毎年、夏から秋にかけては台風がやってきます。台風が近づいてくると、強い風や大雨などで、災害が発生することも。電車や船、飛行機が止まり、楽しみにしていたイベントや旅行が中止になってしまうと本当にがっかりしますよね。この厄介な台風は、いったいどんなものなのでしょうか。しくみや予報の見方、対策などについて、ママ気象予報士の今井明子さんがお答えします!
サイエンスライター・気象予報士 今井明子さん
京都大学農学部卒。2児の母。天気の話を中心に、生き物や自然にまつわる記事や書籍を多数執筆。気象科学館の解説員や防災講師、親子向けお天気実験教室の講師なども務める。著書に、「面白いほどスッキリわかる! 世界の気候と天気のしくみ」(産業編集センター)、「こちら、横浜国大『そらの研究室』! 天気と気象の特別授業」(共著、三笠書房知的生き方文庫)などがある。
台風とは?台風ができてから消えるまでを解説
台風はどうやってできるの?
台風のふるさとは、赤道近くの暖かい海の上です。太陽で照らされた暖かい海からたくさんの水蒸気が立ち上り、そこから雲ができて集まっていくと「熱帯低気圧」と呼ばれる低気圧ができます。この低気圧が発達し、中心付近の気圧がどんどん下がっていくと、熱帯低気圧に吹き込む風が強くなります。そして熱帯低気圧の中心付近の最大風速(10分間の平均)が約17m/s以上になると「台風」と呼ばれるのです。
台風はどうやって消えるの?
赤道付近で生まれた台風は、赤道の上空を吹いている「貿易風」と呼ばれる東風に乗り、太平洋高気圧のへりを通って北西に進んでいきます。そこである程度北に行くと、今度は上空には偏西風と呼ばれる西風が吹いているので、進路を東に変えて北東に進みます。
台風のエネルギー源は、暖かい海が蒸発してできた水蒸気です。台風が北のほうに行くと、海が冷たくなっていくので、次第に台風も海からエネルギーをもらえなくなり、弱っていきます。よく天気予報で「台風が熱帯低気圧に変わりました」というフレーズを耳にしますが、それは台風が弱って中心付近の最大風速が約17m/s未満になるからです。こうして次第に勢力を弱めて、やがて台風は消えてしまいます。
しかし、台風にはもうひとつの末路もあります。北の方にいくと、台風の暖かい空気と北からの冷たい空気がぶつかり、前線ができて、台風が温帯低気圧(いわゆる、私たちが普段「低気圧」と呼んでいるもの)に変わります。すると、再び雨や風が強くなったり、雨の範囲が広がったりすることがあります。しかしこの温帯低気圧も、そのうち勢力が弱まって消えていきます。
台風の中はどうなっている?台風の目とは?
台風は、たくさんの積乱雲(いわゆる雷雲)が集まって渦を巻いています。台風は下から風が反時計回りに中心へと吹き込み、それが上昇して上から時計回りで吹きだします。台風の中心は下降気流になっており、雲ができにくいです。これが台風の「目」で、雨や風が穏やかになります。ちなみに、私は台風の目の中に入ったことがありますが、それまでの強い風雨が嘘のようにやみました。しかし、晴天ではなく、曇り空でした。
台風の目のまわりには、背の高い積乱雲がまるで壁のように高くそびえたちます。この部分は「アイウォール(目の壁)」と呼ばれ、もっとも雨や風が強いです。その周辺は「スパイラルバンド」と呼ばれているらせん状の雲があります。
台風は右が強い?
台風は進路に向かって右半分の風が強くなる傾向にあり、台風の右半分は「危険半円」、左半分は「可航半円」とよばれています。それは、台風の風が地球の自転の影響を受けて反時計回りになることと関係があります。右半分は、台風が進むときの風と台風の風が同じ方向なのですが、左半分は台風が進むときの風と、台風に吹き込む風が打ち消しあいます。それで右半分のほうが風が強いのです。左半分の「可航半円」は「航海ができる」という意味ではあるものの、やはり風はそれなりに強いので、油断は禁物です。
台風とハリケーン、サイクロンの違いは?
