秋が深まってきた時期に、体がブルっと震えるほど冷たい北風が吹いてきて、思わず「さむいっ!」と首をすくめた経験はありませんか?このような風は「木枯らし」と言い、「西高東低の気圧配置」のときに発生します。ニュースや新聞などでもよく見聞きするこれらの言葉を、ママ気象予報士の今井明子さんがわかりやすく解説します!
サイエンスライター・気象予報士 今井明子さん
京都大学農学部卒。2児の母。天気の話を中心に、生き物や自然にまつわる記事や書籍を多数執筆。気象科学館の解説員や防災講師、親子向けお天気実験教室の講師なども務める。著書に、「面白いほどスッキリわかる! 世界の気候と天気のしくみ」(産業編集センター)、「こちら、横浜国大『そらの研究室』! 天気と気象の特別授業」(共著、三笠書房知的生き方文庫)などがある。
木枯らしとは?いつ・なぜ吹いてくるの?
秋が深まり、冬が近づくと、「かきねのかきねのまがりかど…」で始まる童謡『たきび』を耳にすることがあります。保育園や幼稚園で子どもたちも、よく歌っていますよね。この『たきび』の歌詞にも何度も出てくる「木枯らし」ですが、聞くだけで冷たい風をイメージする人も多いと思います。なぜ、この季節になると、こんな風が吹いてくるのでしょうか。
木枯らしとは、葉をちらすほど強く冷たい北風
木枯らしとは、毎年10月後半から11月末の晩秋から初冬にかけて吹く、身が縮こまるような冷たい北風のことを言います。このような風は、木の葉を吹きちらすほど強く冷たいので、「木枯らし」と呼ばれています。
木枯らし1号とは?条件と発表される地方について
「今日は近畿地方で木枯らし1号が吹きました」と、ニュースで報道されることがありますよね。「木枯らし1号」とは、その年初めて吹いた木枯らしのことで、気象庁が発表します。ただ、木枯らし1号と呼ばれるためには細かい基準があります。まず、木枯らし1号が発表されるのは東京地方と近畿地方のみ。そして、10月半ば以降の決められた期間内に、「西高東低の冬型の気圧配置」によってもたらされる風が初めて吹いたときに「木枯らし1号」と呼ばれます。
また、木枯らし1号と呼ばれるためには、風向や風速にも基準があります。そして、東京地方と近畿地方では、木枯らし1号と呼ばれるための期間や風の基準などが微妙に違います。これらの基準に当てはまらない風は、木枯らし1号とは呼ばれません。つまり、東京地方で12月に初めて北寄りの風が吹いても、風速5m/sの風でも木枯らし1号にならないのです。
<木枯らし1号の条件>
【東京地方】
時期:10月半ば〜11月30日
風向:北から西北西の間
【近畿地方】
時期:二十四節気(※)の霜降(毎年10月24日頃)〜冬至(毎年12月21日頃)
風向:北寄りの風(北東から北西の間)
※二十四節気(にじゅうしせっき)とは、1年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらに各季節を6つずつに分けたもの。有名なものに立春、夏至などがあります。
【こちらも参照!】
木枯らしが吹く西高東低の冬型の気圧配置
木枯らしは、先ほども述べたように「西高東低の冬型の気圧配置」のときに吹きます。これは、文字の通り西にある大陸に高気圧が、東の海の上に低気圧がある状態です。秋が深まると、北半球を照らす太陽の光が弱くなり、気温が下がっていきます。このとき、陸のほうが海よりも冷えやすいため、大陸のほうが冷たくなり、地面の上の空気が冷やされます。逆に、海の上の空気は陸の上よりも暖かくなります。
冷たい空気はギュッと密度が高くなって高気圧になります。逆に、暖かい空気は密度が低いので、低気圧になります。ですから、大陸のシベリア付近の西に高気圧、東の海の上に低気圧ができるのです。なお、この時期に大陸にできる冷たい低気圧は、シベリア高気圧と呼ばれています。シベリア高気圧からは東にある低気圧に向かって風が吹きます。大陸の冷たい空気が海に向かって移動するため、冷たい北寄りの風が吹くというわけです。
木枯らしが吹く日の天気図はどんな形?
出典:気象庁ホームページ
木枯らしが吹く日の天気図を見てみると、同じ気圧の場所を結んだ等圧線が縦じまになっています。木枯らしはこの縦じまを横切るように吹きます。そして、縦じまの間隔が狭いほど強い風が吹きます。テレビなどの気象情報で、このような気圧配置が現れたら、「今日は冷たくて強い風が吹くんだな」と考えて、暖かい上着やマフラーなどでしっかり防寒して、お出かけするとよいでしょう。
木枯らしが吹いた後は冬になる?
冬というものの定義はさまざまです。天文学では冬至~春分を冬と定めていますし、暦のうえでは立冬(11月7日頃)から立春(2月4日頃)までが冬だとしています。そして気象学の区分では12~2月が冬です。どれも実際の気温や天候とは関係なく決められています。
では、木枯らしが吹いた後は冬になるのでしょうか。木枯らしは西高東低の冬型の気圧配置のときに吹くもので、シベリアからの冷たく乾燥した風です。このシベリア由来の空気こそ、まさしく冬の空気なのですが、木枯らしが吹いてしばらく寒い日が続いた後にポカポカ陽気になることは決して珍しくありません。ですから、木枯らしが吹くことで一時的に冬の空気にはなるのでしょうが、先ほど示したような「秋」の期間に木枯らしが吹いたら自動的に「冬」に切り替わるわけではありません。秋か冬かの季節の区切りは必ずしもそのときの「冬っぽさ」と一致するとは限らないのです。
冬将軍、時雨、小春日和の正しい意味、知ってる?
木枯らしのほかにも、この時期、天気予報などで「冬将軍」「時雨」「小春日和」などの言葉を耳にするはずです。これも西高東低の気圧配置と深く関係しています。詳しく説明していきましょう。
あのナポレオンを「冬将軍」が倒した?
冬将軍とは、冬のとても厳しい寒さのことを言います。もともとは、19世紀にナポレオンがロシアに攻め込もうとしたとき、あまりの寒さに撤退し、「ロシアの冬将軍にナポレオンが敗れた」と報道されたことで、この言葉が冬にしばしば使われるようになりました。ユニークな由来ですね。日本ではロシアに冬にできるシベリア高気圧を指して、冬将軍と呼ぶことが多いです。
「時雨」って何て読むの? いったいどんな雨?
時雨は「しぐれ」と読み、おもに日本海側や内陸部の盆地などで秋から冬にかけて降ります。とても寒い日にパラパラっと雨が降ってすぐにやむような通り雨です。シベリア高気圧から吹いてくる冬の季節風は、暖かい日本海で水蒸気をもらって湿り、雲ができて山を越えるときに雨や雪を降らせます。真冬であればこれが豪雪となるわけですが、晩秋から初冬では時雨となるのです。
時雨は、降る場所によって名前がついていることもあります。たとえば、京都の北山では「北山時雨」、滋賀県の湖西では「高島時雨」などと呼ばれています。
「小春日和」は春の言葉じゃないってホント?
小春日和と聞くと、「春」と入っているので、「春の言葉かな?」「まだ冬だけど、ちょっと春らしくなる日ってこと?」と思いがちです。しかし意外や意外、小春日和は秋の言葉で、ちょうど11月から12月上旬にかけての暖かい日のことをさします。木枯らしが吹き、日ごとに冷え込むこの季節に、ふとシベリア高気圧の勢力が弱まることがあります。そんなホッとひと息つきたくなるような暖かい日が、小春日和なのです。
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