アリを採集して、飼育観察をしてみませんか?女王アリを採集できれば、コロニーを作る様子を長期的に観察することができます。普段は簡単に捕まえることができない女王アリですが、採集しやすい時期や、巣作りケースの作り方、餌のあげ方などをたっぷりと解説!働きアリだけの観察飼育についてもご紹介します。
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(監修プロフィール)堀川ランプ
昆虫大好き芸人。変形菌にも詳しい。日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程修了。理系の研究発表を模した白衣スタイルでおこなうフリップ芸が人気。Youtubeで「堀川ランプの昆虫列伝」を配信中。日本変形菌研究会会員。成虫の会メンバー。当記事のイラストはすべて堀川ランプさん本人のよるもの!
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1.女王アリの特徴
アリは、コロニーという家族のまとまりで生活を営んでいます(アリの生態の詳しい解説はこちら!)。女王アリは、コロニーの中で卵を産んで繁殖ができる唯一の存在。なので、多くの種類では働きアリよりも体が少し大きく、特にお腹が発達しているのが特徴です。また、コロニーの中心的な存在である女王アリは、巣の奥深くに潜み、外に出てくることはほとんどありません。よって、普通にアリを野外で観察する中で女王アリを見つけるのは難しいことです。
2.女王アリ探し、狙うは「結婚飛行」の時期!
しかし、そんな女王アリを間近で観察できる時期が年に数回あります。それはアリの「結婚飛行」の時期です。
結婚飛行とは、アリが次世代に命を繋ぐうえでとても重要なイベントです。翅が生えた姿で成虫になる新女王アリやオスアリ(※通称「羽アリ」)は、同じ地域のコロニー同士でタイミングを合わせて一斉に巣から飛び立ち、空中で交尾をします。交尾を済ませた新女王アリは地上に降りて翅を自分で取り、新しい巣を作るための場所を探します。これが結婚飛行の全容です。
結婚飛行が行われる時期や時間帯はアリの種類によって異なりますが、雨が数日続いた後の良く晴れた日に行われることが多いです。今回の記事で紹介したアリたちの結婚飛行の時期と、よく見られるとされている時間帯の目安は以下のとおりです。
<女王アリの結婚飛行の時期と時間帯>
- クロヤマアリ:6月~8月上旬の午前中
- クロオオアリ:5月~6月の夕方
- クロナガアリ:4月~5月の昼前~午後
- サムライアリ:7月の午前中
- ムネアカオオアリ:5月~8月の午後~夕方
- トゲアリ:8月下旬~10月の午前中~昼
3.アリの命をかけた結婚飛行は感動的!
アリたちは、命をかけて結婚飛行に臨みます。巣から飛び立った新女王アリやオスアリは、鳥やクモなど、小さな昆虫を餌とする生き物にとっては格好の獲物です。結婚飛行は、先述したように同じ地域で同じ種類のアリのコロニー同士でタイミングを合わせて行われます。これは、新女王アリとオスアリが出会いやすいようにするためという意味もありますが、一斉に羽アリを送り出すことで、天敵に大切な新女王アリとオスアリを食べつくされてしまわないようしているのだとも言われています。
オスアリは、結婚飛行のためだけに生まれてきます。なので、天敵に襲われず無事にメスと交尾することができたオスアリは、その役目を終えて静かに死んでいきます。
結婚飛行で交尾を済ませて地面に降り立った新女王アリにも、困難が待ち構えています。他の種類のアリに襲われたり人や車に踏みつぶされたり、巣を作るのに最適な場所が見つからなかったりなど、様々な理由により命を落としてしまうため、無事にコロニーを形成することができる新女王アリはほんのわずかな数しかいません。
また、巣に残される働きアリたちにとっても結婚飛行は他人事ではありません。自分で卵を産んで子孫を残すことができない働きアリたちにとっては、兄弟である新女王アリやオスアリたちが無事に子孫を残してくれることが、自分たちの命を次世代につなげるための唯一の方法なのです。そのため、新女王アリやオスアリを結婚飛行へ送り出す時、働きアリたちは巣の周りで警護を行い、少しでも周囲に異変を感じたら新女王アリとオスアリを巣に避難させます。
このように、アリの結婚飛行は、感動的な命のドラマなのです。僕が実際のクロオオアリの結婚飛行の様子を撮影した動画も、ぜひ見てみてください!
