味噌にしょうゆ、漬物。「発酵食品大国」と呼ばれ、伝統もバリエーションの豊かさも世界トップクラスを誇る日本。その独特の風土から生まれた発酵食品が各地にあります。この記事では、全国の代表的な発酵食品を地域ごとにご紹介!知らなかった地元の発酵食品があるかも?
<発酵のキホンはここで学ぼう>
» 発酵って何だろう?腐るとは違う?図でわかりやすく解説!
監修:小倉ヒラクさん
発酵デザイナー。「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家や研究者とプロジェクトを展開。2020年4月に下北沢に店舗「発酵デパートメント」オープン。著書に『発酵文化人類学』『アジア発酵紀行』など。YBSラジオ「発酵兄妹のCOZY TALK」、Podcast「#ただいま発酵中」パーソナリティ。
日本全国に発酵食品や発酵調味料がたくさんある
地域によって違う!発酵食品の特徴
日本は南北に長く、地域により気候風土や食の恵みが違うため、食文化も味の好みもさまざま。
例えばしょうゆは濃口が一般的ですが、九州では甘口、関西では淡口(うすくち)、東海ではたまりじょうゆが好まれます。味噌の発酵原料は全国的に米麹が主流ですが、九州では麦麹、東海では豆麹が使われます。北海道や東北など寒い地域では辛口の赤味噌、関西では甘口の白味噌が好まれています。
東北や北陸では、昔から漬物作りが盛んで種類も豊富です。冬は雪に閉ざされ、作物の収穫が難しくなる地域では、冬の間も野菜や魚介類を食べられるようにと塩漬けにした保存食が作られました。
逆に四国は、寒い地域に比べて漬物の種類は少なめ。冬でも農作物を作ることができ、瀬戸内海に面しているので海の幸にも不自由しません。一年中新鮮な食材に恵まれた土地では、食にそこまで保存性が求められなかったのかもしれませんね。
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<注意>
・目的は個人利用に限ります
・加工、二次配布、商用利用を固く禁じます
代表的な全国の発酵食品
ここからは、全国の主な発酵食品をみてみましょう!
北海道・東北地方の発酵食品
■松前漬け/北海道
乾燥させたスルメイカと昆布を細切りにし、しょうゆや酒、みりん、砂糖などで漬け込んだ郷土料理。松前藩(今の北海道)が発祥といわれ、ニシン漁が栄えた江戸時代後期、大量にとれたニシンの卵から作られるカズノコを使いました。かつては塩で漬け込みましたが、現在はしょうゆベースの味付けが主流です。
■仙台味噌/宮城県
米麹と大豆で作られる辛口の赤味噌。辛口で奥深い味が特徴の、北国の味噌の代表格です。仙台藩初代藩主、伊達政宗(だてまさむね)が城の一角に「御塩噌蔵(ごえんそぐら)」という味噌醸造所を設けたことがはじまり。濃厚なうま味があり、そのまま食べられることから「なめみそ」とも呼ばれます。
■いぶりがっこ/秋田県
室町時代から伝わる、燻製干ししたたくあん漬け。かつては雪深い県内陸部の農家で作られていました。家内の囲炉裏火(いろりび)の熱と煙で乾燥させたダイコンを、米ぬかと塩で漬け込んだ保存性の高い漬物。「いぶり」とはいぶした、「がっこ」とは漬物を意味する方言です。
■雪割(ゆきわり)納豆/山形県
米沢(よねざわ)市を中心とする置賜(おきたま)地域に伝わる味付きの納豆です。納豆菌で発酵させたひきわり納豆に、塩と米麹を加えて二次発酵させます。見た目と塩辛さは味噌に近く、豆の甘み、麹のうま味があります。刻んだネギを混ぜて白ご飯と食べるほか、炒め物の調味料などにも使われます。
■三五八漬け(さごはちづけ)/福島県
