このまま一生東京かな。そう思っていたのに、はからずとも地方に「子育て移住」することになってしまった! 前回の記事では、4歳長女と2歳の双子と移住生活を送る私が、移住前に抱いていた期待や不安について紹介しました。移住後、実際のところはどうだったのでしょうか? 慣れない地方での生活は? 出産は? 保育園は? 何もかもわからないまま富山県に移住した結果は、こうでした!
富山移住|その他の記事
»(1)子育て中の移住ってどう?体験者が移住前に考えていた不安と期待 (配信日:2020年10月30日)
»(3)出かけづらいwithコロナの秋、富山でおでかけの救世主に出会った! (配信日:2020年11月19日)
移住者プロフィール:沢井メグ
ライター、翻訳者(中国語)。学校法人や上海万博に勤めた後、「今後どこに住むかわからない、世界中どこでも続けられる仕事を」と好きな文章書きと中国語を生かしてライター・翻訳者に転身。東京のWebメディアに勤めながら、まさかの地方移住&リモートワークに。独立後も当時思っていた「どこに住んでいても仕事を続ける」を実践中。プライベートでは4歳長女と2歳双子男児のママ。
Twitter:@Megmi381 Instagram:@xiaomeg381.twinslife
実際に移住してみてまず驚いた!
こんにちは! 生活拠点を富山県に置き、東京を始め各地のメディアでライターや翻訳者として活動している沢井メグです。私は、2016年4月に東京から富山に移住しました。いわゆる「地方」に住むのは初めてで、東京との違いに驚くことはありましたが、到着した瞬間、「ここは同じ日本なのか?」と驚いたことがあります。初日、私は夜の20時頃に新居に着いたのですが、真っ暗! 周囲には他のお宅があるはずなのに、視界には闇だけが広がっていました。
ここでは「夜が早い」のです。直前まで住んでいた東京都中野区では、誇張なしで一晩中、窓の外から人の声が聞えていました。しかし富山では、夜も21時を過ぎるとシーンとしています。23時を過ぎると灯りがついているのは、我が家くらい。一方で朝はとても早い。富山の人は「太陽と共に置き、そして日が沈むと眠る」という生活をしているらしい…
富山には、私が東京で送っていた生活とはまるで違う世界が広がっていました。驚くと同時に「もしかしたら、これが人間としてあるべき姿なのかもしれない」と、感じました。
移住前に感じていた不安、実際どうだった?
移住直前に妊娠がわかった私が、富山への移住で感じていた不安は何と言っても出産や育児、そして保育園問題です。ネットで情報を探しても「今いち細かいところがわからない」というのが、不安を増幅させていたと思います。実際のところは、どうだったのでしょうか?
»子育て中の移住ってどう?体験者が移住前に考えていた不安と期待(配信日:2020年10月30日)
出産する病院は問題なく選べた
移住直前に妊娠がわかった私は、富山で何よりもまず産婦人科を探す必要がありました。東京で「母子手帳をもらうと同時に分娩予約しなければ産む場所がなくなる」と聞いていたため、とにかく焦り、とりあえず通えそうな産婦人科を予約して、お医者さんに分娩予約をどうしたらいいか相談しました。すると
「うちはいつでもいいですよ。健診に来てみて『ここで産みたいな』と思ったら教えて」
産みたい場所で産める!?
後から知ったのですが、その病院はかなり人気の高い産院で富山県内でも分娩数は比較的多いそうです。そんな病院でさえ自分の意思で選べるなんて!
