みなさんのお子さんは、どんな夢をもっていますか?
野球選手に宇宙飛行士、ケーキ屋さん、漫画家、今はYouTuberも人気ですよね。
このシリーズでは、子どもが憧れている職業、きっと興味がわくような注目の職業に就いた人にインタビュー。子どものときにどんなことが好きだったのか、どんな生活をしていたのかなどを伺いながら、今に至るまでのエピソードをたどります。
第13弾は、20周年を迎えた大人気アニメ『プリキュア』シリーズを手掛けている、アニメプロデューサーの鷲尾天さんと、キャラクターデザイナーの稲上晃さんです。生い立ち編の前半に引き続き、後半では気になるお仕事内容もたっぷりご紹介します!
鷲尾 天(わしお・たかし)
東映アニメーション株式会社 執行役員 エグゼクティブプロデューサー。1965年、秋田県生まれ。慶應義塾大学卒。2004年『ふたりはプリキュア』を立ち上げ、2008年まで5年間プロデュース。現在はプリキュア統括プロデューサー。また『ねぎぼうずのあさたろう』『怪談レストラン』『おしりたんてい』、映画『人体のサバイバル!』『深海のサバイバル』など児童書原作の作品も多数。
稲上 晃(いながみ・あきら)
1963年生まれ、大阪府出身。大学卒業後の1986年に東映動画(現・東映アニメーション)に第2期研修生として入社。アメリカとの合作作品に参加したのち、1987年に公開された劇場作品『聖闘士星矢 邪神エリス』で初めて原画を担当する。1990年に発売されたOVA「TOKUMAアニメビデオ絵本 はないちもんめ」シリーズの1本『峠についた赤い郵便受け』で初めてキャラクターデザインを担当。その後『ドラゴンボールZ』をはじめとする諸作に、主力アニメーターとして参加する。以降『夢のクレヨン王国』や『ふたりはプリキュア』3部作、『ねぎぼうずのあさたろう』でキャラクターデザインを担当、『おジャ魔女どれみ』シリーズ、『明日のナージャ』『プリキュア』シリーズで作画監督として参加している。
どんなお仕事をしているの?
―― まずは、アニメプロデューサーの鷲尾さんから、普段のお仕事内容を教えてください。
鷲尾:新しい作品を生み出すため、原作者と会ったり、資金を調達したり、人と会って交渉するのが主な仕事です。実際に作品の製作が決まると、スタッフを集めてシナリオ会議を開き、制作作業を進めていくという流れです。
―― いろんな立場の人と会って話して調整を進めているんですね。
鷲尾:毎日打ち合わせをしていますよ。たとえばですが、月曜日は社内打ち合わせで視聴率や売り上げの報告を。火曜日はアフレコの立ち会い、水曜日はシナリオの打ち合わせ、木曜日は新規作品立ち上げの打ち合わせ、金曜日はまた違う作品のシナリオ打ち合わせ……。
―― 同時進行でいくつも作品を担当するのは、なかなか大変そうですね!
鷲尾:ノートとスケジュール帳、消せるボールペンを常に持ち歩いて管理しています。ノートにはやらなくてはいけないことや、連絡事項、アイデアなどを書いて、済んだものには線を引いています。スケジュール帳はウィークリータイプのものを使っていて、何時にどこで誰と打ち合わせなのかを書いています。これがなくなったら、明日何をすればいいかわからなくなってしまうくらい、大切なアイテムですね。
自分の生み出したキャラクターは、我が子のように大切
―― 稲上さんは、キャラクターデザイナーや作画監督という肩書きをお持ちですが、どんなお仕事なのでしょうか?
稲上:物語に登場する人物や小物などを形づくるデザインを担当しています。また、1つのアニメ作品でも、何人もの「原画マン」が携わるので、みんなが描いた絵にバラつきが出ないよう、キャラクター設計図に沿って違和感のない造形(プロポーション)動き、表情、芝居になるよう、修正、統一する作業をしています。
―― 「芝居」という表現、確かにそうですね。
稲上:自分が生み出したキャラクターは、今でもずっと我が子のように大切に思っているので、シナリオを読んで「このキャラクターはこんな言い方しないのでは!」とたまに意見することもあるんですよ(笑)。プリキュアオールスターが出てくる映画作品などでは、自分の子たちについつい肩入れしちゃいます。キャラクターデザイナーはみんなそうなんじゃないかな。
―― 修正作業はどんなふうに進めるのでしょう?
稲上:原画マンによって少しずつ画風も癖も違うので、例えば細かい部分で言うと、目が離れ気味だったら寄せるとか、鼻の位置を少し変えるだけでも顔のバランスや年齢が変わってくる。眼力を出したいときはまつ毛を長くしたり、アイメイクを濃くしたり、少女ものって線一本で結構印象が変わるので、そういうところも調整しています。
―― 稲上さんは、『ドラゴンボール』シリーズなども担当されていましたが、作品によって描き方は変わりますか?
