オケラといえば、童謡『手のひらを太陽に』の歌詞に登場することでおなじみ!誰もが口ずさみその名を口にしたことがあるのに、「オケラってなに?虫?」という方も多いですよね。実は、オケラはハイスペック昆虫で、しかもかわいいと人気上昇中な昆虫なのです。今回は、そんなオケラさんを昆虫芸人の堀川ランプさんが徹底解説します!
堀川ランプさんの昆虫記事
» 近場で昆虫観察!虫の探し方
» カマキリの卵と孵化
» ダンゴムシ徹底解説
⇓ もっと見る
(監修プロフィール)堀川ランプ
昆虫大好き芸人。変形菌にも詳しい。日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程修了。理系の研究発表を模した白衣スタイルでおこなうフリップ芸が人気。Youtubeで「堀川ランプの昆虫列伝」を配信中。日本変形菌研究会会員。成虫の会メンバー。当記事のイラストはすべて堀川ランプさん本人のよるもの!
» 堀川ランプtwitter
» 堀川ランプの昆虫列伝youtube
※当サイトの内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
1.オケラとは?
オケラの正式名称、何の仲間?
オケラの正式な名称は「ケラ」です。じゃあ「オ」はなにか?というと、実は、お菓子・お芋・お肉などと同じ“接頭語”なのです。
オケラは、茶色い体に密集した細かい毛、シャベルのような前脚で土を掘る姿がモグラによく似ていますが、実は昆虫の仲間、それもコオロギの仲間です。土の中での生活に適応していった結果、モグラもオケラも似たような姿になっていったんですね。あまりにも姿形が似ているので、英語では「モールクリケット(Mole cricket、意味=モグラコオロギ)」と呼ばれています。サイズはモグラよりもうんと小さく、実は目がくりっとしていてかわいいですよ。
「オケラになる」の意味は?
ギャンブルなどでお金が全くなくなることを意味する“オケラになる”という言葉があります。諸説ありますが、これはオケラが前脚を突き出している様子がまるでバンザイをしているように見えることから、オケラのようにお手上げ状態になるという意味が込められているそうです。また、何の役にも立たない存在を意味する“虫ケラ”という言葉がありますが、これはオケラが良くも悪くも、人にとっては何も役に立たないことが由来とされています。役に立たなくても、歌になったり慣用句になったりしているのは、オケラの持つかわいらしさが人々の心を掴んでいるからかもしれませんね!
オケラがいる場所・時期
オケラは、田んぼや湿地など水のある環境を好み、一生のほとんどを土の中で過ごしています。自慢の前脚で土を掘り、植物の根や、ほかの小さい生き物を食べて生活しています。なので、普段の状態では見つけるのが難しい昆虫なのです。
しかし、1年のうちの限られたシーズンだけ地上にも出てくるので、ぜひそこを狙って観察してみましょう。オケラが地上に姿を現すのは春~初夏の夜、空を飛び、繁殖に適した場所やパートナーを探します。この時期に街灯のまわりを丁寧に探すと、飛来するオケラに出会えることがありますよ。
近年は田んぼや湿地が減少してしまい、オケラの生息数も減少しつつありますが、それでも、都内の河川敷のグラウンドなどでまだ見ることできます。たくましいですね。
オケラの鳴き声
春~初夏は、オケラたちにとっては恋の季節。オスのオケラは求愛のために、自分で地中に掘ったトンネルの中で翅(はね)を擦って鳴き声を出します。発せられた鳴き声はトンネルの壁に反響して、地上にも聞こえるくらい大きな音になります。周りが静かな環境なら、土の中からオケラが「ジー」と鳴く声を聴くことができるかもしれません。オケラが鳴くことを知らなかった昔の人は、この音を「ミミズの鳴き声」だと勘違いしていたのだとか。春から初夏の時期に足元から「ジー」と聞こえたら、それはオケラの鳴き声です!
2.オケラの特徴 実はハイスペック昆虫!
オケラの前脚は自慢のシャベル
オケラの一番の特徴は「前脚」! 前脚全体がシャベルのようになっていて、爪があります。小さくてもハイパワーで、土の中をぐんぐんと掘れる穴掘り名人。もしオケラを捕まえたら、手にのせて観察してみましょう。土を掘ってもぐっていくような感覚で指の間に短い前脚をねじ込み、こじ開けようとしてきます。オケラの体を指で包み込むように持ってあげると、指と指の間を強引にこじ開けて脱出しようと動き回るオケラの感覚を楽しむことができます。小さな体に似合わないそのパワーをぜひ体験してみてください!
※力が強いうえに前脚には爪が生えているので人によっては痛いと感じる場合がありますので、ご注意ください。
水陸両用、しかも飛べる!
普段は土の中にいるオケラですが、実は泳ぎも大得意!オケラにとって大雨などで巣穴が水没することは日常茶飯事なので、泳ぐ能力はオケラにとって生きていくために必要な能力なんです。また、オケラの能力はそれだけではありません。背中に小さくたたんである翅を広げて、空を飛ぶこともできるんです。これはオケラが生息範囲を広げたり、恋の相手を探すときに役立っています。
そのほか、先述したように、オケラはコオロギの仲間なだけあって、翅を擦り合わせて鳴くこともできます。多くのコオロギの仲間はオスだけが鳴きます。オケラも基本的にオスが鳴きますが、なんとオケラの場合はメスも小さな声ですが鳴くことができるそうです。
陸・水・空すべてを制覇し、おまけに鳴くことができるオケラ。しかし「いろいろなことができるけど、どれも一流ではない器用貧乏」のことを表す“オケラの七つ芸”“けら芸”という言葉もあるのだとか。オケラにとっては不本意極まりない話ですね!