台風と呼ばれるのはおもに東南アジアや東アジアにやってくる熱帯低気圧です。発達した熱帯低気圧の中でも北アメリカ大陸周辺にやってくるものは「ハリケーン」と呼ばれ、インド洋や南太平洋にやってくるものは「サイクロン」と呼ばれます。
台風が日本にやってくる時期は?
台風の月別の主な経路 出典:気象庁ホームページ
台風はなぜ夏から秋にやってくるのか?
日本で台風シーズンといえば8月から10月です。しかし、台風はほぼ1年中発生しています。なぜ、日本には夏から秋、特に9月頃にたくさんやってくるのでしょうか。それは日本付近の気圧配置と密接な関係があるからです。
実は、台風は、太平洋高気圧によって通せんぼされてしまうので、高気圧のへりを回り込むようにしか移動できません。夏は太平洋高気圧によって日本列島が覆われますが、夏から秋にかけては太平洋高気圧の勢力が次第に弱まっていきます。そして秋になるとちょうど太平洋高気圧のへりにあたる位置に日本列島があるため、台風が日本列島に接近・上陸しやすくなるのです。
台風の番号のつけ方は?
台風には1号、2号という番号がついています。その年に発生した最初の台風が1号となり、順番に2号、3号と番号が振られていきます。そして年が変わったら、また台風は1号に戻ります。この番号の振り方は、日本国内だけで通用する名前のつけ方で、気象庁の予報や新聞やニュースの報道などで使われています。
台風の名前のつけ方は?
「台風3号(グチョル)」など、番号のあとのカッコの中にもうひとつ名前がついているのを目にすることはありませんか? これはアジア名と呼ばれるもので、国際的な報道や学術論文などで使われています。台風はアジアに大きな影響を及ぼすので、2000年からアジアにちなんだアジア名がつけられるようになりました。アジア名はアジア14か国がそれぞれ10個ずつ名前を出し合い、リストにして、台風が発生した順に名前をつけています。アジア名によってアジアの文化を世界の人に知ってもらったり、アジアになじみのある言葉でアジアの人に台風の防災意識を高めたりしてもらおうという意図もあります。
<これ知ってる?>
日本が出しているアジア名
日本が出しているアジア名は、コイヌ、ヤギ、ウサギ、カジキ、コト、クジラ、コグマ、コンパス、トカゲ、ヤマネコの10個で、どれも星座の名前です(2023年7月現在)。
台風の予報の見方とは?
出典:気象庁ホームページ
まず白い円を見よう
台風が発生すると、天気予報では台風の進路予報が発表されます。この予報の見方にはコツがあります。まず、白い円は予報円と呼ばれるもので、今後台風の中心が入る確率が70%の場所という意味です。先のほうの予報になると、予報円がどんどん大きくなりますが、これは台風が巨大化するわけではありません。先の予報になるほど予報が当たりにくくなり、台風が進む可能性のある範囲が広がるので、予報円も大きくなっていくのです。超大型の台風だと風速15m/s以上の範囲が半径800km以上あるので、中心が九州にあっても関東地方の風速が15m/s以上になることもありえます。「予報円の大きさと台風の大きさは同じではない」としっかり頭に入れておきましょう。
黄色は強風域、赤い線は暴風域
ときには、予報円のまわりに黄色い線や赤い線が表示されていることもあります。現在の台風の位置のまわりにある黄色い線は今後風速15m/s以上になる可能性のある「強風域」です。そして、現在の台風の位置のまわりにある赤い線は「暴風域」です。たまに予報円にも赤い線が描かれているときがありますが、それは今後台風の中心が予報円内に進んだときに、暴風域に入るおそれのある「暴風警戒域」と呼ばれる領域です。
風速を時速に変えると風速15m/sは時速54kmとなり、一般道を走る車並みの速さです。そして、風速25m/sは時速90kmになって高速道路を走る車並みの速さです。風速15m/sになると風に向かって歩けなくなり、風で転んでしまうこともあります。今後、黄色や赤い線の中に入りそうな場合は雨だけでなく風の対策もしっかりしておく必要があります。
台風が近づいてきたときの対策のポイントは?
