みなさんのお子さんは、どんな夢をもっていますか?
野球選手に宇宙飛行士、お花屋さん、漫画家、今はYouTuberも人気ですよね。
このシリーズでは、子どもが憧れている職業、きっと興味がわくような注目の職業に就いた人にインタビュー。子どものときにどんなことが好きだったのか、どんな生活をしていたのかなどを伺いながら、今に至るまでのエピソードをたどります。気になるお仕事内容もたっぷり紹介!
第2弾は、歌舞伎の世界で「小道具」を担当している藤浪小道具の近藤さんです。
近藤 真理子
1977年、東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒(日本美術史専攻) 。藤浪小道具株式会社、演劇部演劇課課長。2000年、藤浪小道具株式会社入社。歌舞伎をはじめ様々な商業演劇の裏方として経験を積み、 現在は歌舞伎座や新橋演舞場など、多くの歌舞伎公演をチーフとして担当している。また今後は、伝統芸能の中で後継者が絶えかかっている技術や物、いわば「絶滅危惧小道具」を次代に繋げてゆくべく、活動を広げてゆく予定である。
どんな仕事をしているの?
近藤さんは「藤浪小道具」という会社で、歌舞伎の小道具を担当している人です。歌舞伎というと、役者さんのイメージが大きいかもしれませんが、その裏では、大道具、小道具、照明、衣裳、ヘアメイクを担当する床山など、さまざまな人が関わっています。その中でも近藤さんが担当している小道具は、公演内容や時代背景に合わせて、どんなものが必要か考えながらコーディネート。倉庫にあるものでいいのか、新しく製作が必要なのか、各部署と連携しながら準備を進めます。公演中の場面転換やメンテナンスも大事な仕事です。
藤浪小道具は約150年もの歴史がある会社。埼玉県にある大きな倉庫には刀や和傘、家具、着ぐるみなどが盛りだくさんです!歌舞伎や舞台をはじめ、ドラマやバラエティなど幅広く小道具の提供をしているので、皆さんが好きな番組にも使われているかもしれませんよ。
近藤さんのデスクには修理から帰ってきた小道具が。人形は、歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』に出てくる口上太郎くん(近藤さん命名)。この子も小道具なんです!
家族でミュージカルを鑑賞した幼少期
そんなお仕事をしている近藤さんはどのように育ったのでしょうか。
近藤:バブルな時代背景もあり、いろいろと経験させてもらって。小さい頃から「ピーターパン」や「レ・ミゼラブル」といったミュージカルを観に行っていました。
―― 早くから舞台に触れていたんですね。
1歳頃の近藤さんとお母さま。
演劇部で見つけた人生のテーマ
―― 学校での様子を教えてください。
近藤:小学5年からアニメオタクだったので、中高ではアニメマンガ同好会に入りました。演劇部も掛け持ちしていたので、自分でも演技をしたり、大道具小道具をやったり。演劇部のポスターも描いていました。
―― そのときから裏方を担当していたんですか。
近藤:演劇部の公演で喫茶店のセットを組むときには「うちにコーヒーメーカーあるから持っていくわ!」と電車で運びました。これが使えるかも、あれが使えるかも、とかき集めてくるのがとても楽しかったです。
―― けっこう本格的なんですね。
近藤:徹夜で背景を描いたり、小道具の仕掛けをつくったりして、当時は文化祭のために1年間生きていたようなものでしたね(笑)。30年経った今も、気持ちは変わらないなあと思います。「一生文化祭」が、私の人生のテーマです!
藤浪小道具の倉庫にて。お芝居の内容に合わせて小道具をかき集めるのは今も変わらない。
古典の授業から歌舞伎にどハマり
―― 歌舞伎との出会いを教えてください。
近藤:中学3年の古典で「平家物語」を読んだんです。人間模様に惹き込まれて、そこからどんどん沼にハマっていきました。今でいう聖地巡礼もしたりして。その頃、はじめて家族で歌舞伎を観たんです。ポスターに「源義経」「弁慶」と書いてあり「え、あの源義経が舞台に出るの!」と思って(笑)。はじめての歌舞伎でしたが、あらすじを読みながら観たら、意外とストーリーがわかって、けっこう楽しかったんです。
―― そこから通うようになったんですね。
近藤:学校帰りにダッシュで行って、1幕だけ観ることもありました。出待ちして、楽屋口でもらったサインは今でも大切にとってあります。
―― 好きになったら一直線ですね。
近藤:観ているだけでは満足できず、つくる側に回りたいなと思いはじめて。それに歌舞伎の裏方なら、ただつくるだけじゃなく、伝統を継承することもできる。セーラー服で出待ちしながら「いつかあの扉を顔パスできる人になる!」と自分に誓ったのが高3の夏ですが、意外と夢、叶いました(笑)。
入って2年目頃の近藤さん。担いでいるのは小道具を運ぶための「ボテ」。
大学の部活で本格的な歌舞伎に挑戦!
―― 大学では歌舞伎を実際に演じる部活に入っていたと聞きました。とても珍しいですね!
近藤:高校から内部進学できる学習院大学には、歌舞伎の衣裳や舞台、小道具などすべて本物を用意して実演する「国劇部」というものがあるんです。そこで藤浪小道具と出会いました。未来のファンが育ってくれるに違いない、という思いでみなさんとても良くしてくれて。アルバイトで部費を稼ぎ、舞台に立たせてもらいましたが、今となっては学割価格にしてくれていたんだなと実感します。
校内の講堂を使って、みんなで手づくりの公演を行った際の1枚。70年以上の歴史がある国劇部には、近藤さんをはじめ、現在も歌舞伎界で活躍しているOBやOGがたくさんいる。
一本の電話をきっかけに裏方デビュー
―― 就職活動はどうでしたか?
近藤:部活での出会いをきっかけに藤浪小道具を見学させてもらいました。「入ったとしてもアルバイトからだし、おすすめはしないよ」といわれましたが、それでも働きたくて。人手が足りなくなったら連絡してもらうことになったんです。
―― それで実際に連絡が来たんですね。
近藤:卒業間近の1月のある日「明日から来られる?」と電話がありました。使う小道具が多くて人手が足りないと。「まあ転換だけ出来れば大丈夫だから。じゃあ現地で!」ということで裏方デビューしました(笑)。
―― すごい急展開ですね!
近藤:3年半のアルバイト、9年間の契約社員期間を経て、ようやく正社員になりました。入社当時は、男性社会が根強く残っていて、女性の正社員がいないような状態だったのですが、今では私が所属する課の半分は女性社員です。
国劇部時代に近藤さんが描いた上演演目の絵看板。現場で急遽絵が必要になる場面もあり、このときの経験が今の仕事にも生かされている。
小さい頃から好きだった美術と演劇をうまく融合させて自分の仕事にした近藤さん。学生時代の情熱を今なお持ち続けている素敵な方でした。後半の「お仕事編」では、実際にどんなお仕事をしているのか詳しく伺っていきます!ぜひ合わせて読んでみてくださいね。
(2021年4月取材)
後編はこちら
子どもに人気のお仕事に注目!|歌舞伎の小道具(藤浪小道具 近藤さん)<お仕事編>
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