福島をはじめ、東北地方で江戸時代から食べられる麹漬けの一種。古くは塩・麹・米を「3・5・8」の割合で混ぜ合わせて作ることから名付けられたのだとか(現代では塩3・米5・麹8の割合も)。床作成時の材料が少なくぬか漬けのように混ぜる手間がないので、漬物初心者でもチャレンジしやすいキュウリやナスなどの野菜をはじめ、魚や肉なども漬け込みます。
関東地方の発酵食品
■水戸納豆/茨城県
茨城での栽培に適していた小粒の早生(わせ)大豆を蒸煮し、納豆菌を付けて稲わらを束ねた「藁苞(わらづと)」で包んで発酵させた糸引き納豆。明治22年(1889)に水戸鉄道(常磐線の前身)が開通したとき、水戸駅でみやげとして売り出したところ大ヒットし、名物となりました。
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■しょうゆ/千葉県
小麦と大豆を麹菌で発酵させ、塩水で仕込んで作る調味料。千葉県では香りが高く、さまざまな料理に合わせやすい濃口が作られます。江戸時代から明治時代にかけ、野田市、銚子(ちょうし)市では利根(とね)川・江戸川を利用した原料の調達と大消費地である江戸(今の東京)への製品輸送が可能だったことから、しょうゆ造りが発達しました。
■くさや/東京都
伊豆諸島の名物であり、アオムロ、ムロアジ、トビウオなどの青魚を原料とした干物。焼いたときに強烈なニオイを発し、「くさい」が転じて「くさや」という名が付いたといわれます(諸説あり)。魚の内臓を取り、開いた切り身を、江戸時代より続く「くさや液」に浸し、よく洗ってから天日で干します。
■くず餅/神奈川県
川崎大師名物の和菓子。奈良県の吉野くずの粉を使う関西のくずもちと違い、小麦粉を使います。小麦粉を水にさらして乳酸発酵させ、発酵容器の底に溜まったデンプンの澱(おり)を取り出して水で何度も洗い、発酵臭と酸味を取ります。それを蒸し上げると、白くプルプルとしたくず餅のできあがり。黒蜜ときな粉をかけて味わいます。
東海地方の発酵食品
■わさび漬け/静岡県
ワサビの根の細い部分と茎を細かく刻み、塩やみりんで味付けした酒粕に漬け込む、粕(かす)漬けの一種。ワサビ特有のツンとする刺激が酒粕のコクやうま味と調和するので、ご飯のお供にぴったりです。かまぼこと一緒に味わうのもおいしいです。
■八丁味噌/愛知県
岡崎市八帖町(はっちょうちょう)で400年以上受け継がれ、東海地方一帯で愛され続ける豆味噌。米や麦の麹を使わず大豆だけで仕込むため、濃厚なうま味を凝縮した苦酸っぱい風味が個性的です。煮た大豆にコウジカビを生やして豆麹にしたものに、塩水を混ぜて木桶に仕込み、石を積んで酸素を抜いた状態で2年以上熟成させます。
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甲信越、北陸地方の発酵食品
■かんずり/新潟県
妙高(みょうこう)市の特産品で、一年で一番寒い日に仕込まれることから「寒造里」とも書く香辛調味料。工程の一つ「雪さらし」は塩漬けされた唐辛子を雪原にまき、苦みやアク、余分な塩分を抜く作業で、その光景は冬の風物詩になっています。雪にさらした唐辛子は水洗いして、麹、ゆず、塩と混ぜて3年以上熟成させます。
■野沢菜漬け/長野県
今から250年以上前、なにわ(今の大阪府)の伝統野菜である天王寺蕪(てんのうじかぶら)を野沢温泉で栽培したところ、根が小さく葉は大きなもので1mにもなる突然変異を起こしたという野沢菜。野沢菜漬けは地元で「お葉漬け」とも呼ばれ、葉を温泉の共同浴場で洗う「お菜洗い」は信州地方の晩秋の恒例行事。浅漬け、古漬けなどいろいろな漬け方があります。
