学院との合同SDGsプロジェクトには、毎年60〜80人の生徒が参加しています
この「否定しない文化」を象徴するエピソードがあります。女子聖学院との合同SDGsプロジェクトの中で、ジェンダー平等チームの男子生徒たちが、小便器に仕切り壁を設置したいと提案しました。
早川先生は、用務員さんへのリサーチや企画書の作成、教頭先生への交渉などをアドバイスしましたが、教頭先生との下打ち合わせは一切せず、「生徒が来ます」とだけ伝えたそうです。
「生徒が自分たちで説明して、交渉して。外部へのメール対応も全部生徒たちがやりました。2週間のプロトタイプ運用まで実現させたんです」
先生たちは生徒に任せ、必要なアドバイスだけを添える。
「だって、生徒たちができないと思っていないので」
「Only One for Others」を目的にした教育
探究は飛び道具ではない

生徒が制作した校舎のLEGO模型。体育館だけ内部まで再現されています。レゴキング選手権への参加も
聖学院の教育について、早川先生が繰り返し強調していたのは「探究は飛び道具ではない」ということでした。
「パッケージを消費するだけではダメなんです。今の子どもたちは、与えられたプログラムをその通りにこなすのは得意。でもそれだけだと、どんなに良いプログラムでも『打ち上げ花火』になってしまう。だからこそ、マインドセットの部分を丁寧に作ることを大切にしています」

自分たちで課題解決に取り組む探究型授業は、ほぼすべての授業で実施
学校紹介のパンフレットを開くと、センセーショナルなカリキュラムをはじめの方のページにもってくるところが多いのですが、聖学院のパンフレットの最初は「学習」。この順番について聞くと、「生徒たちが学校生活の中で過ごす時間の大半は授業。だからこそ当たり前に大切にしています。というメッセージです」とのこと。
探究やプロジェクト活動はもちろん充実していますが、それはあくまで日常の授業という土台の上にあるもの。サイエンスやグローバルなど流行のプログラムを導入するだけではなく、日々の授業や体験の中で、生徒が自分の問いを見つけていく。そうした積み重ねが、最終的にきちんと「Only One for Others」につながるように設計されているのが、この学校の教育の強みです。
社会につながる糸魚川農村体験

中学3年生の宿泊行事として行われているのが、新潟県糸魚川市での農村体験学習。この行事は約40年の歴史があり、食の大切さを感じてほしいという思いから始まったそうです。学校から出される実施内容の枠組みは最低限で、その年ごとにテーマを設定することで、体験学習にプラスアルファの「味付け」ができるようになっています。活動は、地元新聞にも掲載されています。
例えば、早川先生が担任として3年生を連れて行った際のテーマは「幸せの再定義」。
事前学習では、生徒たちにこんな問いを投げかけたそうです。
「あなたにとって幸せって何ですか?」
その幸せについて、LEGOを使って表現してもらったところ、一番多かった答えは「Wi-Fiがあること」。
「『じゃあ糸魚川は東京ほどあちこちにWi-Fiがない可能性は高いけど、現地の人たちは幸せじゃないのかな?』そんな問いから、現地の幸せを見つけに行こう、というテーマで体験学習に入っていきました」
この行事をきっかけに大きく成長した生徒も。
ある生徒は、糸魚川観光のリピーターを増やすというテーマのもと、生徒たちでガイドブックを制作。クラウドファンディングで資金を集めて印刷し、糸魚川市役所だけでなく東京の支部にも設置してもらったそうです。さらにそこから起業。高2の秋頃に事業を畳み、一般入試で有名私立大学に合格しました。
「中高時代の経験を生かして総合型選抜(旧AO入試)で受験するのかと思っていたら、一個も受けていなかった」と、早川先生も驚いたそうです。彼のように、教育活動を通じて自分の力で道を切り拓く生徒が育つのも、マインドセットを大切にする聖学院の教育ならではですね。
特待入試をやめた理由

聖学院の制服。夏はポロシャツです
2025年度入試から、聖学院は特待生入試を廃止しました。背景にあったのは、理念との整合性をめぐる職員会議での議論です。
「学力の一点で特待生を決めるのは、ナンバーワンの思考ではないか。『Only One for Others』と齟齬があるんじゃないか、という話になったんです」
広報の立場としては「半分ぐらいは反対したい気持ちもあった」と正直に話してくれましたが、一教員として考えたときには「そうだよな」と納得したそうです。
制度や入試のあり方まで理念に照らして議論できるところに、この学校の芯の強さが表れています。
聖学院中学校に伺う「面倒見の良さ」とは?
「面倒見がいい学校」という言葉で想像するのは、補習や居残りという方も多いかもしれません。でも聖学院の面倒見は、少し違います。
「いわゆる居残りして追試をやって、というのは今はやっていないんです。うちの面倒見は、一人ひとりの歩幅を見るということだと思います」
生徒手帳と自学ノート

