古くから夏の風物詩として親しまれてきたホタル。今でも水のきれいな里山ではよく見られ、初夏には多くの人がホタルの観賞スポットに集まります。そんなホタルを一年中見られるのが、埼玉県の東武動物公園内にあるホタルの飼育・観賞施設「ほたリウム」。施設では卵から成虫まで、あわせて約1万匹のヘイケボタルが飼育されています。そんな「ほたリウム」の神長さんに、野生のヘイケボタルの生態や観賞前に知っておきたいポイント、「ほたリウム」の楽しみ方をうかがいました。
神長 正(かみなが ただし)さん
東武動物公園「ほたリウム」の飼育係。子どもの頃から魚が大好きで水族館勤務を目指しますが、縁あって東武動物公園で働くことに。「ほたリウム」のオープンが決まると、ホタルの飼育係に抜擢されました。それ以来、約17年にわたってヘイケボタルを飼育し続けるスペシャリストです。「ほたリウム」では年間を通してヘイケボタルを羽化させる飼育技術を確立。その飼育技術と飼育用装置は、2018年6月15日に特許を取得しています。
ほがらかな神長さんは子どもたちにも大人気。神長さんをモチーフにしたキャラクター「カミナガさん」も登場し、マスコット人形はおみやげとして好評です。
ヘイケボタルってどんな生きもの?
日本にホタルは何種類いるの?
ホタルは世界に約2000種類が生息するといわれています。そのうち日本で確認されているのは約40種類。ホタルと聞くとピカピカと光りながら飛ぶイメージですが、実は光らない種類のほうが多いんです。日本で発光するホタルは10種類程度で、ヘイケボタル、ゲンジボタル、ヒメジマボタルが有名です。
ヘイケボタルが見られる時期はいつ?
野生のヘイケボタルの観賞は6月下旬から7月下旬にかけてがシーズン。この時期にヘイケボタルはさなぎから成虫になり、光を放ちながら飛ぶ姿が見られます。
ヘイケボタルが生息する場所は?
ヘイケボタルは北海道から九州まで、南西諸島をのぞく日本全国で見られます。日本の固有種ではなく、中国東部やシベリア東部などにも生息しています。
ゲンジボタルが河川に生息するのに対し、ヘイケボタルは流れのない穏やかな水域を好みます。清流を好むゲンジボタルに比べると適応環境が広く、水田や池、湿原などで繁殖します。
ヘイケボタルは幼虫も光る!?
ヘイケボタルの幼虫は水の中に生息しています。エサはタニシやサカマキガイ、モノアラガイなどの淡水の巻貝。食欲旺盛な肉食昆虫です。しかし不思議なことに成虫になると何も食べず、水を飲むだけで一生を終えます。
成虫になると光を放つヘイケボタルですが、卵や幼虫、さなぎの状態でも光ります。ただし光る理由が異なり、成虫がコミュニケーション(求愛)のために光るのに対し、卵や幼虫、さなぎは外敵から身を守るための警告として光を発していると言われています。
また成虫と幼虫はお尻あたりが光り、卵とさなぎは全体的に光を放つのが特徴。ちなみに卵、幼虫、さなぎ、成虫を通して光るホタルは、日本ではヘイケボタル、ゲンジボタル、クメジマボタルの3種類です。
ヘイケボタルのオスとメスの違いは?
ヘイケボタルの成虫はメスのほうが少し大きく、オスが約1cm、メスが約1.2cm。腹部の後ろにある発光器はオスのほうが大きく、2本線で強く発光します。メスは1本線でオスよりも発光が弱いのが特徴です。またオスは光りながら飛び、メスは光を発しながら葉の上などにとまっています。これはオスの求愛にメスがこたえる行動と考えられています。
野生のヘイケボタルの一生をチェック!
野生のヘイケボタルはちょうど1年で卵から成虫になります。どんな人生(虫生!?)なのか、見てみましょう。ただし見られる時期は気温などの条件により変わるので、地域によって少しずつ異なります。
ゲンジボタルの一生はこちらの記事で紹介しています。
【野生のヘイケボタルの一生】
7月上旬……産卵
ヘイケボタルは水辺の苔や草などに産卵します。メスは一度に50個から100個の卵を産み、卵は20日前後で孵化します。
↓
7月下旬~10月下旬……幼虫
生まれたばかりの幼虫は体長1~2mm。脱皮をしながら成長し、さなぎになる直前の終齢幼虫では1~1.5cmくらいになります。
↓
11月~5月中旬……越冬
水温が下がると動きが鈍くなり、あまりエサは食べません。この時期は石の下などに隠れて冬を越します。
↓
5月下旬~6月上旬……さなぎ
夜になって上陸した幼虫は土の中にもぐりさなぎになります。
↓
6月下旬~7月下旬……成虫
さなぎは30日ほどで成虫となり、土の中から這い出て飛び回ります。交尾し卵を産んだ成虫は、約10日間の短い命を終えます。
マナーを守って全国のホタル観賞スポットへ
ホタルは光を放つことでコミュニケーションをとっています。そのためホタルの生息地では光を出さないようにしましょう。それ以外にもホタルを観賞する際に注意すべき点、マナーを覚えておきましょう。
- ホタルの生息地を懐中電灯で照らさない。
- ホタルを観賞する際は携帯電話の液晶画面を隠す。