富山では「産院探しに焦らなくても良い」というのは、他の東京から移住した友人も同じように衝撃を受けたと話していました。妊娠出産は不安も少なくありません、慌てず、安心できる病院に通えるというのは気持ちの面での負担がとても軽くなりました。
保育園、心配することなかった
さて産院が決まったら、次に心配なのは保育園探し、いわゆる保活です。富山県は待機児童ゼロをうたっているけれど、本当にゼロなのでしょうか? 半信半疑のまま保育園探しから始めました。
見学に行った園では、園長先生がいろいろと話を聞いてくださいました。私は自分が移住者であり地域のことがわからない、親戚もいない、保育園に入園できるか大変心配していることを相談すると、力強い一言をいただきました。
「大丈夫だから安心して!」
大丈夫って、本当に入園できるのですか!? 私の心配をよそに「私達はお母さんたちの助けになりたいと思っているの、何でも聞いてくださいね。」と、申込書類の書き方から何から何まで教えていただきました。それでも正式な入園許可証が届くまで不安でしたが、結果は……本当に大丈夫だった! 無事に希望の時期に入園することができました。
後から知ったのですが、ずっと地元に住んでいるママたちは、保活の心配をしている様子はありません。
「もうすぐ1歳だから保育園に問い合わせてみようかな」
「途中入所は無理でも4月なら入れるから、大丈夫」
と、余裕。保活保活と焦らず、仕事復帰前の子供との限られた時間を大切に過ごしていました。これだ……これなんだ! 私が過ごしたかった育休はこれだ! 地元ママの姿を見たときの衝撃は忘れられません。保活問題に振り回されず、全力で赤ちゃんの成長を見守ることができる、素晴らしいことなのに、これが日本全国どこでもかなうものではないことを悲しく思いました。最初は望んで富山に来たわけではなかったけれど、保活の面では本当に良かったなと思います。
さて私は希望の園に入れましたが、誰もが希望が通るかというと、そうではありません。富山でもいくつかの市には激戦区があり、そのエリアでは「保育園は選ばなければ入れる」という認識であるそう。激戦区に住むあるママは希望が通らず自宅から離れた保育園に通うことになり、転園するまで大変だったと話していました。これから移住される方は、事前に地域の細かい事情も調べておくと良いかもしれません。
デメリットだと考えていた“車”が、メリットだらけ
富山は車社会です。
運転に自信がない私にとって、車は100%デメリット、何なら「悪」くらいの認識でした。ですが、実際に車を使って生活してみると、もうメリットしか感じられません!
車に乗るメリットというと「満員電車に乗らなくてもいい」「バスや電車のダイヤを気にせず自由に動ける」なども挙げられますが、私にとってのメリットは何と行っても「子供とのお出かけ」です。2018年に双子が生まれてからは、車のありがたみをひしひしと感じています。
いま、子供は長女が4歳、双子男子が2歳なのですが、3人を連れて出かけようと思うと、常に「小旅行」のような感じになります。子供の数もそうですが、荷物の量が凄まじいのです。双子用ベビーカー、抱っこひも、3人分の水筒、3人分のおやつ、2人分のオムツ、おしりふき……親1人では徒歩や公共交通機関で長距離移動できる量ではありません。大人が2人いても大変です。ですが車があれば、3人の子供を私1人で連れて出かけることができるのです。
私にとって車は「どこでもドア」みたいなものです。車内空間は「人の迷惑を気にしなくて良い」「自由に過ごして良い」という意味で自宅と同じなので、車でのお出かけは本当に家からダイレクトに目的地に行ったという感覚です。まさに「どこでもドア」! 万が一、行き先にオムツ替えコーナーや飲食可能なエリアがなくても、車の中で済ませればOK。車があることで子連れお出かけのハードルがグッと下がりました。
車のおかげでお出かけのハードルが下がっただけでなく、行動範囲も広がりました。東京にいたときは「車で30分? 遠いなぁ(やめとこっかな)」という感覚だったのですが、富山だと
「30分?近い!今すぐ行く!」
「1時間?全然余裕」
「3時間?えー意外と近いね!」
という感覚になりました。お出かけの範囲がどんどん広がっていくようです。つい先日も日帰りで長野県まで友人を訪ねに行きました。
人づきあいは、特に問題なし
富山の人は本当に排他的なのか? 一言で言うと「普通」でした。私は富山弁をまだ話せないので、一発で県外の人とバレますが、それで不利益を被ったり、嫌な思いをしたことはありません。近所と濃密なおつきあいこそしていませんが、会えば普通に挨拶する仲です。特に40代以下の若い世代だと出身地は気にしていない感じです。
ただ、それは今の住環境によるのかも。私が住んでいるのは住宅地としての歴史が比較的浅いエリアなのです。たとえばパートナーの実家へのUターン移住だと親の世代から引き継がれる濃密な近所づきあいがあるので、きっと事情が異なるでしょう。
濃密な近所づきあいがなければ、人とどこで知り合うのかというと、私の場合は自治体や企業の子育てイベントとSNSです。富山はInstagramの利用率が全国1位(2018年/モニタス調べ)でSNSが好きな人が多いと言います。確かにInstagramやFacebookをやっている人が多い! そしてイベントで1人知り合ってSNSでつながると、そこから芋ヅル式で知り合いが増え、更につながっていくという感じで友人が増えました。
生活費は、トータルでは安くなったかも!