植物もミミズも食べる雑食
オケラはとても食いしん坊。植物の根や土の中にいるミミズ、ほかの小さい昆虫などなんでも食べてしまいます。先述のように都市開発などの影響でオケラが住みにくい環境になりつつありますが、そのなかでもたくましく生きているのは、雑食ならではの生命力かもしれません。『手のひらを太陽に』で歌われているように、オケラがいつまでも昆虫キッズにとって身近なかわいいともだちでいてほしいものです。
3.オケラの採集の仕方
田んぼよりも身近な場所は?
オケラの採集方法でよく図鑑などに書いてあるやり方は「田んぼの代かき(田植えの前の田んぼに水を張り土と混ぜ合わせる稲作の下準備)のときに、土の中のオケラが巣穴ごと掘り返されるのでそこを狙うと簡単」というもの。確かにオケラを捕まえる簡単な方法ではあるのですが、最近は田んぼ自体が少なくなっているので、手軽な方法とは言いにくいでしょう。ここではそれより身近な場所でオケラを採集できる方法をお教えします!
時期は「4~6月の夜」が狙い目です。この時期のオケラは、先述のように、夜になると地表に出てきて空を飛び、新たな生息地や異性との出会いを探します。この時、近くに街灯があるとオケラたちはその光に集まってきます。その光に集まってきたオケラを狙って採集するのです。オケラが好むのは水分の多い環境なので、コンクリートで護岸されていない川沿いの土手の街灯の下などを探してみてください。条件さえ整っていれば都会の中でもオケラに出会うことができます。
オケラ採集のポイント
オケラは意外とすばしっこいうえに、手でつかむと強力な前脚のシャベルで指と指の間をこじ開けて脱出しようとします。なので、採集の時には透明なプラケースを持って行き、捕まえたオケラをそこに入れてゆっくり観察してみるとよいでしょう。モグラのようなフォルムや力強い前脚の形など、手で持って観察するよりも細かく見ることができます。
4.オケラの飼育方法
必要なものは2つだけ!
オケラの飼育には、特別な用品は必要ありません。100円ショップで売っているようなプラスチックの虫ケースとホームセンターなどで売っている水苔。これだけで十分です!
セットの仕方も簡単。湿らせた水苔を押し固めながら、5センチほどの深さまで容器にいれたら、あとはオケラを投入するだけ。容器に入れたオケラは、自力で水苔を掘って潜っていきます。一晩もすると、オケラが作ったトンネルが容器の外から観察できます。
土ではなく水苔を使用するのは、土を使うと飼育セットが重くなって扱いにくくなってしまうことと、ケースの内側が汚れて観察しにくくなってしまうためです。
オケラの餌は?
先述のように、オケラはなんでも食べる雑食性です。ニンジンや煮干し、金魚の餌、高タンパクな昆虫ゼリーなどを、オケラが作ったトンネルの中に置くような形で置いてあげましょう。食べ残しは、カビの原因になるのでこまめに取り除きましょう。
オケラ飼育のポイント
ケンカや共食いの原因になるので、オケラはなるべく1匹ずつ別の容器で飼いましょう。また、オケラは空腹と乾燥にとても弱いので、餌の入れ替えと霧吹きを使った加湿はこまめに行いましょう。
繁殖させたいときは
オケラのメス。オス・メスの見分けは、翅の筋が目安。
オケラを繁殖させたいときは、大き目の容器にオスとメスをつがいで入れて飼育します。オケラのオスとメスを見分けるのはとても難しいのですが、翅の筋が平行に入っているのがメス、横や斜めに太い筋が入っているのがオスです。また、野外からとってきたメスはすでに交尾を済ませていて卵を産む準備ができている場合もあります。
うまくいくと初夏にメスが地中に卵室と呼ばれるウズラの卵ほどの空間を作り、そこに卵を20~40個産みます。卵は2~4週間程で孵化しますが、すぐには卵室から出てきません。オケラの幼虫が卵室から出て活動を始めるのは、孵化からさらに1~2週間後になります。
生まれたばかりのオケラは、体長6ミリほど。成虫をそのまま小さくしたようなかわいらしい形をしています。
生まれたオケラの幼虫の飼い方は成虫と同じですが、体が小さい分、成虫よりさらに乾燥に弱いので霧吹きはこまめに行いましょう。上手に飼えば1~2年生きるので、頑張って飼育にチャレンジしてみてくださいね。
昆虫好きにおすすめの記事
堀川ランプさんのカブトムシ・クワガタ記事
» カブトムシ・クワガタ採集ガイド
» カブトムシ幼虫の育て方ガイド
» クワガタ幼虫の育て方レポート
» 冬のクワガタ幼虫採集
<虫が苦手…というママパパにはこちら!>
『るるぶKids こわくない!カブトムシ・クワガタの採集と飼育』
子どもが昆虫採集や飼育をしたがっても、親である自分は虫がこわくて触れない…。そんなママパパたちのリアルな虫問題を解決する1冊!「親パート」「子どもパート」に分かれた前代未聞の二部構成+「3大特別付録 自由研究セット」つきで、親子の楽しい採集・飼育体験を徹底サポートします!
書名 | 『るるぶKids こわくない!カブトムシ・クワガタの採集と飼育』 |
---|---|
定価 | 1650円(10%税込) |
判型 | AB判、本誌96ページ(ソフトカバー)、別冊付録32ページ(いずれもオールカラー) |
発売日 | 2023年6月23日(金) |
発行 | JTBパブリッシング |