●堀川ランプの昆虫列伝「クロオオアリの結婚飛行」
4.女王アリの捕まえ方
新女王アリを捕まえたい時は、結婚飛行が行われた後の時間帯にアリの巣から少し離れた場所の地面を少し探してみましょう。そうすれば、結婚飛行を終えて地面に降り、新しい巣を作る場所を探している新女王アリを見つけることができるかと思います。特に道路が舗装されている場所では、新女王アリが地面を掘れずにずっと歩き回っていることが多いので狙い目です。また、夕方に結婚飛行を行う種類では、夜になると街灯や自動販売機の明かりの近くに結婚飛行を終えた新女王アリが落ちていることがあるので、ここを狙って探すのもオススメです。
新女王アリを採集して持ち帰るのに、大きなケースは必要ありません。採集から自宅に持ち帰るまでが短時間なら小さなタッパさえあれば十分です。新女王アリはつまむと弱ってしまうことがあるので、一度紙や葉っぱの上にのぼらせてから用意した容器に入れてあげましょう。
女王アリの捕りすぎは厳禁ですが、もしも何匹か持って帰りたい場合は、女王アリ同士がケンカして弱ってしまわないよう、必ず1匹ずつ別の容器に入れて持って帰るようにしましょう。
5.女王アリの巣作りケースの作りかた
女王アリを採集できたら、巣作りケースを作って、コロニーを作る様子を観察してみましょう。最初は、大きい容器は必要ありません。小さめのケースで飼い始めましょう。市販のアリの巣セットを利用する以外にも、簡易的なものなら身近なもので簡単に作ることができます。
<用意するもの>
- 小さめのタッパやプラスチックの容器
- 石膏もしくはメラミンスポンジ
- カッターナイフやキリなど
<作り方>
- 容器の側面の、底から1~2㎝の場所にカッターナイフやキリを使って5mmくらいの穴を開けます。容器が硬くて穴が開けづらい場合は、火で熱したキリで容器のプラスチックを溶かしながら穴をあける方法もあります。
※必ず大人がやりましょう - 石膏を使う場合、粉を水で溶いて容器の底に5mm程度注いで固まるのを待ちます。メラミンスポンジを使う場合は容器の大きさに合わせた大きさ・厚さは5mm程度に切り出し、容器の底にはめ込みます。この時、容器にあけた穴をふさいでしまわないように注意しましょう。
- 容器の底に敷いた石膏やメラミンスポンジを軽く湿らせます。
- 丸めたキッチンペーパーや切り出したメラミンスポンジの切れ端を栓にして、容器の穴をふさぎます
- 最後に女王アリを投入します。
「アリの飼育ケースなのに砂とか土がなくて大丈夫なの?」と思われる方も多いかもしれませんが、砂や土を使うとカビが生えやすくアリの巣の中が不衛生になってしまうことが多いため、今回紹介した砂を使わない方法がオススメです。
6.餌は? 産卵前と産卵したら
●産卵前の餌
女王アリをケースに入れたら、なるべく動かさず、観察する時以外は暗い場所に置いておきましょう。条件さえ良ければ数日で石膏やメラミンスポンジの上に産卵しますが、個体差が大きいので気長に待ちましょう。1ヶ月経っても産卵しない場合は、ケースを置く場所を変えたり、観察する頻度を減らしてみるといいと思います。
野生では女王アリは最初の働きアリが羽化するまで何も食べずに過ごしますが、飼育する場合は、昆虫用ゼリーや、薄めたハチミツをキッチンペーパーや綿にしみこませたものを、ほんの少しだけケースの中に入れておいてもよいでしょう。その場合は、小さく切ったビニールやアルミホイルなどを皿として下に敷き、その上に餌を置きましょう。そうすることで、なるべく底に敷いた石膏やメラミンスポンジに餌がつかないようにするのがポイントです。採集した女王アリが体力を消耗している場合は餌を入れるのは有効ですが、餌交換の時の振動によるストレスやカビの原因になる場合もあるので、メリット・デメリットがあることを頭に入れたうえで試してみてください。
●産卵後のケースと餌
産卵が確認できたら、なるべくアリを刺激しないようにして、観察も最低限に抑えましょう。環境や種類によりますが、卵は大体1ヶ月くらいで成虫になります。この時羽化したアリたちが、最初の働きアリたちです。羽化したばかりの働きアリは、最初のうちは女王アリの近くから離れませんが、数日経つと活発に動き回るようになります。ここまで来たら、今の産卵したケースよりも大きいケースを用意し、餌・湿度調整のための湿らせたキッチンペーパー・アリがいるケースを入れましょう。そして、元のケースの側面に開けておいた穴をふさいでいた栓を取り、アリが出入りできるようにします。このような設備を作ることで、アリの巣とその外の環境を再現することができるのです。ケースに入れておく餌や湿らせたキッチンペーパーは、新しいものと交換しやすいようにペットボトルのキャップを皿として使って投入するのがオススメです。