地方暮らしは、生活費が減るのでしょうか? 逆に高くなるのでしょうか? 具体的に何が増えて何が減ったか挙げてみましょう。
まず高くなったもの、増えたものは「車の維持費(保険やガソリン代)」「暖房費」が筆頭です。ですがこれは生活必需品なので削ることはできません。富山で車なしの生活も、暖房なしの冬も考えられない……。
富山に移住したことでかかるお金もありますが、それをカバーしてくれるのが「家賃」、「食費のうち生鮮食品類」の安さがあります。家賃は前回の記事で紹介したとおり、東京より2万円下がって広さが倍になりました。生鮮食品は、魚、野菜が安いのは想像しやすいのですが、意外なことにお肉も安くて驚きました。
そして我が家の場合は、「外食費」が減少したことも大きかったです。
外食費は、東京では私も夫も仕事が遅く、平日の食事は外食やコンビニなど各自で済ませていたところ、それがなくなったのです。というのも、富山では繁華街の居酒屋やチェーン店を除くと夜遅くまでやっている店が少なく、夫が仕事の後に外食しようにもする場所がありませんでした。夕食を家で食べるようになり、結果的に外食費が減ったというわけです。これも、太陽が沈むと同時に眠る「富山時間」のためでしょうか。
東京のときと家族構成が変わったので、単純に比較はできないのですが、体感として「東京より生活費が高い」という感じはありません。
雪は、例年通りなら大丈夫そう!
積雪量は減っているそうで、通常の降雪量のときは何ともありませんでした。雪かきはむしろいい運動。
ただ2018年の北陸豪雪は壮絶でした。富山でも80cm以上積もり、一晩で駐車場に止めていた車が屋根まで雪で埋もれました。道路には「後で取りに来ます」というメモがはられた車が何台も乗り捨てられ……まるでゾンビ映画のようなあの光景は忘れることはできません。ただあれほど降ることは、近年、富山県では珍しいそうで、地元の方も「40年以来の雪、一生に1回か2回ある程度」と話していました。
ちなみに富山の人はどんなに雪が降っても、何時間かけてでも何とかして出勤するそうです。まじめな県民性が表れるエピソードとして語られますが、個人的には雪が降ったら休みたい!
移住前に抱いていた期待、実際どうだった?
移住前に抱いていた不安は、わりと大丈夫だったかも!「知らない場所だから」と少し身構えすぎていたようです。では移住前に期待の方はどうだったのでしょうか?
住環境(住宅、家賃、ほか)が私にとって最高すぎた!
家賃は事前に思っていた通り少し安くなりました。そして何より「引っ越して良かった」と思うのが自宅周辺の環境です。特に双子が生まれてからは! 現在、住宅地にある戸建てに住んでいるのですが、家同士が密集していません。つまり周囲とお互いの生活音を気にしなくても良い距離が保てているのです。
赤ちゃんの泣き声ももちろんですが、うちの双子は歯磨きのときに「この世の終わり」のような叫び声をあげるのです……もし都会のマンションだったら「近所迷惑になる!」と気が気ではなかったでしょう。想像するだけで恐ろしいです。悲鳴のような声なので通報されていたかも……。
もちろん近所迷惑にならないよう気をつけなければならないのはどこでも同じですが、今の住環境は必要以上に神経質になる必要がありません。親のストレスにならないばかりか、家が子供にとって緊張しなくていい、のびのびできる場所になったことが良かったと思っています。
子供と遊びに行ける場所が多い!
子供の遊び場がたくさんある。これは移住前に考えていた通りでした。実際に行ってみると、のびのびと遊ぶことができます。
我が家の子供たちはまだ幼児なので公園や児童館がメインですが、すでに小学生のお子さんを持つ移住者に聞くと、「富山は本当に遊ぶ場所が多くていいですよ。釣り堀や子供用のボルダリング、面白い自転車に乗れる施設もあるし、雪国なせいか屋内の遊び場も多くて雨や雪の日も助かります」とのことです。
公園や子供が遊べる施設は広く作られていて、たいていの場所で普通に歩いているだけで、ソーシャルディスタンスがとれます。コロナ禍のなかストレスも少ないですし、そもそも人同士が適度な距離を保っているとトラブルも起きにくく気持ちにも余裕が出るものです。
あえてデメリットをあげるなら
期待は期待通り!不安は大して心配なかった!私にとって富山への移住は今のところメリットがデメリットを上回っていて今の環境に感謝することが多いです。では富山移住は100点満点だった?……と言うわけでもないのが世の常です。東京では感じなかったちょっと困ったな、解決しないとな~と思うこともありました。
大人の娯楽が少ない
私の知り合いで、3度の飯よりクラブとお酒が大好きな人が富山に来たときのこと。彼女は街中でものんびりした雰囲気の富山を見て、「私はここには住めない」「クラブとかネオンの街がないのは辛い」と言いました。クラブ、ありますよ。ただ東京ほど数が多くないのは確かです。
また映画は都会とは少し事情が異なります。有名作であれば、富山県内に3つあるシネコンのどこかで必ず上映しています。確実に見られると言っていいでしょう。話題の『鬼滅の刃』も休日だと1日に30回上映しています(笑)しかし単館系の映画だとまず映画館が少なく、見られる作品も限られています。
またミュージカルやライブなども東京のように頻繁に開催されているわけではありません。私は観劇が趣味だったのですが、富山に来てからめっきり回数が減りました。ですが、コロナ禍の前はシネコンでのライブビューイングや、弾丸観劇バスツアー、隣の石川や新潟まで車で見に行ったりしていました。これはこれで楽しいものです。ここでも車バンザイ!