生徒手帳にびっしりと書かれた学習計画とコメント
かつて聖学院では「寺子屋」と呼ばれる放課後の居残り補習を行っていました。提出物が出ていない生徒を科目ごとに残し、終わるまで帰れないという仕組みです。
しかし、データで検証してみると、寺子屋をやっていた学年とやっていなかった学年で、学力にほとんど差がなかったそうです。むしろ、できない子同士を集めたことで「勉強嫌い」が育ってしまったという反省もありました。
コロナ禍で居残りができなくなったのを機に、思い切って廃止。代わりに導入されたのが、生徒手帳と自学ノートの仕組みです。毎日の終礼で、生徒は自分の勉強計画を手帳に書き、家で勉強した内容を翌朝提出します。担任は全員分をチェックし、コメントを返します。
「毎日一人ひとりと小さな面談をしているようなものです」と早川先生。「明日小テストじゃないの?」「今日勉強時間入ってないけど大丈夫?」といったコメントを毎日交わすことで、その子のペースや歩幅が自然と見えてくるのだそうです。
歩幅を見る指導

理科室の前にはこんな展示も
追試の仕組みも変わりました。以前は決まった日時に残って同じテストを受け直す形式でしたが、現在は課題形式に変更。提出期限はあるものの、いつ取り組むかは生徒の自由です。部活動にも出られますし、自分の時間をマネジメントする力が身につきます。
中には「Googleカレンダーで提出希望を出してもいいですか?」という生徒もいるそうで、「いいよ」と柔軟に対応しているとのこと。手帳の形が合わない子にも、その子に合ったやり方を認めてくれる。同じクラスでも、よくできる子と準備が追いつかない子では、面談で話す内容を変えているそうです。
一律に同じ指導をするのではなく、一人ひとりの歩幅に合わせて寄り添う。それが聖学院らしい「面倒見の良さ」なのだと感じました。
聖学院中学校ならでは!魅力的な施設を紹介
取材中、特に印象に残ったスポットをご紹介します。
フューチャーセンターC

カフェのようなくつろぎの空間
アクティブラーニングやプレゼンテーションなどに特化した施設として、フューチャーセンターA・Bがありますが、新設したフューチャーセンターCは、ヨギボーやカフェのような椅子が置かれ、大型モニターも自由に使えます。窓からはスカイツリーも見え、とても開放的な空間です。

生徒たちがリラックスしながら発想したり、プロジェクト活動をしたりする場所として使われています。先生方がここで仕事をすることもあるそう。
ファブラボ

3Dプリンターやレーザーカッターが並ぶファブラボ。ロボッチャ全国優勝のロボットもここで生まれました
3Dプリンターやレーザーカッターなどが揃うものづくりの拠点。放課後には生徒たちが自由にものづくりをしている姿が見られるそう。ここでロボットのパーツを作って練習し、パラスポーツのボッチャをロボットで行う「ロボッチャ」という競技では全国優勝を果たしています。
何もない空間

あえて何も置かない中央ラウンジ
校内を案内していただく中で、何もない広い空間に出ました。中央ラウンジと呼ばれるこの場所は、「何もないことに価値がある」という考えのもと作られたそうです。イベントなどで使いたい場合は、職員会議レベルの許可が必要だというほど、あえて「余白」として守られている空間。こうした設計にも、生徒の自由な活動を支えたいという思いが感じられます。
学校選びのアドバイス

広報部長の早川先生
「合同説明会だと、低学年の子どもたちのアンテナが働いていないんです」と早川先生。
「親が説明を聞いている間、子どもは隣で受け身的に座っているだけで、『早く帰ってメロンソーダを飲みたい』という状態になりがちなんです。」
一方、実際に学校に足を運ぶと、子どもたちは敏感に空気を感じ取ります。早川先生が担任していた生徒の保護者の例では、いろいろな学校に連れて行っても反応が薄かった子が、宗教系の学校に行った途端「ここいい」と言い出したそうです。
先生は、「エリアや偏差値で区切りすぎないでほしい」とも話してくれました。特に低学年のうちは、さまざまなタイプの学校に足を運んで、お子さんのアンテナが立つ場所を探してみてほしいとのこと。
「最終的には現実が見えてくる部分もありますが、最初の段階であまり区切りすぎてしまうと、本人が『ここだ』と思うところに出会えない可能性がある。子どもが感じたものを信頼してあげていただくのがいいと思います」
保護者へのメッセージ
聖学院は第一志望の入学者が半分以上を占めるそうで、他の学校と比較しても高い割合だといいます。また、兄弟で通う家庭も多く、「3兄弟全員うちという家庭もあります」と早川先生。お兄ちゃんの楽しそうな姿を見て弟が入学を希望するケースも多いとのこと。
「うちの教育理念を信じているからこそ、子どもたちにも納得感があるのかなと思います。大人の都合でこうだよ、ではなくて、Only One for Othersだからこういう考え方なんだよ、と全部説明できる。それが子どもたちの前向きさにつながっているのかもしれません」
<がくパパの取材コメント>
正直に言うと、取材前は「探究」「グローバル」「STEAM」といったキーワードの話が中心になるのかなと思っていました。でも実際に早川先生のお話を聞いてみると、そうした個別のプログラムよりも、すべての土台にある「Only One for Others」という理念の話がとても印象的。
特待入試の廃止や寺子屋の見直し、糸魚川での学びの設計など、学校の取り組み一つひとつがこの理念に立ち返って考えられている。取材を通して、学校の軸がとてもはっきりしている学校だと感じました。
また、「生徒ができないとは思っていないんです」という早川先生の言葉も印象的でした。先生が先回りして手を出すのではなく、生徒を信じて任せる。そんな姿勢が、生徒たちの主体性を育てているのだと思います。
お子さんに合う学校かどうか、ぜひ一度足を運んで、この学校の空気を感じてみてください。