- 写真撮影にはフラッシュを使用しない(携帯電話も同様)。
- 自動車で訪れるときはヘッドライトの影響を考える。
- ホタルは見るか撮るだけ。採集は厳禁。
- 夜間の観賞なので大きな声など騒音を出さないように。
- 生息地を汚さないように、ゴミは持ち帰る。
- ホタルを踏んでしまう危険があるので草むらに入らない。
全国のホタル観賞スポット・ホタル祭り
全国約160件のおすすめホタル観賞スポット・ホタル祭りをエリアごとに紹介します。ガイド付きのホタル観賞会を予定しているスポットも約20件あります。
■ 北海道・東北
北海道・東北(青森・山形・福島)
■ 関東
関東のホタル祭りやガイド付き観賞会10選 /
栃木 / 群馬 / 埼玉 / 千葉 / 東京 / 神奈川
■ 東海
東海 / 岐阜 / 静岡 / 愛知 / 三重
■ 甲信越・北陸
山梨 / 長野 / 新潟 / 北陸(富山・福井)
■ 関西
関西(滋賀・京都・奈良) / 大阪 / 兵庫 / 和歌山
■ 中国・四国
中国(鳥取・広島) / 島根 / 岡山 / 山口 / 四国(徳島・香川・愛媛・高知)
■ 九州・沖縄
九州(長崎・熊本・宮崎) / 福岡 / 佐賀 / 大分 / 鹿児島 / 沖縄
ゲンジボタルの一生はこちら
» ホタル観賞Q&A(飛ぶ条件や時間は?なぜ光る?)生態やマナーもチェック
1年中ホタルが見られる東武動物公園の「ほたリウム」
発光しながら飛ぶヘイケボタルは初夏にしか見られない風物詩。でも東武動物公園の「ほたリウム」なら、暗闇で光るヘイケボタルがいつでも見られます。「ほたリウム」では長さ2m×幅2m×高さ3mの大型水槽に約100匹のヘイケボタルの成虫、またバックヤードにある飼育スペースでは約1万匹の卵と幼虫を飼育。水槽内にはホタルの幼虫が暮らす水域と、成虫が産卵する陸地が再現されています。約1万匹の幼虫を飼育するために、エサとして1日に約300gもの巻貝を与えています。
2004年にオープンし大きな話題となった「ほたリウム」ですが、3年ほど経った頃、突然ホタルが羽化しなくなってしまいました。飼育係の神長さんが原因を探るも、改善できないまま4年が経ってしまったのだとか。
「何をしても結果が出ず、悔しい日々を過ごしました」という神長さんですが、それでも諦めず毎日のように野生のホタルを観察し、試行錯誤をしながらホタルの飼育を続けました。そのかいあって、羽化しなくなった原因が飼育温度にあることを突き止めます。そして、ついに年間を通してヘイケボタルを羽化させる飼育技術を確立。今では毎日、ホタルの光が見られるようになっています。
「ほたリウム」でのホタル観賞の流れ
「ほたリウム」ではどのようにヘイケボタルを観賞するのか、流れを簡単に紹介しましょう。
ホタルの光は弱いので、まずは暗闇に目を慣らす必要があります。スタッフの案内に従って暗室へ。壁沿いにバータイプのベンチがあるので、座って待機します。
電気が消され、約6分間、だんだんと目が暗闇に慣れてきます。ホタルの生態についてビデオが流れるので、それを見ているとあっという間に時間が過ぎます。
ホタル観賞の部屋へ移動。大きな水槽の周りにコの字型に椅子が並んでいるので、好きなところに座ります。カーテンがあがると、目の前に幻想的なホタルの光が!
目が暗闇に慣れるにしたがって、ホタルの光が輝きを増していきます。ホタルの観賞は約7分。はかなくも美しい光のショーを楽しんでください。
部屋から出て通路へ。出口付近にはヘイケボタルの一生などの展示があります。
「ほたリウム」の料金や営業時間は?
「ほたリウム」は東武動物公園の西ゲート寄り、西ゲートから徒歩10分弱のところにあります。西ゲートと東ゲートとの間は約2㎞あるので、東ゲートからは徒歩15分ほど。「ワニ館」と「リスザルの楽園」に挟まれています。
「ほたリウム」の開館時間や料金は以下のとおり。
営業時間 | 11~16時(夏季は11時30分~17時) |
---|---|
料金 | 400円(のりもの券4枚)。アトラクションパス、トッピー倶楽部(年間パスポート)も利用できます。 ※別途、東武動物公園の入園料が必要です |
所要時間 | 約20分。1回31名までの入れ替え制 |
年齢 | 小学生以上はひとりで観賞できます。幼稚園児以下は、中学生以上の付き添い(有料)が必要です。 |
東武動物公園に行こう!
「ほたリウム」がある東武動物公園は、動物園と遊園地が融合したハイブリッドレジャーランド。動物園には120種1200頭の動物が飼育され、ウサギやヒヨコに触れたり、ゾウやヤギに餌をあげたり、体験プログラムも充実しています。
また遊園地はスリル満点の絶叫アトラクションから、年齢・身長制限なしのアトラクションまで揃っています。ぜひ「ほたリウム」と一緒に楽しんでください。
動物園・遊園地の記事
» 【動物園編】東武動物公園徹底攻略!エサやりや抱っこなど、ふれあい体験がいっぱい
» 【遊園地編】東武動物公園徹底攻略!小さな子どもにおすすめのアトラクションも網羅