稲上:『ドラゴンボール』のときは、柔らかい鉛筆で、筆圧を強くして、けっこう太い線で描いていました。当時はセル画ということもあったので、線がもろに反映されましたが、今はデジタルスキャンなので、スキャンできる丁寧な線で描くことが求められます。自分としては、その作品のテイストに合った線を描くよう心掛けています。
仕事道具をご紹介
―― 今日は実際にお仕事で使っている道具類を会議室に持ってきていただきました。
稲上:アニメーションの作画も最近はかなりデジタル化が進んできていますが、自分はアナログで絵を描いており、鉛筆はB〜4Bまでを用途によって使い分けています。色鉛筆は消しゴムで消せるものですね。小さくなってきたら鉛筆ホルダーに入れて、大切に使っています。あとは、作画用紙とその固定タップ(3穴)、定規、サインペン、修正液、セロテープ、メンディングテープ、ふせん、そしてセリフや動きのタイミングを測るためのストップウォッチ、リーディンググラスと目薬も欠かせないアイテムです。
―― 色鉛筆は各色ありますが、どう使い分けているんですか?
稲上:主線は黒、影は青、ハイライト系は赤というふうに色を分けています。これがキャラクターの設計図。この設計図をもとに、さまざまなシーンを描いていくんです。
―― 『ふたりはプリキュア』と『ふたりはプリキュアMax Heart』では、主人公、キュアブラックたちの衣装が少し変わったと聞きました。
稲上:最初はおへそが見えていたんですが、おもちゃやお着替えの商品で「子どもたちがお腹を冷やしてしまう」という意見をいただいて、マックスハートではやむなくお腹を出さない衣装に変更しました。子どもたちが観る作品なので、真似をしてしまうんですよね。長いマフラーも、遊んでいて引っかかったら危険ということでNGにしていました。
―― そんな工夫があったとは、知りませんでした。
リサーチで、実際のラクロス部を取材
―― プリキュアシリーズの主人公は大半がティーンの女の子ですが、リサーチはどう進めているんですか?
鷲尾:女性スタッフや関係各社さんから情報をもらうこともあれば、ティーン雑誌を買ってきて、それを見て勉強することもあります。「今どきの女の子の髪型は、こういうのが流行っているんだ」「こんな素材の髪留めを使っているんだ」とかね。『ふたりはプリキュア』のときは、大学のラクロス部に取材に行きました。
―― 実際に取材に行くこともあるんですね!
鷲尾:毎回ではないですが、このときは監督と技術監督、ディレクター、プロデューサーの私、助手さんと、稲上さんなど、メインスタッフ6人くらいで見学に行きましたかね。
稲上:実際の試合の様子をはじめ、プレーで使うクロスはどうやって持つのか、ゴールキーパーのヘルメットの裏側がどうなっているのかなど、細かな部分までいろんな角度で写真や動画を撮らせてもらいました。試合中は、ボールを落とさないように、クロスを回しながら走るんですが、アニメーションで表現するのは動きがある分、けっこう大変でしたね。移動中もクロスをむき出しにして持つときは、人にぶつけないように気をつけて持つという話を聞いて、本編でも気をつかうようにしていました。
―― プリキュアの影響でラクロスを知ったという子も多そうです。
鷲尾:当時現役でラクロスをやっていた高校生や大学生に聞いたら、後ろから小さい子がついてくるからなんだろう?と思ったら『プリキュア』にラクロスが出てくるからだってあとから気付いたって話していて。影響力があったんだなあと驚きましたね(笑)。
アニメのお仕事に興味を持っている子たちへメッセージ
―― 最後に、この記事を読んでいる子どもたちへメッセージをお願いします。
鷲尾:とにかくいろんな世界を体験してください。本を読む、外で遊ぶ、友達と秘密基地をつくる、なんでもいいです。それらの経験がすべてアニメ作品をつくることに活かされると思います。あなたが観たアニメは、あなたが大人になったときには「過去の作品」です。あなた自身の経験を活かすことによって「新しい作品」をつくり上げてください!
稲上:アニメ作品はクレジットに大勢の名前があるように、チームでつくっているので、コミュニケーション力が重要なポイントになってきます。あいさつも大事ですね。そして、日頃からいろいろなものを観察する癖をつけておくと、絵の表現に役立ちますよ。人間の動作、表情、動物、乗り物、自然現象、そのほかなんでも、イメージの引き出しをたくさん持っていると良いと思います。自分の気持ちは大切に、生き生きとした絵を描くには「好き」で「楽しんで」描くことが何より一番です。
(2023年4月取材)
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前編はこちら
子どもに人気のお仕事に注目!|アニメプロデューサー、キャラクターデザイナー(東映アニメーション 鷲尾 天さん、稲上 晃さん)<生い立ち編>
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