アリはいろいろなものを食べますが、甘い餌(昆虫用ゼリー、薄めた砂糖水、乳酸飲料など)と、たんぱく質豊富な餌(水でふやかした金魚の餌、虫の死骸、砕いた煮干しなど)の2種類の餌を用意してあげるのが理想的です。種類や個体差で好みが違ったりするので、いろいろ試してみましょう。
7.女王アリの飼育観察のポイント
アリの観察で重要なのは、振動などのストレスを与えず、そっとしておいてあげること!特に働きアリが増えるまでは周囲からの刺激に敏感です。
女王アリは自然界でも巣を上手く作れずに死んでしまうことが多いので、丁寧に飼育していても失敗してしまうことがよくあります。もし上手くいかなった場合も、試行錯誤をしながら、機会があれば再チャレンジしてみてください。
女王アリはとても寿命の長い生き物で、上手く育てれば10年以上生きます。飼育ケースの汚れが目立ってきたり、働きアリが増えて窮屈そうにしていたら、大きいサイズのケースに引越しをさせてあげましょう。元のケースより大きいサイズのケースで巣作りケースを作って用意し、穴を2つあけ、元のケースの近くに置いてみましょう。ストローやチューブで連結してあげたりすると、ほどなく引っ越しをしてくれるはずです。新しく用意する巣作りケースの石膏やメラミンスポンジをくりぬいたり、板で仕切りをして部屋を作ってあげると、アリが引っ越した際にその部屋を幼虫用・女王用など用途に分けて使ってくれることがあります。
アリは数年かけて大きなコロニーになります。飼育をしていく中で「私たちが普段何気なく見ているアリの巣も、こんなに時間をかけて頑張って成長してきたんだ」ということを感じることができると思います。
8.働きアリだけで採集・飼育するには
働きアリだけを採集した場合でも、巣作りや餌の運搬の様子などは観察することができます。ですが、先述したように、外を歩いているアリはおばあさんのアリなので長期的に観察することは難しいうえ、20匹以上のまとまった数を採集してくる必要があります。
働きアリのみを飼う場合も、先述したものと同じ飼育ケースで短期間飼うことができます。しかし、「女王アリ」という集合場所がないので、なかなかケースを巣として認識してくれない場合があります。そこで、ケースのまわりを黒い紙などで覆って暗くしてあげるとアリが巣として認識しやすくなります。ですが、これではケースの中の様子が観察できません。中の様子を観察したい場合は、赤い透明フィルムや下敷きで巣作りケースを覆うと、黒い紙で覆った時に近い効果が得られ、巣作りケースの中もある程度観察できます。
巣穴を掘る様子を観察するケースは?
アリを飼うのなら、やっぱりアリが土の中に巣穴を掘る様子を観察してみたい!というお子さんも多いでしょう。市販でも巣穴作り観察用の商品はいくつかありますが、ここでは、アリの巣穴作りを観察できるセットの簡単な作り方を紹介します。
<用意するもの>
- ビンやプラスチックの容器:大小1つずつ
※小さい方は、大きい方よりやや小さい位のサイズが理想 - 砂(目が細かいとよい)
<作り方>
- 大きい容器の中に小さい容器を入れる
- 2つの容器の間にできた隙間に砂を注ぎ込む
- 霧吹きで砂を湿らせる
容器を二重にして、その隙間に砂を入れることで、アリが容器の壁に沿って穴を掘ってくれるので観察がしやすくなります。あとはここにアリを入れて黒い紙で覆うか暗い場所に置いておくだけ。エサは少量を、小さい方の容器の上に置いておくといいでしょう。上手くいけば、一週間ほどでアリが巣穴を掘る様子が観察できます。
このセットに、女王アリのいるコロニーをそのまま移し替えると、より野生に近いアリの様子が観察できます。しかし、少しの振動で砂が崩れたり、汚れてきた時の管理が大変だったりするので、あくまで「巣穴を掘る様子」を働きアリのみで観察するためのセットにして、観察が終わったら元に戻してあげるのが理想的です。