台風が遠くても、海のレジャーは危険!
まず、台風は自分の居場所から遠くにあっても油断大敵です。遠くにある台風の風によって発生した「うねり」と呼ばれる高い波が押し寄せる可能性があるからです。台風が小笠原諸島付近にあるときでも、太平洋沿岸部の波が高いことは決して珍しくなく、ときには数千kmも離れた場所でうねりが観測されることもあります。海水浴や釣り、サーフィンなどのマリンレジャーを予定している場合は、波の情報をこまめにチェックすることをおすすめします。
交通がとまる可能性も!おでかけは十分に検討を
飛行機欠航による空席待ちでごった返す空港の様子
さらに台風が自分の居場所に接近しそうなときは、電車やバスなどの交通がとまる可能性があります。もし台風が最接近するタイミングとおでかけの予定が重なりそうなら、中止や延期を検討したほうがよいでしょう。また、雨と風がピークの時期に外出するととても危険です。水や食料などは早めに準備をして、外出せずに済むようにしておきましょう。
ベランダや庭にあるものは室内へ
大雨が降る前や強い風が吹くようになる前には窓や雨戸はしっかりと鍵をかけて、必要に応じて補強しておくと安心です。ベランダや庭にある物干し竿や植木鉢などの飛ばされそうなものは、あらかじめ室内に入れておいてください。これらのものが風に飛ばされると凶器になります。側溝や排水溝もあらかじめ掃除しておき、大雨が降っても詰まらないようにしておきましょう。
避難場所の確認、防災用具は日頃から準備を
いざというときは避難できるように、近くの避難場所や避難経路を、親子でしっかりと確認しておきましょう。懐中電灯や携帯ラジオ、救急用品などの防災用具は日頃から準備をしておくといいですね。そして、避難所が開設されたら雨風がピークを迎える前に避難を済ませましょう。
お天気をもっと学ぼう!今井さんおすすめスポット
気象科学館(東京都/港区)
気象庁の庁舎の2階にあり、無料で気象・地震・火山について学べる科学館です。館内には気象予報士の資格を持つ解説員が常駐していますので、天気について知りたいことがあればぜひ質問してみましょう。展示フロアでは「うずのすけ」という台風や竜巻のしくみを学べる展示があります。また、クイズ形式で地震や台風、大雨が来たときにどこが危険かを学べる「災害ポイントウォッチャー」もあります。
住所 | 東京都港区虎ノ門3-6-9 気象庁2F |
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問合先 | 03-6758-3900(気象庁代表) |
営業時間 | 9~20時 |
休館日 | 毎月第2月曜、火曜(月曜が祝日の場合は、火・水曜)、そのほか臨時休館あり |
料金 | 無料 |
アクセス | 公共交通:東京メトロ虎ノ門ヒルズ駅→徒歩4分 |
駐車場 | なし |
日本科学未来館(東京都/江東区)
吹き抜け空間にある「ジオ・コスモス」と呼ばれる巨大な球体ディスプレイに注目! 1万枚を超えるLEDパネルに、人工衛星が撮影した最近の雲の画像が表示されます。ちょうど秋は熱帯で生まれた台風やハリケーンが反時計回りに回転しながら移動する様子が観察できます。そして、南半球に発生するサイクロンは回転の方向が時計回りなので、そこにも注目してみてください。
住所 | 東京都江東区青海2-3-6 |
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電話 | 03-3570-9151 |
営業時間 | 10~17時 |
定休日 | 火曜(ただし祝日や春夏冬休み期間などは開館の場合あり)、年末年始(12/28~1/1) |
料金 | 大人630円、18歳以下210円(土曜のみ18歳以下無料)※6歳以下の未就学児無料 |
アクセス | ゆりかもめテレコムセンター駅から徒歩4分 |
駐車場 | 167台(1時間/440円、最大1650円) |
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