■フグの卵巣(らんそう)ぬか漬け/石川県
猛毒を持つフグの卵巣を3年ほどかけて発酵させ、毒を抜いてうま味の豊かな珍味に変身させる、奇跡の発酵食品。まずは1年ほど塩漬けにした後、さらに約2年間ぬか、酒粕とともに木桶に漬け込みます。塩気は強いけれど生臭さはなくマイルドな味わいで、魚卵特有のプチプチした食感、チーズのような濃厚さが口の中に広がります。
■へしこ/福井県
魚を塩漬けし、米ぬかに漬け込んで1年以上熟成させた郷土料理。漁に出られない日が多い冬場の貴重なタンパク源として大切にされました。原料でよく使われるのはサバですが、イワシやフグなどでも作られます。重石(おもし)を乗せて樽に漬け込むことを「へし込む」と言ったことが名前の由来といわれます(諸説あり)。
関西地方の発酵食品
■ふなずし/滋賀県
すしの原点といわれ、魚と米を発酵させた「なれずし」の代表格。琵琶湖周辺で古くから作られています。ニゴロブナの内蔵を取り除き、2〜3日塩漬けに。それをご飯に漬け込み、数カ月以上かけて乳酸発酵させ、骨まで柔らかくしたものです。独特な味わいで根強い人気があります。
■しば漬け/京都府
京都市北部の大原地区で伝統的に作られている発酵漬物。赤シソと刻んだナスを樽に漬け込み、数カ月〜1年ほど熟成させます。赤シソの葉の鮮やかなピンク色と花のような香りが特徴的。塩が少なくあっさりとした上品な味わいです。
■奈良漬け/奈良県
奈良時代から朝廷へ献上されていたという、由緒正しい漬物。ウリやナス、キュウリ、ひょうたんなどを塩漬けにし、食材の特性に合わせて何度も新しい酒粕に漬け替えながら、2年以上かけてじっくりと熟成させます。5年ものという逸品も珍しくなく、糖分を加えていないのに発酵による品のよい甘さが印象的です。
■金山寺(きんざんじ)味噌/和歌山県
塩漬けにしたナスやキュウリ、ショウガなどを樽に仕込み、山椒、シソなどを薬味として3〜4カ月発酵させた、味噌と漬物の中間のような珍しいおかず味噌。今から800年以上前に中国のお寺から伝わったのが始まりのよう。米や麦、大豆を混ぜて麹にし、そこにさまざまな夏野菜を混ぜるのでにぎやかな味わいです。
中国地方の発酵食品
■米酢(よねず)/広島県
広島県の天然水と米をもとに、お酒から作られる米酢。日本酒を水で割ってアルコールを薄めた液体に、酢酸菌を加えて発酵させます。瓶やタンクなどで2〜4カ月間静置(せいち)発酵させ、1年ほど熟成すると、かどのない柔らかな酸味となります。尾道(おのみち)市には、約450年続く古い酢のメーカーがあります。
■うるか焼き/山口県
川魚・アユのお腹に、アユの塩辛である「うるか」を詰めて焼き上げたもの。天然のアユの香りとうるかの奥深い味わいを楽しめます。うるかは基本的にはアユの内蔵を発酵させたものですが、魚の身を使った「身うるか」、卵や白子を使った「子うるか」など、いくつかのバリエーションがあります。
四国地方の発酵食品
■再仕込みしょうゆ/香川県
蒸し煮にした大豆と炒った小麦を混ぜ、コウジカビを付けたしょうゆ麹を塩水で発酵させるのが標準の濃口醤油。塩水の代わりにしょうゆとしょうゆ麹を混ぜて仕込む贅沢な調味料が再仕込みしょうゆです。しょうゆを2回作ることになるので発酵・熟成は1〜3年かかります。手間がかかった分だけ濃いうま味が特徴です。
■阿波番茶(あわばんちゃ)/徳島県
茶葉をゆで、茶すり機でよくもみ、樽に仕込んで1〜2週間乳酸発酵させた発酵茶。一番茶葉を使い、すべて手作業という伝統的な製法で作られます。茶葉を遅く摘むことから「晩茶」とも表記します。苦味や渋味は少なく、乳酸菌特有の酸味が香る、さわやかな味わいです。
■かつお節/高知県