子供の習い事は大変かも
ピアノ、そろばん、水泳あたりのメジャー級習い事はどこにでもありますが、たとえばネットで話題になったレゴスクールなど珍しい習い事をさせようと思うと少し大変かもしれません。珍しい習い事はわざわざ県外まで習いに行っているという人もいるくらいです。メジャー系以外だと富山県内に教室があったとしても富山市中心部に集中しているため、郊外に住むと送迎が大変。有名な先生がいらっしゃる教室も同様です。ある著名な先生が在籍しているダンス教室では、毎週車で2時間かけて送迎しているという人もいました。孟母三遷の教えを彷彿とさせますが……親御さんの熱心さも教育県と言われるゆえんなのでしょうか? 親としてできることは諦めて別の選択肢を提示するか、気合いを入れて送迎を頑張るしかないですね。
将来の教育費…大学進学したら確実に下宿代がのしかかってくる!
デメリットとは言いませんが、富山に来てからの心配事は子供の将来の教育費です。
富山では大半の子供が高校までは公立学校に行くので教育費はかからない方です。しかし、富山に限らず地方の場合、県内に大学や専門学校以上の高等教育機関が少ないものです。東京なら学校も多く専門分野も多岐に渡るので自宅から通う学生も少なくないでしょう。富山では進学を機に実家を離れるという学生が多いのが現状です。つまり、進学=一人暮らし=お金がかかる!我が家も3人全員が県外に進学となると、ちょっと頭が痛い話ではあります。ただ、子供が進学を機に家を出るというのは、東京にいても大阪にいても可能性はありますし、ある意味、「最初からわかっているだけ準備ができていいのかも!?」と、前向きにとらえたいと思います。何より、子供がやりたいことを見つけたのなら応援したいものです。今から仕事と貯金頑張るぞーっ!
まだまだ残る富山暮らしの謎
富山に来て4年が経ちましたが、ただまだまだ残る謎もあります。
学力の高さ
富山県には私立小学校が1校しかありません。それも2019年に開校したばかりの新しい小学校です。この話をすると東京の友人からは「私立の学校がなくて大丈夫?」と、驚かれますが、文部科学省が行っている全国学力テストの正答率はトップ5常連、2019年のデータでも小学校・中学校ともに全国4位でした。
公立の学校教育がしっかりしている説、親が頑張っている説などいろいろ聞くのですが、実際のところはどうなのでしょうか。リアルタイムで子育て中の方にはなかなか聞きづらいことなので、子育てが終わったママさんに聞いてみたいと思います。
賃金が低いのに生活は豊か?
2020年に発表された富山県の最低賃金は849円。東京の1013円に比べると164円も低い値です。同じ仕事なのに、富山では時給850円、東京なら1000円越えと言われるとモチベーションも下がりますよね。
しかし富山の人が貧しい暮らしをしている訳ではありません。マイカー持ちは当たり前、20代、30代で家を建てるのが当然。余談ですが、持ち家率が全国1位と高いためファミリー用の賃貸物件を探すのは大変だという話があるくらいです。
親世代と一緒に暮らす人も多く援助があるのかなとも思ったのですが、以前、参加した富山県主催の移住イベントで「富山では収入の割りに手元に残るお金が多い」というデータがあることを知りました。確かに私自身、体感では「生活費が高い!」とは感じませんが、データがあると聞くとドキっとしますね。近年の働き方改革やコロナ禍で新しいライフスタイルが求められるなか、子供が大きくなる頃には、「地方」「都会」という概念が変わっていくような、そんな可能性を感じさせてくれる話です。
まとめ
以上が、東京からの地方への移住を経験した私が感じている富山県への“子育て移住”のメリットとデメリットです。
不安もたくさんありました。不便さもないわけではありません。ですが、不便さとは折り合いをつける方法はありますし、実際に生活してみてデメリットを上回る良さを感じています。そして、双子が生まれて子供が3人になったことで、いまの子育て環境が仕事も生活も大事にしたい私に合っている、来て良かったなと感じることが多くなりました。うちの子供たちが通う保育園のお友達も3人きょうだいの家が多いのですが、富山の子育て環境が関係あるのでしょうか。
さて今回は親の立場からの移住のお話でしたが、実際に富山で沢井家の子どもたちはどんな風に日常を過ごしているのでしょうか? 季節の遊びを織り交ぜながら、子どもたちとの日々の暮らしを紹介したいと思います。
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