紀州(今の和歌山県)のかつお節「熊野(くまの)節」が、土佐(今の高知県)に伝えられた際、輸送中にカビが発生。良いカビを付けて悪いカビを防ぐため、カビ付けと天日干しを繰り返して作られる、とても硬いかつお節です。カビ付けの工程を経て、うま味が濃厚で香ばしくなったものを「枯(かれ)節」とも呼ばれます。
九州、沖縄地方の発酵食品
■明太子/福岡県
スケトウダラの卵巣を塩漬けにしたたらこを、唐辛子を使った調味液に漬けて味付けしたもの。朝鮮半島で17世紀ごろから食べられていた明卵漬(ミョンナンジョ)を日本人好みの味にしたのがはじまりだそう。タラの子を「たらこ」というのに対し、スケトウダラの韓国語名「明太(ミョンテ)」の子だから明太子と名付けられたといわれます。
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■高菜漬け/熊本県
阿蘇(あそ)地方の寒い気候と火山灰の大地が育む伝統野菜、高菜の漬物。とれたての高菜に塩と唐辛子を揉み込んで樽に隙間なく詰めて蓋をします。重しをのせ、3日ほど置いて水分を取り塩を加えて約1週間漬けると新漬け(しんづけ)のできあがり。半年〜1年ほど寝かせて発酵させたものが古漬け(ふるづけ。本漬けともいう)です。
■黒酢/鹿児島県
霧島市福山町に江戸時代後期から伝わる、琥珀(こはく)色をした香り高い穀物酢。「かめ壷仕込み」という伝統製法で作られます。屋外に並べられた「アマン壺」と呼ばれる黒い陶器製の壺に玄米、麹、水を仕込み、発酵・熟成させます。醸造期間は一般的な酢よりも長く、半年〜1年かかります。
■豆腐よう/沖縄県
沖縄名物の島豆腐に納豆菌の一種を付け、表面がトロッとするまで発酵させます。それを泡盛や焼酎などのアルコールで作った塩麹に漬けた発酵珍味。見た目は鮮やかな赤色をしているものが多く、独特な味わいはチーズのように風味豊かでコクがあります。
発酵食品がもたらす効果って?
画像:PIXTA
日本全国にある発酵食品は、まだ食べ物が豊かでなく保存問題などを抱えていた時代に生まれた知恵の結晶。私たちにとって、食べると様々なメリットがあります。
栄養価がアップする
まず、発酵菌の大きな働きって知っていますか?それは食物の栄養素であるデンプンやたんぱく質を分解し、細かくすること!食べたときに体内で細かくする手間を省いてくれるので、栄養素が吸収されやすくなります。
また、味噌やしょうゆなど、穀物や豆をベースにした発酵食品には様々な健康機能が。
例えば、熟成したお味噌に含まれるメラノイジンには細胞の新陳代謝を促す物質が、大豆の発酵食品に豊富に含まれるイソフラボンには血流を良くする働きが確認されており、どちらも生活習慣病の予防が期待できます。
漬物やヨーグルトに含まれる乳酸菌は腸内環境によい影響を与えます。免疫のバランスを整えて、風邪をひきにくい丈夫な体になる、体の中に生じた要らないものを体の外へ捨てるなどの手助けをしてくれるのです。
保存性が高まる
食品は発酵すると保存性が高くなり、腐りにくくなります。これは、「菌の拮抗作用」によるもの。発酵菌が食品の中で一定量まで繁殖すると、ほかの菌を締め出してしまうのです。さらに、発酵によって生まれる乳酸や酢酸、アルコールなどには殺菌効果があります。
おいしくなる
発酵食品の魅力はそれだけではありません。発酵するとうま味がもたらされ、よりおいしくなります。これは、菌の力で食材の栄養が分解され、アミノ酸やイノシン酸、グアニル酸など「うま味のもと」となる成分が生まれるためなのです。
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